時計+人形

のんべんだらりんごった煮サイト

やわらかな闇拾題。

01 つめたい枷



自分のボディが金属製であることをチャンプは確りと認識している。
外気温の影響を受けやすく、基本は冷えていることが多い。
逆にヒューマノイドの外皮は、種族差はあれど基本的には柔らかく、一定の温度を保っていることが多い。
故に、互いに触れたりするとその温度差ですぐ気づくことが出来る、筈なのだが。



自身の簡単なクリーンアップを終えて、視界を外カメラに切り替えた時。

「……、」

思わず声をあげそうになったが、堪えた。
腕を組んだままの自分の腰に、橙色の甲殻尾がまるで侍るように巻き付いていたからだ。
砂漠育ちで温度差に強い分、厚い甲殻を持っている尾は、機械の冷たさなど気にした風もなくその場所に落ち着いている。
温度が殆ど変らなかったので、センサーにも引っ掛からなかったのだ。
僅かな機械音を立ててそっと横を見ると、次の作戦行動を確認している相棒は、何やら考え込んでいて尻尾を動かす様子もない。
意識的なのか、無意識なのかは窺い知れないが、もし指摘したらあっという間に解けてしまうのは知っていたので、チャンプは只管沈黙を続けた。



救連黒橙。スティンガーさんの尻尾をフル活用したい(性癖)。
尻尾の無意識の動きは張本人より圧倒的に素直。








02 なだらかな輪郭


綺麗なラインだ、とナガレは思う。
美、の範疇からは少し外れるかもしれないし、女性的な丸みというわけでもない。
ただ、丸く突きでた曲線は思わず触りたくなってしまう。
何も手入れなんてしていないだろうに、意外と触り心地良い肌であることも知っている。
さらさらと言えばいいんだろうか、つるつると言ったら怒られるかもしれない。
幸いうちは父親もそちらの方面に縁が遠いし、そうそう後退することは無さそうだけれど――


ごいん、と結構重たい拳の音が響いた。

「痛い!」
「おうコラナガレ。さっきから何ふざけたこと抜かしてやがんだ?」
「えっ聞こえてた!?」

羞恥か怒りか、恐らく丁度半々でマトイの顔は真っ赤に染まっていた。
脳天に兄の怒りの鉄拳を受けた後も、ナガレの視線は兄の綺麗な形の額から動かない。
どうしても触りたかったので抱き寄せようとしたら、もう一発、今度は顎を殴られた。



55Xより次男長男。マトイ兄さんのおでこは黄金比。
多分ナガレ兄さんはでこちゅーをしようとしました(そして顎へ拳)。








03 しなやかな視線



「大丈夫だ! この俺には――勝算が、ある!」

凛とした声で告げる青年に、ブネは一人でほくそ笑む。
全くもって、彼が今代のソロモン王であるのは、幸運であったと思う。
弱者ならば、無理やり指輪を奪って捨て置いても良かった。
愚者ならば、言葉巧みに騙し良いように操っても良かった。
しかし彼は絶望に対して決して膝を屈せぬ強者であり、
必死に自分の考えの枝葉を伸ばし、望む未来を手にしようとする賢者であった。
故に、全てを失った彼を半ば怒鳴りつけ、立ち上がらせた自分の選択が間違っていたとは思わない。
彼と己の利害は今や一致している。ハルマゲドンを止めるという思いは、共通認識だ。
だから、故に――
全員の賛同を受けてほっと息を吐く彼が、最後にブネの方を見て安心したように微笑むのを見て。
ほんの僅か、ヴィータとなった己の体の奥が疼くのは、決して罪悪感では無い筈なのだ。



メギド72よりブネ×ソロモン。ブネさんは面倒見の良い男なのは間違いないけど、
ソロモン王を利用する狡猾さも併せ持ってるところが好きです。更にソロモン本人については決して憎からず思って(以下略)。









04 はじかれた刃



「随分と物々しい店屋だな?」

そう言いながら自室に遠慮なく入ってきたICEを、劉は片眉を上げるだけで、立ち上がることなく迎え入れた。
ローテーブルの上に丁寧に並べた鋭い刃を、一本ずつ手に取って、具合を確かめて、磨くのを繰り返す。
武器の手入れをしている時に、邪魔などされたくなかったが。
本当に出店を覗く子供のように、まじまじと得物を見詰めている彼の顔を見ていると、どうにも邪険に扱えなくて困る。

「触っても?」

いいけど、という思いを込めて頷くと、thanksとだけ言われて無造作に一本掬われた。
自分の得物を他人に抜き身のまま預けるなんて、あの家に居る時は全く思わないけれど、ここは別だ。彼は、かもしれないけれど。
チン、と澄んだ音が響く。
最初はひとつ、次はふたつ、リズミカルに増えていく。
何かと思って顔を上げると、ICEが刃の反りを軽く指で弾いて、決して不快では無い金属音を奏でていた。

「……お前にとっては、それも楽器か」
「year.」

自慢げに親指を立ててくる子供っぽい仕草に、耐え切れず笑ってしまった。
誰かの命を吸い取る武器が、こんな音楽を奏でるなんて今まで知らなかったのだから。




高&低よりICE×劉。暗殺者として自分の武器は大事だけどICEなら平気な劉。
MWにいる時の楽しそうな、油断してる劉くんが好きなんじゃー(寝言)。









05 はかない決意



レジ横に置いてある袋を、魁利は徐に一つ手に取り、中のカラフルなお菓子をひょいと口に放り込んだ。

「……それは売り物じゃないのか?」

珍しく一人だけでコーヒーを飲みに来た圭一郎がそれを咎めるが、魁利は気にした風もない。

「なんか口寂しくってさー」
「店員でもきちんと代金は払うべきだろう」

ランチからディナーへ移行する休み時間、透真と初美花は買い出し中。
本当なら一度お客を追い出せばいい話なのだが、魁利はそうしなかった。
相手の警戒心が無くなるのならこちらに損は無いし、と何回目かの言い訳を口の中で転がしながら、魁利はあくまで悪戯っぽくを浮かべて。
一瞬、目を瞬かせた椅子に座ったままの圭一郎へ距離を詰め、赤い色のマカロンをずいと突きつける――丁度開いた彼の口の中へ。

「む、んぐっ!?」
「はい、これで共ー犯」
「美味い! ……いや、違う!」

咄嗟に出た台詞を自分で否定するやっぱり真面目すぎる警察官に、魁利はばれないように自嘲した。
――本当はもう、これ以上近づかない方がいいと解っているのに。
偶さかに二人きりになれてしまったことに、浮かれているのだから救いが無い。




快盗VS警察より警赤×快赤。そろそろ自分へ言い訳が出来なくなってる魁利くん。
圭一郎さんの方は未だ無自覚だと思う。ずるい(理不尽な詰り)。









06 しのびよる体温



細心の注意を払って、合鍵を鍵穴に差し込む。
預けられているルブランの鍵、ではない。その裏に建つ惣次郎の自宅の鍵だ。
双葉に絡んだ事件を解決してから、信頼の代わりに渡されたもの。悪用している自覚はあるが、止められなかった。
普段なら双葉がまだまだ起きている宵だが、今日は仲間内の女子会でお泊りだと自分から告げて来た。
引きこもりが随分と積極的になったものだと感動していたら、「だからお前も頑張れ」と激励されてしまった。
……足を忍ばせて家に入る。他人の家の匂いに嫌と言うほど緊張する。
誰かのパレスに入る時も、これ以上緊張しないかもしれない。それぐらい、普段の余裕を保てない。
頭はさっきから夏の暑さに茹ったようで、ちっとも働いてくれない。
足を忍ばせて、一階の奥へ。……双葉の事件の時一応間取りを確認しておいたのが、こんな時に役立つとは。
そっと引き戸を開ける。部屋の隅に据えられたベッドに、ちゃんとお目当てのお宝は眠っていた。

「……マスター」

思わず口から零れた言葉を、手で押さえて止める。
悪いことをしている自覚はあれど、これ以上我慢しているのも耐え切れないと思ったから。
そろりとベッドの脇の床へと腰を下ろして、寝顔を覗き込む。
目を閉じて眠る、皺の刻まれた顔は、熱帯夜のせいで汗が浮かんでいて、その匂いが鼻を擽ってしまう。
じわじわと体の熱が満ちていくのに気付き、怯えの方が先に立つ。
自然と逃げ出そうと立ち上がりかけ、体を捻り――

「っ!?」

ぐい、と腕を引かれた。咄嗟の受け身も何も取れず、寝台の中に引きずり込まれる。

「……この悪ガキが。双葉含めて、バレバレなんだよ」

耳元で囁かれた低い声に、完全に快盗は心を奪われてしまった。


P5より惣次郎×主人公。今まで書いてなかったけどド本命です。
基本コープ仲間にはイケイケドンドンな主人公がマスターにだけは強く出られない感じが好きです。









07 むきだしの記憶



漸く梅雨が明けて、如月は店舗の雨戸を全て開いた。
骨董品には直接の日光もあまりよくないが、湿気も良くないらしい。
風通しを良くして、上から順にはたきをかける。
そんな店主の姿を、部屋の畳の上で寝転がった村雨は、ただ見ている。
正直、骨董品というものに、そこまで村雨は執着が無い。
古い物には想いが籠る。無害なものなら良いけれど、下手な情念は厄介だ。
術師の端くれとして、あまり関わりたくないというのが本音。
そして、鼻歌交じりの上機嫌で、丁寧に鉢やら皿やらにはたきをかけていく如月を見ていると。

「……熱心なこったなァ」
「? 当然だろう。これは全て、うちの商品であり、歴史の息吹であり、人々の残した記憶そのものだ」

当たり前のように言い切る彼の姿に、普段全く意識したことのない悋気のようなものまで湧いてきてしまう。
己に対する自嘲の笑みを漏らしつつ、彼の楽しみを邪魔することにも乗れない村雨は、掃除が終わるまで昼寝と洒落込むことにした。


魔人よりむらきさ。うちの二人としては非常に珍しいジェラシー話、しかも旦那から。
相手の大切なものを奪ったりすることは絶対しないので、表に漏れることもないですが。









08 とざした意識



(――ああ。懐かしいな)

パイモンは思う。今まさに、子供のような言い争いをした後、クロスカウンターで砂漠の上に沈んだ二人へ向けて。
最初の出会いは、偶発的な召喚。ふざけるなと暴れて殴り合って、力の源を握られたことに反発して。
女性に声をかけるのは、ただの暇つぶし。もっと言うなら、あいつに対する嫌がらせだった筈。
それがいつの日にか楽しくなったのは、女性の魅力を理解したこともあるけれど、きっと本当は。

(同じことを、楽しむのが、楽しかったからだ)

そしてあいつは伴侶を見つけ、子を成して、その血統を今に繋げて、ついにやっと漸く――芽を結んだ。
やっと現れた「ソロモン王」は間違いなくあいつよりもずっとずっと立派な王で。

(――そうだ。あいつみたいなどうしようもない奴、二人と生まれてくるものか)

今更、本当に今更、どうしようもない別離をもう一度理解してしまって、
パイモンは苦い笑みを誰にも見せないように、口元を覆って天を仰いだ。



メギド72よりダムロック×パイモン前提の一人語り。なんでこんなに未亡人臭が凄いんだ。
ずっと求めていた希望を手に入れた結果、もう彼が何処にもいないことを改めて認識してしまった絶望。








09 やるせない苦痛



皮膚に走った古傷に、ジョーは自然と指を伸ばした。

「ん、なぁに?」
「……何時ノダ?」

憲の肩口に大きく走った裂傷。腕の悪い医師か、それとも自分で縫ったのか、傷口は引き攣っている。
もう色もくすんだ古傷をそっと撫でてやると、擽ったそうに笑いつつ答える。

「あー……んー……? 覚えてないよそんなん。昔はよくあることだったし」

首を傾げて、訝しげな憲は本気で、今更何をと思っているようだ。肌を合わせ始めてからもう暫く経っているのに、と。
そういう余裕が出来たのは最近なのだ、とジョーは流石に羞恥を覚えるので言わないが。
もう一度、その傷口をじっと見て。

「……痛イ、ナ」
「そりゃあ怪我した頃は――って」

ぼそりと呟いた声に苦笑したと思ったら、驚いたように憲の瞳が瞬く。
どうかしたのかと聞く前に、苦笑して頬を撫でられた。

「痛いの、アンタの方なの?」
「……アァ」

知らなかったのだ、他人の傷がこんなにも――自分の怪我よりも痛いものだなんて。
ぐっと痛みを堪えていると、「アンタって本当、やさしいね」とだけ言われて、抱きしめられた。



筋肉灼熱よりジョー憲。まとまって大分過ぎた頃なので憲さんが優しい。
今まで自分で傷を請け負ってきたから、大切な人が傷を負うともっと痛いことに気づいてなかったジョーさん。









10 まどろむ毒



夏休みに入っても、教師の仕事は山ほどある。
問題児と体当たりしながら日々を進む中、やりがいのある仕事だと思ってはいるけれど、疲労は溜まる。
今日も繁華街の見回りを終え、トラブルが無かったことに安堵しながら、湿気の多い布団の上にごろりと寝転ぶ。
少し休んだ方が良い筈なのだが、変に目が冴えて眠りがやってこない。
酒でも入れた方がいいかと靄のかかったような思考に、携帯の呼び出し音で遮られた。
発信先を見て、考えるより先に通話ボタンを押した。

「もしもし?」
『――菊地? 寝てたか?』

いつも変わらない、落ち着いた声音に、思わず笑いが漏れた。

「いや、起きてたよ。そっちは今、平気なのか?」
『ああ、まだ昼間だ。夜中に悪いな』

大変な仕事をしているのはあっちだって同じなのに、いつだってこうして気遣う言葉を告げてくる。
耳を擽る声が酷く心地良くて、取り留めもない話を続けていたが、瞼が自然と下がってきてしまう。

『菊地? ……眠いんだろ』
「いや……悪い」
『悪くないさ。もう切ろうか?』
「用事、結局なんだったんだ?」
『お前の声が聴きたかっただけだよ』

そんなことを言われてしまったら、菊地も抵抗できない。

「俺も。お前の声聞きながら、寝ていいか?」
『……お望みなら、幾らでも』

息を飲むような音の後、とろりと染みこむような甘い声音に耐え切れず。
菊地の意識は名残惜しくもゆうるりと、微睡の中に溶けていった。



ぼくらシリーズより大人版相原×菊地。遠距離恋愛のようなもの。
優しさが甘ったるすぎて中毒になる感じで。