時計+人形

のんべんだらりんごった煮サイト

貴方に願う10のお題

1 笑顔を見せて



今日も家計簿と睨めっこを続ける骨董品屋の店主の眉間には、はっきりと皺が刻まれている。
いつも朗らかでいろとまで押し付けるつもりはないし、凛とした真剣な瞳は嫌いでは無いのだが、
ここまで膨れっ面でこちらにも視線を寄越さないというのは、どうにもつまらないので。
畳の上に正座をして文机に向かう彼の背に体重をかけ、その細い体を抱き込んでいる身としては。

「……ほれ、もう二時間だぜ。休憩しろよ」
「っ、こら、やめ、んぐっ! それは反則だ……!!」

容赦なく、色の欠片も無く、着流しに手を突っ込んで脇腹から腰から力いっぱい擽ってやった。
最終的に耐え切れなくなった如月に、脳天へ拳固を張られたが。
その顔はどこかすっきりした笑顔だったので、賭けに勝ったということにしよう。



魔人むらきさ。色には走らない熟年夫婦。
しかしこれは幾つになってもガキなだけなのでは……?(名推理)








2 嘘はつかないで


「くそ、ドブネズミの分際で……」

縄張りを削り取った敵方に対し、吐き捨てるように言われた悪罵。その不快さにジョーの拳が、ぴくりと動く一瞬前。

「お褒めに預かり、恐悦至極ぅ」

いつも通りの煮蕩けた声で、優雅に礼をする余裕すら見せた憲の言葉で、相手は何も言い返せなくなった。

「じゃあねぇ〜」
「……チッ!」

露骨な舌打ちを背に受けても気にした風もなく、手をひらひらさせて踵を返す憲にジョーはすぐ追いついて。

「負け惜しみにしちゃ、レパートリー無いよねぇ、どいつもこいつもオリジナリティ無いったら」

首だけで振り返り、くつくつ笑うその顔は、やはりいつも通りの不敵なものだったけれど。

「……」
「え、」

ジョーは無言で憲の手を取り、ぐいぐい引っ張って歩き出す。
もうこれ以上、不快な悪意を彼に浴びせたく無かったし、彼がそれを我慢してしまうのも嫌だった。

「……ったく、アンタが怒ってどうすんの。ばぁーか」

困ったような、安堵したような。先程の悪罵とは全く違う、複雑な思いの籠った罵声はとても優しく聞こえた。



筋肉灼熱よりジョー憲。
自分に嘘を吐くのが得意な人とそれを見抜く人。








3 もっと頼りにして



「僕だって男だし、たまには頼りにされたいなぁ」

暑さにうだる事務所の中で、これだけは元気なサボテン達に水をあげつつ、ぽつりと呟いた狐太郎の独り言は。

「なんですか? 藪から棒に」
「えっいたの!!?」
「今戻りましたー。ビンタさんは?」

買い物から丁度帰ってきた外宮に綺麗に拾われてしまい、すっとんきょうな声が事務所内に響く。
ペットボトルのコーラを一口呷りながら問うてくる魔性の美貌に、心臓を抑えつつも狐太郎は素直に答えた。

「実家の呼び出しだって。再三再四断ってたから向こうが業を煮やしたらしくて」
「流石のビンタさんも逃げきれなかったと。了解です」

頷きを返し、今日は男の格好をしていた外宮は、所在無げな狐太郎へにやりと笑い。

「それでさっきの言葉ですか。実家関係はビンタさんの泣き所ですし、そう簡単に頼ってはくれないと思いますけど」
「解ってるけどさぁ」

それでもなあ、とぶちぶち言いながら水やりに戻る狐太郎の猫背を見つつ、外宮が思うのは。

(……ボクには実家に行くことすら明言してくれないんですけどねぇ)

そんな羨望の籠った視線に、狐太郎が気づくことはない。



サタスペホラーリプレイより狐→ビン←外。公式です(まだ言うか)。
口には絶対出さないけどビンちゃんもかなり狐太郎に頼ってるよね。ね。









4 この手を拒まないで



「……ひでぇな」

ぽつり、と呟かれた声は、いつも自信に満ち溢れたチャンプのものとしては、随分と細かった。

「大したものじゃない。それより、お前は」
「もう大丈夫だ。……すまなかったな、相棒」

そっと、まるで壊れ物に触れるように髪を撫でてくる大きな掌がもどかしい。
何度も、この身の頑丈さはロボットには劣っても、そこまで柔いものではないと訴えているのに。
不機嫌そうな顔のまま、スティンガーはチャンプの手を掴んで無理やり引っ張る。
びくりと引こうとしたのを許さずに、その指先に口付けを落とす。
……彼の手を掴む自分の両手には、先刻チャンプが起こした暴走により負った傷が無数にある。
彼を責めるつもりは無論ない。比べ物にならないほど――命に関わる破壊まで彼を傷つけたのは自分だ。
ならばこの程度の傷、彼を止められた勲章だ。だから、気に病む必要なんて何一つ無いのに。

「……畜生め」

口の隙間から漏れる、彼の自責を止めたくて、大きな頭を抱きしめた。



救連黒橙。チャンプさんの暴走関係が一体どうなるのか解らないけど(17.11.11現在)、
こんな風にならないといいな!! という祈り(何)。









5 夢を聴かせて



巨大な都市艦の甲板、表層部の店舗、その屋根の上。
其処まで登らなければ、星は見えない。
殆どの人が眠りについた夜、秘め事のようにこっそりと、ノリキと氏直は寄り添って腰かけていた。

「寒くないか?」
「いいえ、ちっとも」

互いの肩に寄りかかり、ひそやかに言葉を交わす。
流石にこの時間では誰に見とがめられることもないだろうけれど、外道連中には油断が出来ない。
遥か向こうに雲海が見える。嘗て自分達が縛られていた国から遠く離れたこの地で、漸く二人で息をすることが出来た。

「……ノリキ様」
「なんだ?」
「次はどちらへ、連れて行って頂けますか?」

はしたない強請りだと解っていても、言わずにはいられないほどに幸せだった。
彼の顔が柔らかく緩み、どこへでもだ、と唇が触れ合う距離で言ってくれるのだから。



境ホラよりのりうじ。夜のデートですよ! 夜のデート!(大興奮)
もうこの二人には末世とか全然気にせずずっといちゃいちゃしてくれたらいいよ!(駄目)









6 前だけを見つめていて



あの日から――深夜にロングソードを一本、打ってくれと望んだ相手が来て以来。
この時間になると、自然と武器屋の視線はドアに向かってしまう。
とうの昔に店仕舞いして、もうそろそろ炉の火も落とす時間なのに。
溜息を吐いて、立ち上がる。傍で寝ていた白猫が、不満げに声をあげた。
きっと彼は大丈夫だ、と思う。
彼の強さも優しさも、自分はちゃんと知っていて。
もう迷わず、己が信じた道を進んでいくのだろうという期待と安堵がある。
――だから、待ってしまうのは、ただの反射だ。
そう自分に結論付けて、店の戸に鍵をかける。

ただ、会いたいだけなのだという気持ちには、気づかないふりをしたまま。



武器に願いをより騎士団長←武器屋。この二人も全くくっつく様子を見せないな!(己のせい)
もうちょっとラブいのも書きたい気持ちはあるんです(訴)。









7 心を偽らないで



どうして、と問うたことは何度もある。どうして俺を助けてくれたのか。

「そりゃあ、お前が色々と役に立ちそうだったからさ」

嘘だ。最近ならともかく拾われた直後は、桐生戦兎ですら無かったただの男は、中身がぐちゃぐちゃで空っぽでしかなかった。
そんな男に、彼は名前と住むところを与えて、望むがままの実験に付き合ってくれた。

「俺の先見の明も捨てたもんじゃないだろ?」

嘘だ。何の根拠も保証もなく、そんなことをするわけない。
だから、彼は、俺を。

「恩返ししたいんなら、ちゃんと仕事して、ツケ返してくれよー」

嘘だ。きっと彼が本当に欲しいものは、


「……あんた、俺に何をさせたいんだよ」


カウンターに突っ伏して、組んだ腕の中に顔を埋めて、聞こえないように囁く。
あんたの本当の言葉が聞きたいんだ、それが例え俺を殺す言葉であっても。



仮面造形よりマスター←兎。好きなんです多分王道が龍と兎なのは解ってるけども!
あとマスターの正体は蛇の人で確定でいいんだろうか……怪しすぎるのでこんな感じになりますた。









8 ずっと隣にいて



性格も正反対、頭の出来も大違い、きっと兄弟でなかったら出会う事など有り得ないだろう。
そしてほんの僅かの年の差が、絶対的な差になって。
いつまで経っても追いつけない自分に呆れて、
どこまで行っても前を走り続ける彼に憧れて、
無我夢中で、伸ばした手はきっと振り払われる筈だったのに、
しっかりと、握り返してくれたから。

「だからちゃんと自分の足で兄さんの隣まで行くから、それまで待っててよ」

真剣に、傲慢とも言える自分の思いを伝えたのに、何故だか兄は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして。

「お前、とっくの昔に俺の隣にいるじゃねぇか?」

寝台に寝転がって向かい合ったまま、睦言の空気など何もなく、素のままの声でそんなことを言われたら。

「こらナガレ! 重い!」

明日の仕事も何もかも忘れて、抱きしめてしまった自分は悪くないと思う。
ちゃんとここにいると実感したいのだから、頭突きや拳は振るわれないように、その体を腕の中に閉じ込めた。



救急次男長男。珍しくピロートーク的なアレ。
マトイ兄さんも慣れてきたらしいです、良かったねナガレ兄(優しい顔)。








9 そのままの貴方でいて



「あー……もう勘弁」

連日のテスト勉強ですっかり腐り、ぐたりと机に突っ伏する英治に相原は笑う。

「着実に成績は上がってるんだ、もう一頑張りだろ」
「解ってるけどさー……くそう、もう数字見たくねぇ」

気概はあるが疲労がそれを拒んでいるようだ。
彼がこれだけ頑張っているのも、自分と同じ高校に行きたいが為だと知っている相原は、彼の苦しみを知りつつも緩む頬が抑えられない。
突っ伏したままの頭をそっと撫でてやる。抵抗が無いのをいいことに、何度も。

「俺もお前みたいになりたいなぁ」

だが、ぼそりと呟かれた本気の声音に、驚いて手が止まった。

「なんで俺?」
「だってお前俺より頭良いし、優しいし、女にもてるし」
「すまん、最後のは自覚無いんだが」
「最初二つは自覚あんのかよ!」

手を振り払って歯を剥いて怒る英治に、耐え切れず吹き出す。
それによって、思わず言いそうになった言葉をちゃんと喉奥に封じ込めながら。
――お前はお前のままでいてくれよ、という懇願は、親友の口から言うにはちょっと重すぎる言葉だろう。



ぼくらシリーズより相原英治。菊地英治という存在が好きな相原徹。
頭を撫でるのも大概親友ではやらないと思うよ(真顔)。









10 どうか、幸せでありますように



「うん、うん、じゃあ気を付けてね? 何かあったらすぐ連絡して。……うん、俺も愛してるよ舞ちゃん!」

名残惜しげに通話を切った凌駕は、はーっと息を吐き。
隣に座って新聞を読んでいた幸人の膝の上にごろりんと寝転がった。

「重い」
「いーじゃないですかちょっと慰めて下さいよー!」
「いい大人が駄々を捏ねるな」

ずっと育ての親の背中にくっついていた少女は、いつしか綺麗な娘となり、少しずつ親離れを始めた。
子離れできていないのは親の方で、未練がましくすっかり大人しくなった端末を眺めてまた溜息を吐いている。

「これでも我慢してるんですよー? 流石にもう親がべったりくっついてるのは、鬱陶しいと思うし……
でももし『りょうちゃんの洗濯物一緒に洗わないで!』とか言われたら泣くかもしれないです……!!」
「それは御愁傷様だな」
「まだ言われてないです! 言われてないですから! あとはやっぱり、彼氏とか出来たらなぁ」
「何? ――おい詳しく聞かせろ」

ぼそりと呟かれた言葉が聞き逃せず、ばっと膝を見下ろすと、してやったりな笑顔が見えて不覚に気づいた。

「三条さんだって舞ちゃん離れ出来てないじゃないですかー!」
「それとこれとは別だ! あいつはまだ14歳だぞ!?」
「最近の子は早熟ですしねー、それに前に住んでた国じゃ普通にボーイフレンドはいましたよ?」
「なん……だと……」
「あれっ三条さん本気でショック受けてます?」

あまり歓迎したくないが歓迎しなければならない未来が、思ったよりも近いことに気付いて蒼褪める幸人を、
逆に凌駕が慰めることになった。
彼女にはこの世で一番幸せになって欲しいけれど、どうかもう少し猶予が欲しいのは二人とも一緒なのだから。




爆竜青赤→娘。ちょっと未来の話。
娘には幸せになって欲しいパパ二人。舞ちゃんのお相手については凌駕さんより幸人さんの方がバリバリに査定しそう。