時計+人形

のんべんだらりんごった煮サイト

雪唄10

01.雪合戦


先日夜半から降り出した雪は、次の日の朝庭を真っ白に染めていた。
「おー、こりゃスゲェな」
「雪かきが大変だな…手伝ってくれよ」
「へいへい、仰せのままに」
…そんな風に、真面目にさかさかと雪をかいていたのは最初の方だけで。
ぱしゃっ。
「ぶっ」
「如何した? トロいな、忍者の若旦那」
「…人が真面目にやっている時にお前は何をしている、っ!」
後頭部に当てられた雪球への報復に、後ろを向いたままこっそり固めた返し刃を放る。
が、あっさりと避けられた。
「フェイントにしちゃア、単純だな!」
「抜かせ! 飛水流奥義、とくと見よッ!!」
手加減なしのぶつけ合いをすること数刻。
結局雪かきを明日に回し、二人で火鉢にへばりつくことになる。



魔人・村如。熟年夫婦がガキ臭いことやるのが大好きです(痛)






02.初雪  



「初雪を一番最初に触れた人は、幸せになれるんですよ」
また下らない事を、と思って心持ち強く睨んでやった幸人に、あ、信じてませんねと凌駕は唇を尖らせた。
「今日寒いし、もしかしたら降るかもしれないですよね〜。初雪、初雪」
変な節をつけながら自分の少し前を歩いて行く男に対し幸人は無視を決め込む。
空気は本当に冷え込んでいるので、お互い手袋をしていない手をコートのポケットに突っ込んで歩き続けていた。
「――――…あ!!」
不意に、空を見上げて歩いていた凌駕が、大声を上げた。
何か、と問う前に幸人に駆け寄り、無理矢理手をポケットから抜き取って走り出す。
「おいっ!?」
動揺する幸人に構うことなく、凌駕は手首を掴んだ掌をぐいっと上に向けさせて。

ほわり、と冷たく落ちてきたものが、あっという間に掌の上で溶けた。

「………」
固まったまま沈黙する幸人に対し、凌駕はやはり笑顔で。
「これで三条さん、幸せですねっ」
「………下らん」
呆れたように溜息を吐き、幸人は凌駕の手を払う。そのまま歩いて行くのかと思いきや、
逆に凌駕の掌をしっかりと握り締め、歩き出した。
「え、わ、三条さん?」
つんのめり、僅かに動揺した声を聞きながら、幸人は振り向かず足早に歩き続ける。
幸せになれるというのなら絶対にこの手は必要なのだ、という言葉をどうにか奥歯で磨り潰しつつ。



アバレ・青赤。どーしてこの二人こんなにリリカルなんだろう(真剣)





03.雪だるま  



帰り道、道端に積もった雪で戯れに作った雪人形。
あの人に見せてあげたいと、僅かに浮かれた心を堪えて家路を急ぐ。
「ただいま、帰りました」
「ああ」
暖かいリビングに入って息を吐き、ソファで医学書を読んでいた羽村の視線が自分に、
そして自分の手の中の塊に動いた事に気づき、それを差し出す。
「何だ? それは」
「雪だるまですよ。良かったら、どうぞ」
「…雪、か」
「はい」
手の中にそっと置かれた白くて丸くて小さなそれは、部屋の熱と掌の熱で見る見るうちに溶けていく。
その様すら興味深いのか、ぽたぽたと雫が膝に落ちるのも構わず羽村はじっとそれを見ている。
やがて完全に溶けてしまったところで、トーマは用意していたタオルを差し出した。
「無くなったな」
「はい。…あの」
「うん?」
もうすでに僅かな水しか残っていない自分の掌をじっと見ていた瞳が、ほんの少しだけ淋しそうに見えたので。
「後で、一緒に作りませんか?」
「ゆきだるま、をか?」
「はい。今年は雪が多いから、きっと大きなものが作れますよ」
「…作り方が解らない。教えてくれ」
「はいっ」
きちんと手や膝や床を拭い、防寒装備を整えて。
二人で一緒に、真っ白な外へ出ることにした。



バベル・はむとま。久しぶりで楽しいー。これぞリリカル(何)。






04.新雪



「うわー…まーチャン、雪だよー!」
「凄いねこりゃ。前の階層の水分が落ちてきて冷却されてるにしてもこれって…」
「御託はいいからとっとと進むぞ。俺は寒い」
国譲りの神話が描かれる遺跡の階層にて、大騒ぎをする影が三人。
「甲太郎って本当ワガママだよなー。熱いっていやー文句いうし、寒いっていやー文句いうし」
「うんうんッ。皆守クンももう少し我慢することを覚えないと―――うひゃあ!?」
ずぼ。
素っ頓狂な叫びをあげて、八千穂の背が一気に半分ぐらい低くなった。
「やっちー!? 大丈夫!?」
「う、うんっ平気。びっくりした〜…」
くぼんでいた部分に新しい雪が積もり、天然の落とし穴になっていたらしい。
引き上げた真逆に礼を言い、うー冷たい〜!と慌てて足についた雪を払っている。
「何やってんだ、馬鹿」
「ごめん〜」
「これって罠じゃなく自然現象みたいなもんだから、しょうがないよ。気をつけて進―――むぉっ!?」
ずぼ。
「…おい、宝探し屋」
「ふ…不可抗力デスヨ? 不可抗力」
同じような場所に思いっきり嵌ってしまった本職の人間に、皆守の冷たい視線が刺さる。
「…ったく。ほら、さっさと出て来い」
「おおぅ、ありがとー甲太郎、でもその辺多分同じような場所だから気を」
ずぼ。
「………つけないと同じく嵌るよ、と言いたかったんだけど」
「あ、ははは…これで皆一緒だねぇ」
「…もういい。俺はこのまま寝る」
「死なば諸共な拗ね方しないで! 頑張ろうよ! 頑張って脱出しようよ!」



九龍・3−Cトリオ。この三人も好き好きー。いやストーリー上ではこんな暢気な話してないでしょうが。







05.雪うさぎ  



これはあくまで実験だ。
どうにも自分にとって不似合いな、間抜けなものを作っているとしてもだからやむを得ないのだ。
お盆の上にそれなりに見目良く盛られた何の変哲もない雪。
緑の耳はミントの葉。
赤い目は南天じゃなく、コンビニ弁当に入ってた梅干で代用。
―――実験開始。ニセモノのウサギを蛇は丸呑みするか否か。
さりげなくダイニングテーブルの上に置き、隣の部屋で知らんぷりを決め込む。


実験結果。
「うーん…大体予想通りだけど、意外といえば意外」
やはりテーブルの上に置かれたお盆。
残っているのは、丸まんま残っている緑色の葉っぱと、僅かに齧った痕がある梅干が2個。
「刺激物より、雪の方が美味しかったんだ?」
「…足りない」
「はいはい、雪なんて水だしね。今焼きそば作ってやるからさ」



龍騎・タケマメ。これも久々だなー。相変わらずお子様とケダモノのコンビです。







06.かまくら



例年にない雪の降りようは、億劫を通り越して半分ヤケになってくるもので。
「明日夢。かまくら作ろう、かまくら」
「え、かまくらですか?」
「鍛える一環としてさ、ね?」
絶え間ない雪かきに一筋の光明を、とでも思ったのか。
どさどさと大量の雪を一箇所に集め。
「…これぐらいですかね?」
「うん、量的には」
ぺたぺたと体重をかけて雪を固め。
「よし、乗ってみ」
「よい…しょ、大丈夫みたいです」
「んじゃ俺も、うぉっと!」(ずぼ)
「…もうちょっと固めましょう」
ざりざりと山の中を削っていく。
「あ、ダメだこれ以上削ると穴開く」
「上も崩れそうですよね…案外かまくらの壁って厚くしなきゃ駄目なんですね」
「んー、寒さを防ぐ為にもね。ただこれだとさぁ…」
「…狭い、ですね」
やはり勝手が悪いのか、二人の手ではこれが限界か。
どうにか完成した雪の洞は、頑張って半畳。
二人で入って座ると、もういっぱいで。
「…まぁ、ぴったりじゃない?」
「え…ぁ、はい…」
暖かいのだから、それで良しとしましょう。 



鬼・アスヒビ。あー…楽しい…(悦)






07.雪あかり



「あ。雪…」
夜中に目が覚めて、随分外が明るい事を不思議に思っていたら。
ここ熊本では珍しい、空から降る雪が見えた。
「積もったらええなぁ…あ、でもなっちゃんが外出られんくなるから、やっぱあかん」
止めー止めー、と一生懸命祈りを捧げる少女の声で、ベッドに横になっていた少年も目を覚ました。
部屋の肌寒さと、ろくに服を付けずにベッドの縁に座り窓を眺めていた少女の後姿に白い息を吐き出し。
両手の力でいざり寄り、少女の腰に手を回した。
「何やってる。寒いだろ」
「ふぁ!? かんにん、なっちゃん起こした!?」
「? …雪か。珍しいな」
不意にぬくもりに巻きつかれて動揺する少女をしっかりと腕の中に収めてから、少年も窓の外の明るさに気付く。
「結構降ってるのか?」
「うん。もしかしたら朝積もってまうかも」
「そうか、良かったな」
「え…?」
意外すぎる台詞が少年の唇から漏れ、少女がぽかんと口を開ける。
「何だその間抜けな顔は。お前、降るのを楽しみにしていただろ? ロマンだとか何とか」
訝しげな少年の声に、少女の顔は見る見るうちに熱くなる。
「ぁ、あー…うん…」
「? どうした、加藤?」
「な、なんでもあらへんよ。もう寝よか」
「ああ」
二人で大人しく温かい布団に潜り込み、数刻。
「なっちゃん…明日積もったら、一緒に出かけような。うち、頑張って椅子押すし」
「…考えておいてやる」
小さな約束を交わして、後は静かな寝息が二つ。
 


ガンパレ・夏祭。ガンオケで熱がぶり返しましたゴー。
もうなるたけ平和になった九州で幸せに暮らせばいいよ。別にオケシリーズに出てこなくて良いからー。







08.ぼたん雪



見上げる夜の空は、大粒の雪に占拠されていた。
白い塊が次々落ちてきて、見上げた頬に落ち、すぐに溶ける。
それでも雪は止まらずに、頬にも、髪にも、服にも、べたべたとくっつき、積もり続ける。
その柔らかさが何故か心地良く感じ、払い落とす事が出来なかった。
―――粉雪は駄目だ。寒いし、風が吹くと顔が痛いし。
何より、その細かく飛んで吹き散らされる様が、灰を連想させる。
この雪の方が、余程優しい。
誘われるように、巧は積もった雪の上にばさりと倒れこんだ。
一面の白。少しずつ、何もかもを侵食していくそれ。
―――やはり、優しいと思った。冷たいけれど、酷く柔らかい。
「…勇次、」
自分よりもずっと優しくて真っ白だった彼の事を思い出して、また巧は少しだけ泣いた。
涙は全部、牡丹雪の中に吸い込まれていった。 



Φズ・勇巧勇。ここまで書けるようになりました(何)。





09.雪見酒  


江南では、雪は非常に珍しい存在である。
正月近くなって、漸く一度や二度降るか降らないかという頻度であり、積もる事など滅多に無い。
なので、ちらちらと舞うそれがやってきても、兵士たちは寒さに震えるだけで、行軍などに支障は出なかった。
合肥に詰める水軍でも、すぐに止むだろうと何の対策もせず、ただ雪を享受していた。
―――船の舳先、たった一人で胡坐をかく男が一人。
共に杯を交わす相手も無く、手酌で酒を仰いでいる。
周りには他に誰もいない。彼の一人でいる時間を妨げる事は、即斬首に繋がる事を知っているから。
その男―――甘寧は、只一人また杯を仰ぎ天を睨んだ。
―――合肥駐屯軍に、樊城での関羽包囲網が成功したという報告と、
同時に、数多の兵士や将と共に、司令官呂蒙の死が伝えられたのはつい先刻のこと。
戦死ではなく、病死なのだと聞いた。七孔噴血した壮絶な死に様で、関羽の呪いではないかと噂も立っている。
下らぬ。と甘寧は一笑に伏す。
どんな理由であろうと、彼は死んだ。その事実以外に何も無い。
ならば。
「…報恩報復」
飲み干した杯をひゅっと放り投げ、一瞬。
ぱきんっ!と鋭い刃が、それを真っ二つにした。
「…行くぞ」
踵を返す。同時に、兵士たちが鬨の声を上げる。
目指すは、主が望み、自分が望み、何より彼が望んだ孫呉の天下。



蒼天・甘りょも。好きなんじゃー。お頭は別に嘆かないけど、これから少しだけ殺す兵士の数が多くなれば良い(鬼)





10.銀世界



びしゃり、と大量の赤黒い血が、雪の上に散った。
未だ湯気の立つそれを一瞥する事も無く、カイムは立ち上がる。
日が傾くと共に降り出した雪は、その血を覆い再び白一色に戻そうとしている。
その光景に、眉を露骨に顰めた。
不快だと思った。折角紅く染まった世界が、白い色に戻されていく。
白は、不快だ。世界を支える女神が身に付けなければいけない、純潔の色。
最早この世界で唯一と言っても良い、自分が心を砕く存在が戒められなければならないその色。
苛立ちが、再び剣先を動かした。
ざしゅっ、と亜人の悲鳴と共に惨殺音が響く。響く。


「いい加減にせぬか、カイム」
天から響く声に、ふとカイムは我に返った。
辺りを見回すと、紅い色と死体だけ。動くものは自分と、今まさに天空から降りてくる竜しかいなかった。
「北から新しい軍団がこちらに向かっておる。行くぞ」
新しい殺戮の場を与えてくれた存在に、にぃと口元を歪める。
ふん、と鼻を鳴らし、首を伸ばして促すドラゴンの背にひらりと飛び乗った。
まだ雪は降っている。眼下の紅がみるみるうちに白く染まっていく。
それなのに、自分を乗せて空を駆る巨大な背中は、鮮やかな赤を天に翳して。
その事に酷く満足したカイムは、無意識のうちに竜の首を血に塗れた手で撫ぜた。



DOD・主人公と妹と見せかけて主人公と竜。…耐えられなかったんじゃー!(痛)