時計+人形

のんべんだらりんごった煮サイト

風が冷たい日の過ごし方

〜暖を取る〜



「随分冷えてきやがったなァ」
「もう冬だな。昨日のうちに出しておいて良かった」

ごっとん、と音を立てて畳の上に鎮座したのは、巨大な石造りの鉢。
当然中には灰と炭がぎっしり詰まっている。

「こりゃまた、随分と年代モノを引っ張り出してきやがったな」
「文句があるなら当らなくていいぞ」
「つれねェな。有り難くご相伴するぜ。餅焼いていいか?」
「自分で買ってくるなら好きにしろ」
「ちっ、渋ちんが」
「何とでも」

軽口を叩きあいながら、じわじわと熱を放つ鉢を囲む。
それだけでここは随分と温かい。



村如。火鉢でぬくぬく。






〜手を握る〜



「うー、寒い寒い…あれ、兄さん」
「おう! ナガレ、今帰りか?」
「うん。兄さんはトレーニング?」
「ったり前だろ! お前も首縮めてないで付き合え!」
「ちょ、待って手っ…! ストップ!!」
「うお、何だよ! 急に踏ん張るな!」
「手、凄く冷えてるよ! 手袋しないと」
「ああ? これっくらい大した事ねぇよ」
「駄目だよ、鍛えるのと大事にしないのは別物。ちょっと貸して」
「え、おい、おまっ…」

ぎゅっと手を握り締めて、そこに息を吐きかける。
じわりとした温もりが染み込むように伝わってきて、

「〜〜〜〜〜〜っ、バカぁ!!」
「いった! え、何、兄さん?」
「うるせぇ! 先に帰ってるからな〜〜〜〜〜〜〜!!!」(ドップラー効果)
「兄さん!? …???」(置いてきぼり)

どんなに風を切って走っても、
火照ってしまった頬の熱はそう簡単に引きそうに無かった。



555青赤。ナガレ兄はこういうことを照れもせずに素でやるといい。(兄好きすぎ)
そしてマトイ兄の方が散々照れるといい。(鬼)






〜甘える、甘やかす〜



「…やはり、寒い日はこれに限るな」(カリスマ整体師、炬燵独占中)
「ただいまー!!」
「舞か。凌駕はどうした?」
「りょうちゃんときょうそうしてたの。あっ、ゆきとさんみかんたべてる!」
「ああ、美味いぞ。食べるか?」
「うん!」
寒さで頬を真っ赤にした幼稚園児は、鞄を部屋の隅にきちんと置いてから、
幸人の座っている対岸から炬燵布団の中に潜り込んだ。
「こら、危ないぞ」
「えへへ」
直に自分の膝の上に顔を出した少女に溜息を吐きつつも、
自分で剥いた蜜柑の房を一つ手ずから口に入れてやる。
「いや〜、舞ちゃん足速くなったな〜。あっ三条さん、ただいまです!」
「ああ」
「りょうちゃんおそーい!」
「ああっ、舞ちゃん良いとこにいるなぁ。俺もっ!」
「おい?」
止める暇もあればこそ、凌駕は縦に長い身体を折り曲げて炬燵に潜り込み、
幸人の膝の横に顔を出した。
「…つくづく、お前らは親子だな」
「へへ〜。三条さん、俺にも蜜柑くださいっ」
「甘えるな。自分で剥け」
「えー。はぁーい」
残念、と言いつつも差し出された蜜柑を受け取り、うつ伏せのまま皮を剥き始める凌駕に、
幸人は何も言わずに只舞を膝に乗せたまま身体を横に動かし、狭苦しくないようにスペースを空けてやった。



アバレ青赤娘。窮屈な炬燵の使い方。
舞ちゃんに甘い(そして凌駕にも甘い)幸人さん萌へ。(痛)







〜皆で大騒ぎ〜



冷たい風が空からやわらかく舞い散るものを連れてきた放課後。
気がつけば辺り全てにうっすらと白い化粧が施されていた。
「ゆっきだー!!」
制服にジャンパー一枚羽織っただけの鷹也が、喜び勇んで白いグラウンドに駈けてゆく。
「最悪だ、チャリで帰れねぇじゃん。何であいつあんな元気なんだよ…」
厚手のダウンジャケットでしっかり防寒した虎乎がそれでも寒そうに愚痴る。
「奴が冬にはしゃぐのは毎年の事であろう。いい加減慣れよ」
同じくロングコートにマフラー、耳当てにマスクまで完全防備した尋巳も震えながら呟く。
この二人、冬の入り口からこんな格好をしていて本番に耐え切れるのだろうか。
「グランド使えなくなるのは残念だけど、やっぱり冬は雪が無いとね〜!
ねぇねぇトラちゃん、ヒロ、雪合戦やろうよー!」
「絶ッ対嫌だ」「断固拒否する」
「ええー。二人ともそんなに寒いの?」
「マジ寒い。つーか帰る。俺は帰る」
「至極同感だ。鷹也、お前は一人で遊び呆けるが良い」
「じゃあさじゃあさ、おしくらまんじゅうなら良いでしょ? あたっくだーいぶ!!」
「だっバカ、もろ雪ん中に落ちるっやめれええええええ!!」
「鷹也ッ、この痴れ者があああああああああ!!」

どしゃーん、という音と飛び散る雪と共に。
虎と蛇の断末魔の声があたりに響き渡った。




最強三角。猫科と爬虫類には荷が重過ぎました。






〜抱き締める〜



この辺りは極地にあたるらしく、流石に風が冷たい。
首を竦めた私に気付いてしまったのか、彼がバイクのブレーキを掴んだ。
砂を蹴立てて、車輪が止まる。
「寒いか?」
「うう、ん。平 気」
私の喉は相変わらず不器用で、思っている事の半分も外に出す事が出来ない。
その事が彼を傷つける事が解っているから、どうにかして治したいのに。
「痩せ我慢は止めろ」
「あ、」
言葉とともに、私は抱き上げられた。前を寛げた白いコートの中に抱き込まれる。
「今日中に此処を抜ける。休んでる暇は無いんだ」
彼自身は冷たく言い放っているつもりなのだろうけれど、その言葉こそが私には酷く温かくて、
泣きそうになったので、私は彼の胸に顔を埋めて目を閉じた。
確かに私に吹き付けているはずの風を全く感じない。私は今彼に守られている。
彼は誰にも守られる事は無いのに。
彼にとってこの世界全てが守る対象で、自分が守られるモノであることなんて思わない。思えない。思えるわけが、ない。
それがとても悲しくて、私はまた泣きそうになった。
「水(スイ)―――――?」
自分の服が湿った事に気付いたのだろう彼の声を、私は聞いていないふりをした。



誰に祈れば良いのか解らないけれど、兎に角祈りたかった。


――――お願いです。誰でも良いから彼を、許してあげてください。