時計+人形

のんべんだらりんごった煮サイト

兎チックな10題(キュート編)

01:最高の抱き心地



「どうだ、まだ俺も捨てたもんじゃねぇだろ!」
「……いきなり弟の部屋に来てポージングするのはどうかと思うよ兄さん」

どうも先日のレスキュー内体力測定で、若手に危うくチャンピオンの座を脅かされたらしく。
いつもの特訓に加えてスペシャルメニューを己に課し、年齢にしてはかなり良い体を披露している。
……兄弟と言えど、曲がりなりにもベッドを共にしている相手に対し、無防備な姿を晒すのはどうなのかと思ってしまうのだが。
多分兄は本気でその辺の事は何も考えていないのだと、長い付き合いでようく解っていたので。

「確かに凄く良い感じだね」
「へへん、そうだろそうだろ!」
「ちょっと万歳して」
「ん? おう」

疑いなどまるでなく、思い切り手を上に伸ばした、しっかりとついた筋肉の上にスタミナ用の脂肪がついた柔らかい体を。

「どぁ! 何すんだお前!」
「うん、最高だね」
「はぁなぁせえええええ!!」

力いっぱい抱きしめて、逃がしてあげないことにした。



救急次男長男。最近ナガレ兄さん調子に乗り続けてますね。由々しき事態。
マトイ兄さんはレスキューだから実用的な筋肉一辺倒だよ(夢想)。








02:寂しくて死んじゃうよ



「……はい、もしもし?」
『Hi、Bro! どうだった?』
「新曲のこと? 聞いたよ。良いね」
『そうだろ? 明日のライブでお披露目するんだ、お前も来いよ』
「どうかな……行けたら行くよ」
『Oh my,そいつは断る時の常套手段だろう、知ってるぜ』
「違う、本当に解らないんだ。……親父の容体があまりよく無くてね」
『……そうか』
「うん」
『……』
「……あ、」
『ン?』
「いや、なんでもない。少しなら、時間作るから」
『! Thanks,劉。皆待ってるぜ』
「うん。じゃあ」
『See you in my dreams.』

最後のメッセージには返事を返さず、劉は通話を切った。
ひとつ溜息を吐いて、携帯を仕舞い、もう片方の手に持っていた青竜刀を軽く振う。
びしゃりと少なくない血糊が飛び、他に動く者がいなくなっている地面を濡らした。
先刻通話中に不意打ちをかけて来た愚か者も、頸を半分ほどすぱりと斬られてもう動かない。

「……このまま、まっすぐ行くかな……」

報告に帰らなければいけないのは解っているけれど、下手に義母にでも捕まったら明日は家から出られなくなる。
思い付きだったが凄く良い手段に感じたので、
劉はいっそ上機嫌に、途中で着替えだけしてFunk Jungleへ行くことを決めた。香水をふれば血の臭いも誤魔化せるだろう。
真っ赤に染まった自分の両手と、辺りに捨て置かれた死骸達を一瞥もしないまま。
だって仕方ない、こんな日の夜は血が昂ぶってとても眠れず、夢で会えるとは思えないから。



高&低よりICE劉。色々後ろ暗い仕事してるけどそこまで負い目には思ってない劉くんが好きです。
ICEも元傭兵ですからね、仕事で他人の命を奪うことに対して、嬉々とはしないけど割り切ってる感。








03:宝石のようなその瞳



「源君の目って、ビー玉みたいだねぇ」
「……テメェ言うに事欠いてなんだそれ」

僅かな月明かりしかない狭い寮の一部屋で、安普請のベッドに押し倒された岩崎は、源の顔をじっと見てそんなふざけたことを言ってきた。

「褒め言葉のつもりなんだけどなぁ。まん丸で、きらきらしてて、とても綺麗だ」

すいと伸びてくる白い両手が頬から目尻をそっと擦ってきて、その優しさが真実であると告げてくるけれど、それはそれで擽った過ぎる。
あまり閨の中で関係の無い話をすると、我に返ってしまって苦手なのだが、とうの岩崎がとても楽しそうにくすくす笑っているので、意趣返しをしたくなる。
改めて、彼の顔を見下ろす。
日の光の下では榛色に見えるその瞳は、月の加減のせいなのか、随分と赤く見えた。
どこかで、こんな色の宝石を見たような気がする。

「なんつったかな……」
「うん?」
「ルビーじゃねぇし、ガーネットでもねぇし、なんか、赤い石」
「……ええと」

随分適当な言葉を吐いた筈なのに、目の端をさっきのお返しで出来る限り優しく撫でてやると。
何故か岩崎の白い頬は、みるみるうちに赤くなった。



GPOより源岩源。ちょっとラブいの書けたぞウフフ。
飾らない口説き文句(しかも無意識)が却ってクる天性の食客。









04:威嚇のつもり



「少年はさ、やっぱり怖くないの?」

ねらりと光る外骨格を持つ鬼は、その顔の炎を吐く口をがぱりと開けて問うた。

「それ、今更ですよヒビキさん」

もう少年と呼ばれるのには随分と年を重ねてしまった明日夢が、顔だけは昔と同じように困ったように笑う。

「いやあ、我ながら異形ってことは良く解ってるしさぁ」

この腕も足も、人で非ざるものに変じ魔を狩るもの。目の前の青年の細い体など、片腕で拉いでしまえる。
例えそう意識しなくても、爪も牙も簡単に彼を傷つけてしまう。

「ヒビキさんはそんなことしませんもん」
「解んないよぉ? 食べちゃうぞー。がおー」

そんな、声は暢気だけど心は半ば本気で、牙を剥いて見せたのだが。

「……失礼します」
「!!」

青年はちょっとむっとした顔で、ぐいと顔を近づけて――まるで人質替わりのように、自分の舌をその牙の間に差し込んできた。

「見せてほしいって言ったのは僕なんですけど?」
「……すいません、見縊ってました……」

慌てて引くも、明日夢の両手はしっかりと鬼の肩を掴み、不機嫌そうに言い募ったので、素直に謝るしかなかった。



響く鬼よりアスヒビ。多分本編から大分年数経ってる。
久しぶりに見たかった少年と重ねた年に気後れしちゃう鬼さん(そして逃げ道を塞がれる)。









05:限界寸前に達したストレス



「……そろそろ、か」

朝早く、骨董品店の台所で、如月は手早く支度を始めた。
襷をかけて作るのは大き目の塩むすび。
海苔も具材も無い簡素な物だが、これが一番喜ぶのを知っている。付け合わせの漬物とお茶でもあれば上々だ。
風呂敷包みの弁当が完成して、それを下げて店を出る。今日は臨時休業だ。
最近の売り上げは通販サイトと暖簾分けしたコンビニからが中心なので、そこまで懐は痛くない。
話には聞いていた。
ちょっと面倒な仕事を御門に押し付けられた、暫く来ない、とあの気紛れな男がはっきり宣言していたから。
秋月家に仇名す連中が活性化したとかで、その守りは御門に任せ、
外側からの結界の維持と、断続的にやってくる刺客の排除を、公園内でずっと続けているらしい。

「少し休め。食事をする間ぐらい、代わってやる」

ベンチに浅く腰掛けたまま、目を据わらせて煙草を吹かしていた、ほんの少しやつれた男に声をかけてやると。
軽口も憎まれ口も無く、荷物を受け取る前にぎゅうと抱きしめられたので、
やはりこの辺りが限界だったか、と如月は己の勘も捨てたものではないと頷くのだった。



魔人よりむらきさ。いつも如月の方がイライラしてることが多いので逆にしてみた。
追い詰められると逆に足が遠のく旦那とそれに気づく嫁。









06:君は密かな人気者



「見ろ! ついに手に入れたぞ、フランベルジュだ!」
「俺だってこの前の給料でパルチザンを買ったぞ!」

先日武器屋から届けられた新品の武具に部下達が大喜びしているのを見て、騎士団長は苦笑する。
何せ彼の武器は物が良く、壊れにくく、これさえ持っていれば戦場から生きて帰れるという逸話までついて、すっかり人気商品なのだ。
騎士団長でも、店先では飛ぶように売れまくって手に入れられないので、毎回ギルドで個人的に発注をかけるほどに。
――あの方の腕が正当に評価されているのは、何とも心地良いですね。
と、騎士団長の心はとても弾んでいたのだが。

「お前ら解ってないな! 俺はちゃんと店で買ってるぜ!」
「俺だって、この前店に行って、不埒にも万引きしようとした奴を取り押さえるのに協力したぜ!」
「……!?」

聞き捨てならない話が聞こえてきて、書類を書く騎士団長の手が止まる。

「なんだと!? そんな身の程知らずがいるのか!」
「ああ、全く許し難いからすぐにふん縛ってやった。でも、あの店長に丁寧にお礼を言われてしまったから、逆に有難かったかな……!」
「くそう、羨ましいな! いつか俺にも笑いかけて欲しい――」
「――皆さん、随分と私語が多いですね。そろそろ訓練の時間では?」
「「「だ、団長!! 失礼いたしました!」」」

出来る限り、苛立つ心を抑えて優しく言ったつもりだったが、却って怖かったらしく部下達は震えあがり、我先にと訓練場へ走り出した。
それを見送り、騎士団長は少し悩み――今日のギルドで会ったら、万引き騒ぎのことをちゃんと聞こうと思ったが。

「警備を厚くしようと申し上げても、きっとあの方は断るでしょうし……どうしましょうか」

自分以外の兵士が彼と近しくなることの方が不満に感じていることを、残念ながら彼はまだ気づいていない。



武器に願いをより騎士団長×武器屋。珍しくシリアスじゃない。
まだ魔王がいるころの平和?な話。









07:普段めったに泣かない君が



ふと、夜に目が覚める時がある。
内蔵されているタイマーは、正常に作動している筈なのだが。
夢を見るほど優秀で複雑な、人工電脳を持っているせいなのか。
出来る限り、寝台を揺らさないように体を傾ける。隣には、橙の甲殻尾を持った相棒が、静かに寝息を立てていた。
彼と一緒に寝るようになってから、悪夢を見ることは殆ど無くなったのに。
この、急き立てられるような僅かな苦しさは何なのだろうか。
今まで感じたことの無い奇妙な感覚に、チャンプは思わず深く鼻息を吐いてしまい――

「……どうした、相棒……?」

スティンガーの瞼が開いてしまった。完全に起きたわけでは無い彼の瞳はとろりと溶けていて、
ライトを絞った暗い部屋の中にも関わらず、思わずチャンプは見惚れて。
先刻の僅かな苦しさが強くなって、アイランプが僅かに点滅する。
すると、しゅるりと相棒の尾が頬を伝い、まるで目の端を拭うように揺れた。

「泣いてるのか……お前」
「は? 何を言って――」

そんな機能はついていないと一笑に伏す前に、スティンガーは僅かに体を起こし、チャンプの大きな頭部を抱えるように抱き付いて来た。
そして、少しも濡れていない両方のアイランプに、そっと唇を落とす。

「大丈夫だ……」

半分寝惚けた相棒の声はとても優しくて、きっと自分が泣いた時の兄の慰め方を踏襲しているのだろうと思ったが。
抱き込まれたまま寝息が聞こえて来て、チャンプの中から先刻の苦しさはいつの間にか消えていた。

「……そうか。ありがとうよ、相棒」

何となく理解をして、チャンプは自分の鼻先をスティンガーの胸元に埋めた。
情けない話だが――明日になればきっといつも通りでいられるだろう。



救連より黒橙。スティンガーさんは泣き虫なので敢えてこっちで。
たぶんチャンプさんは幸せすぎて泣きたくなっていたのだと思います。









08:バレバレの聞き耳



「はい、もしもし。ああ、木崎先生ですか。羽村先生ですね? 少々お待ちください」

家にかかってきた電話へ丁寧に応対し、子機を持っていこうとした時には、羽村はトーマの後ろに既に立っていた。
少しだけ微笑んで、トーマも渡す。

「……如何した」

電話の使い方は、あの地下の塔でも部屋間の連絡で使用していたので、自在に羽村が使える数少ない機械のひとつだった。

「……それか。少し待て」

短く答えて、羽村は自分の部屋に歩き出す。
彼女からかかってくる電話は大概が患者の治療についてだし、資料を探す必要があるのだろう。
(……もしかして、出勤しなければいけないのでしょうか)
その背を視線で追いながら、トーマが考えてしまうのは、明日のことだった。
祝日でトーマの学校は休みで、羽村も有休を取っていた。久しぶりに二人で出かけましょうか、と思っていたのに。
(いけません、不満に思っては)
はっとなって慌てて首を振る。彼がしている仕事は誰かの命を救う、とても大切なことだ。
自分の我儘ひとつでそれを止めるなど許される筈もない。
解っているのに、足は自然と羽村の部屋に向かってしまい、そろりと開け放たれていた戸の中を、覗いてしまう。

「症例がある。口頭で良いならこのまま言うが。……解った、後で渡す」

資料を捲りながら淡々と答えていた羽村の声が、ほんの少し熱を帯びた。
資料を病院に持っていくのでしょうか、といよいよトーマが眉尻を下げてしまった時――
不意に、羽村の視線がトーマを射抜いた。

「……後、何かあるか。……いや」

臆したトーマがどうしましょう、と思っているうちに、羽村は電話を切り、資料を抱えたまま立ち上がる。

「トーマ」
「は、はい」

がっかりしてはいけない、という身構えをして言葉を待つトーマに、ほんの少しだけ不思議そうに羽村は目を瞬かせ。

「メールの使い方を教えてくれ。他の医師に配布もするからデータが欲しいと言われた」
「え、あ……はい、畏まりました!」

ぱっと自然に輝くトーマの顔を眩しそうに見ながら、
送ってくれたら明日出勤をする必要はないと薫に明言されたことに対し、羽村は気付かないまま安堵していた。



塔よりはむとま。必要に応じて知識を増やす羽村先生。
まあ仕事上既に使ってそうな気がするけども、必要最低限しかしたことないんでしょうきっと。








09:強く抱いたら壊れてしまう



ドン・アルマゲの完全な消滅を確認し、やっと勝利を実感した十二人の救星主は、
喜びを爆発させて抱き合い、健闘を讃え合った。
リベリオンへの報告や、今後の事はまず置いておいて、
まずは打ち上げだ! と自分も疲れているだろうに精一杯の腕を奮った宇宙一のシェフの料理を皆で食べ、飲み、騒いだ。
やがて疲労からひとりふたりと眠りにつき、ブリッジが漸く静かになった頃――ふと、ツルギは目を覚ます。
部屋に帰ったものもいるだろうが、半数ぐらいはブリッジで寝こけている。
無理もない、と自分ももう少し惰眠を貪ろうとして――胸の中が随分と温かいことに気付いた。

「……小太郎、」

壁に寄り掛かって座り込んだツルギの腕の中に、小さな体がすっぽりと収まっている。
安らかに寝息を立てるその顔は、本当に年相応に見えて、ツルギの胸に苦い甘さが湧く。
……クエルボを倒した後、ドン・アルマゲの本体が自分に取り憑くであろうことと、そのまま自分ごと殺して貰おうという作戦は本気だった。
残り少ない命を使い切るのに一番良い方法だと思ったからだ。
しかし当然、他の仲間達からは「なんで言わなかった!」という怒りのオンパレードで、軽くではあったが一発ずつ殴られた。
勿論全て甘んじて受け、そして最後に近づいてきた小太郎にも、一思いにやれ、と促したのだが。
小太郎は、ツルギを殴らなかった。代わりに、こんな風に抱き付いて来た。

「怒らないから、もし今度同じようなことをするなら言って」

絶対止めるから、と続けて言われて。
ツルギは心の底から、すまなかったと小太郎に謝った。
それ以降、絶対小太郎はツルギの膝の上から離れず、他の連中には自業自得だよね、と笑っていなされ――今のこの状態だ。
なんてこった、覚悟を決める時が来たか、とツルギは天を仰ぐ。
終わりが見えていた自分の命が、再び繋がってしまったのだから、あとはもう彼が望むものを与えてやるぐらいしか償う方法が見つからない。
それでも、腕の中の小さくて柔らかな体を衝動のままに抱きしめることは、どうしても出来ず。
早く大きくなれよ、と願いながら、頭を撫でるに留まった。



救連空紅。本当生きてて良かったよツルギさ――んん!!(私信)
色々な柵が無くなって後は相手の年齢だけだけど、まだちょっと踏み込めない300歳越え。









10:どんな仕草も可愛すぎ



例えば、朝起きてすぐ、眠そうに寝癖のついた髪を掻き回している時。
例えば、出来立ての味噌汁に中々手をつけず、漸く一口いったと思ったら熱そうに顔を顰める時。
例えば、自分のバイクを手入れしている、真剣な表情の時。
例えば、不機嫌そうな眉間の皺がほんの少しだけ緩んで、こちらを見てくれる時。
ああ、可愛いなぁ、と思って――泣きそうになってしまう。


例えば、自分が目覚めた時には既に身なりを整えて、おはようと笑いかけてくる時。
例えば、大分レパートリーが増えたんだよと言いながら、真剣な顔でキッチンに立つ時。
例えば、観葉植物に水をやりながら、随分気の抜けた顔をしている時。
例えば、何に煽られたのか知らないけれど、顔を赤くして抱き付いて来た時。
悪いけど、可愛いと、思ってしまって――泣きそうになった。


「……泣いてるの? 乾君」
「……こっちの台詞だ」
「俺は泣いてないよ」
「俺も泣いてない」
「……嬉しいから、かな」
「……多分。俺も」

同時に伸ばした手を頬に触れ合わせて、幸せを溜息にして吐いた。



φズより勇巧勇。パラレルです! パラレルだと思ってください!!(必死)
結局この二人を書くとポエミィになってしまう自分が悔しい。もっと腰を据えて書きたい気持ちはある……あるんだ……。