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のんべんだらりんごった煮サイト

恋人に「してあげる」10題

1.なでなで



「おいナガレ! この前の新型ロボ、表彰されたんだって!? 良くやったな!」
「あ、うん、ありが――っうわ!」

褒め言葉に喜んで振り向いた瞬間、最近また伸びてきた髪をわしわしっと乱暴に撫でられた。
子供の頃から当たり前だったけれど、流石に今は恥ずかしい。
……兄は全く気にした風もなく、下の弟妹は喜ぶし、真ん中っ子も嫌がりつつ抵抗はしないのだが。
自分としては、恥ずかしくも嬉しくないわけがないので、大人しく少し下から伸びてきた手を有難く受けていた。


しかし、ふと。
自分達はこうして、兄の褒めを享受しているけれど。
父も母もいなくなってからは、こうやって兄を褒めてくれる人はいなくなってしまったのではないかと、思い。
考えるよりも先に、手を伸ばしてしまった。

「……お? お、お?」
「えっと、あの。……兄さんもこの前、レスキュー訓練で表彰されてたでしょ。だから」

もごもごと言い訳を呟きつつ、短くつんつんと立っている割には柔らかい頭を、さくさくと撫でる。
段々楽しくなってきたので、怒られるまでやろうと思ったら、
「なんだよお前ぇ……」と僅かに顔を赤らめて俯いてしまったので、更に調子に乗ってしまった。






555青赤。久しぶりにナガレ兄さんの調子乗りだよー(酷)。
でもマトイ兄さんはもっと褒められるべきだと思うのッ(ファンの主張)。








2.爪きり



「それじゃ、よろしくぅ」
「……ン」

ぽす、と軽く自分の胸に後頭部を預けて、楽しそうに鼻歌を歌う憲。
その前に伸ばされた彼の両手を取りながらも、ジョーは途方に暮れる。
膝の上に抱き込んだ男が、最近随分と爪が伸びたことに気づかされて、切ったらどうだと何気なく告げたら。
一瞬あ、と間の抜けた声をあげ、その後照れを堪えて不機嫌になり、
怒らせた理由が解らずに宥めようとしたら、「じゃあ、アンタが切って」と来た。
……相変わらず、踊らされている感が酷いが、からかい混じりでもこうやって無防備に甘えてくる彼の姿は嫌ではない。
ただ――そっと彼の片手を取って、その爪先に鑢を当てた時、自分の手が僅かに震えていることに気づいてしまった。

「っふは、何ぃ。ビビってんのぉ?」
「……当タリ前ダ」

当然向こうも気づいたらしく、にやにやと笑って振り向こうとする体をぎゅうと閉じ込めて、
相手の不満を待たずに細心の注意を込めて爪を削りだし。

「……It doesn't hurt you.(傷つけてたまるか)」

ぼそりと耳元で零すと、相手はぴくん、と体を揺らして、そのまま硬直して動かなくなったので、改めて集中することにした。






筋肉灼熱よりジョー憲。
当然だけど伸びてるの気づいた理由は背中とか別のところだよ!(下世話)








3.平気なフリ



ちくん、と氏直の指先に小さな痛みが走った。

「……」

繕い物をしている時に、ついうっかり針の動きが疎かになった。
修行が足りませんね、と溜息を吐くことすら堪えるし、一言も発さない。
そう出来るぐらい余裕で耐え切れる痛みだったし、だからこそ、気づかれたくなかった、のだが。

「如何した」

……この狭い、と言うと良人の甲斐性の無さを糾弾しているように聞こえるのが嫌で言わないが、共同長屋の一部屋の中、
直ぐ隣で腕立てをしていたノリキには、小さな異変でも気づかれてしまったようだ。
身を起こして問うて来る相手に、ほんのちょっと、困ったように眉を下げながらも、何ともありませんと言いたげな笑みを作る。

「修練を邪魔してしまい、申し訳ありません。どうぞお気になさらず」

さりげなく指先を隠しながら、あくまで穏やかに言葉を紡いだつもりだったのだが、
良人は最近は減っていた眉間の皺を寄せて、膝でいざって自分に近づく。
こうなると、逃げることも逆らうことも出来なくなってしまうので、うろうろと視線を彷徨わせ――
結局観念して、おずおずと先刻刺した指を差し出した。
僅かに血の滲んだ指先に、彼の顔はますます顰められ。
ぐいと引っ張られたその手の指先が、ぬるりと舌で包まれるのを、氏直は全て覚悟した。
こうなってしまったら、妻の仕事など全てかなぐり捨てて、彼の腕の中に飛び込んでしまうしか道は残されていないのだから。






境ホラよりのりうじ。結婚! 同居! おめでとうございます! ありがとうございます!(五体倒置)
妻の異変なら何でも気づくしもう少しも我慢させたくない夫と、夫に甘やかされたら全面降伏だから必死に堪える(けど失敗する)妻。ラブ――!!(吼)








4.差し入れ



ごき、と軽く動かしただけで嫌な音が鳴る肩に、幸人は眉を顰めた。
最近はちょっと仕事に根を詰めすぎてしまったようだ。これでは医者の不摂生を笑えない。
しかし自分より腕の落ちる整体師に自分の体を任せるのも嫌なので、どうしたものかと思っていると。

「さーんじょうさーん、お疲れ様で〜す!」
「おつかれさまで〜す!!」

……悪化の原因と解消の要因が同時にやって来た。
挨拶代わりに胡乱げに睨んでやるが、「うわーほんとにお疲れですねぇ」と暢気な笑顔のまま言われて全く堪えていない。

「そんな三条さんに、疲れを癒す突撃デリバリーです! いけっ、舞ちゃん!」
「はーい! ゆきとさん、しつれいしまーす!」
「おい、何を」

次の瞬間、ぐいと診察用の寝台に座らされ、振り払う前にひょいと其処に飛び乗った少女が、
とんとんと良いリズムで幸人の肩を叩き出す。
抵抗が無くなったことに気づいたのか、彼女の父親は手荷物を抱えてにんまり笑う。

「マッサージは舞ちゃんに任せて、俺はご飯作ってきますね! ごゆっくりどうぞー!」

止める間もなく、仕事場の簡易キッチンに向かう背中を見送り、
肩を叩く、筋を解すにしてはどうしても力が足りない手を止めることも出来ず。

「……舞、もう良いぞ。飯が出来るまで遊んでやる」
「ほんと? ありがとー、ゆきとさん!」

覚悟を決めて、振り向いて少女を抱き上げてやり、己の疲れを癒すことにした。





アバレ青赤娘。お疲れモードのパパ2を癒すパパ1と娘。
パパママではなくパパ2人なところが萌えポイントです(主張)。








5.キス



「……ロングソードを一本、打って頂けますか?」

夜も夜中、もう少しで炉の火を落とそうとしていた時に尋ねてきたのは、今やこの街で一番の地位に立つ騎士団長だった。
驚きも、戸惑いもあったが、客として訪れた彼を無下にするようなことは当然出来ない。
仕事場の椅子を薦め、鉱石を炉にくべた。

「……」
「……」

互いに、無言だった。
武器を打つ時に余計な言葉など喋らないし、彼も疲れているのか、僅かに目を伏せたまま何事かを考えているようだった。
故国との戦争は激化し、強力な武器はそれに見合った値をつけてもすぐさま売れていく。
同じ故郷を持つもの同士の戦い、その全ての責任が彼の肩に乗っているのだ。
ごく単純な長剣一本であるけれど。
それが彼が望み、少しでも彼の力になれるのなら――
そこまで考えて、雑念を振り払う為に首を大きく横に振った。ぱらりと散った汗が、火に飛んで僅かな音を立てる。
幸い、騎士団長には気づかれなかったようだった。




やがて――研ぎと磨きまで終えて、真新しい鞘に差し込む。毎日のように作り続けた、寸分違わぬ基礎の長剣。違和感一つなく、収まった。
差し出された剣を、騎士団長は漸く顔を上げ、僅かに目を細めて頷き受け取って――
立ち上がり、渡された剣の鯉口を僅かに切る。

「……素晴らしい」

そこから覗く輝きに満足したのか。この日、始めて彼は僅かに笑ってくれて。
武器屋がその顔に目を奪われた瞬間――彼は、剣を戻した鞘に、そっと口付けを落とした。
まるで己の指先に、彼の唇が触れたような気がして――呆然と、動けなくなっている内に、丁寧な礼をして彼は去っていったが。
それを見送ったまま、その日武器屋は眠ることが出来ず、気づけば開店準備に追われる羽目になってしまった。






武器に願いをの騎士団長と武器屋。まだ新バージョンのはプレイしてません念の為。
果たして彼らには結ばれる日が来るんだろうか(人事のように)。








6.濡れた髪をフキフキ



風呂上りの巧が、無造作にぶるぶると頭を振ったところで、優しいが咎める声が聞こえた。

「ああ、また。ちゃんと拭かないと駄目だよ」
「煩ぇな……」

悪態を吐いた次の瞬間、とても柔らかな白いタオルが視界を覆う。
払いのける前に、しっかりと押さえ込まれ、力強くも優しく、わしわしと髪を拭かれた。
強引だけれど、痛くは無い。面倒だけれど、逆らう気が起きない。
結果的に大人しく、好きにしろとばかりに床に座った巧に合わせて、勇次は膝立ちになって更にタオルドライを続ける。

「ふふ」
「んだよ」
「本当に、犬みたい」

誰がだ、と振り向く前に、タオルの上から唇を付けられ、ぷーっと熱い息を吹きかけられた。
むず痒さと恥ずかしさに、今度こそ巧は動けなくなる。
そんな風に、一挙手一投足を、いとおしむように触れられると。

「お腹空いてない? ご飯何にしようか」
「……ラーメンは止めろ」
「うーん、蕎麦でも食べにいく?」
「家で食う」
「はいはい。じゃあ出前かな」

こんなにも、甘やかされるのがとても居心地が悪くて、やっぱり巧はそれ以上動くことが出来なくなった。






φズ勇巧勇。や、やった! パラレルだけど書けた! ここまで書けたよぉー!!(トラウマ克服)(したのか)
これでそろそろ覚悟を決めて仮面ライダー4号見るべきかしら……φズ真の最終回と評判の……また見たらダダ凹みする気もするけど……たっくん……(チキン)








7.応援



久しぶりに会った相原は、凄く疲れていた。
いつもならもう少し余裕がありそうなものだが、きな臭い情勢に煽られるまま色々と飛び回っていたらしく。

「悪い、ちょっとだけ寝かせてくれ」

とだけ言って、暫く風呂にも入っていないだろう体で英治の万年床に倒れこみ、そのまま安らかに寝息を立て出した。
これが赤の他人なら、当然怒るところだが。彼が普段どれだけ努力をして、危険な橋を渡って、己の道を貫いて――
そのくせ英治には弱みを見せたがらないことも良く知っているので。

「……仕方ねぇな」

起こさないように、こっそりと呟く。彼の強さも、彼の本気も、良く知っているからこそ、止めないし止める気も無い。
無理をするなとも、頑張れとも言わない。
ただ、上着と靴下だけどうにか脱がしてやって、すぐ食べられるように朝飯の準備もしてやって。

「お疲れ」

少しでも彼の疲れを癒せるのなら、一緒に毛布を被って一眠りぐらいしてやるのだ。





ぼくらシリーズの相原英治。頑張れとは言わないけれど、彼の欲しいものはちゃんと解っている英治。
朝先に起きて、葛藤と悔恨と喜悦で相原が頭を抱えるまでワンセットです(鬼)。








8.ギュッと



都心には珍しく、随分と雪が降った。
如月骨董品店の庭はすっかり白く埋まり、古い家屋の床下から底冷えの気配が漂っている。
そんな中、家主は暖を取るべく、確りと庭に通じる戸板を閉め、
冬に入る前にちゃんと綿を打ち直しておいた半纏を二枚引っ張り出した。

「あァ、重てェ。灰はこんなもんで良いか?」
「充分だ。ほら」

そこで倉から火鉢を引っ張り出してきた村雨が戻ってきた。
軽く労いつつ大きいほうの半纏を手渡してやり、灰の中に炭を落とす。
ちりちりと僅かに音を立てながら、黒い炭が赤く染まっていくのを見ながら、如月は半纏を羽織らずに持ったまま。
火鉢の前に陣取った村雨の、胡坐を掻いた膝の上にごく自然にすとんと収まり。

「素直に膝掛けでも買えよお前」
「これで充分だろう」

すぐに己の腹に回される村雨の太い腕と自分の膝に半纏をかけてから、鉄箸で火鉢をかき混ぜ始めた。






魔人むらきさ。部屋が暖まるまでこうやって暖を取ります。
珍しく時事ネタなどを使ってみた(雪が降ったってだけ)。








9.お手伝い



二人暮らしの小さな部屋で、家事を担当しているのはトーマである。
羽村には家事に対しての基本的な知識が無さ過ぎたし、何より本業が忙しすぎる為なのだが。

「それじゃあ、皮を剥くのだけ、お願いしてもいいですか?」
「……解った」

羽村の仕事が早く終わり、尚且つ家に帰って持ち帰りの仕事が無い時。
彼はこうやって、料理や掃除に向かうトーマの後に付き、何某かを手伝おうとする。
トーマとしては、家事は自分の仕事であるし、疲れている羽村に任せるのは申し訳ないと思うのだが、
はっきり拒否するのは彼の性格ではとても出来ないし、無言で後ろに立ち続けられるのも申し訳ないので、
簡単なものは任せるようになった。
実際、執刀医としての実力も天才的な彼は、手先の器用さに間違いは無いらしく、
練習さえすれば野菜の皮むき程度は簡単に出来るようになった。

「出来たぞ」
「有難うございます。お上手ですね」

素直な感嘆の台詞だったのだが、言ってから随分と上から目線であることに気づき、トーマははっとして己を恥じた。
自分とて、対して料理が上手いわけでもないのに、偉そうなことを言ってしまった、と身を縮めていると。

「……次はどうする?」
「あ、ええと……それじゃあ、」

問われた言葉に慌てて顔を上げると、其処にはいつもの無表情である羽村が。
それでもどことなく、満足そうに、誇らしげに顎を引いて自分を見ていることに、
今や彼を一番近くで見てきたトーマには解ってしまって。

「……一緒に、もっとお料理して下さいますか?」
「ああ。勿論だ」

僅かに頬を赤らめて告げた小さな我侭に、当然といった体で頷かれたので、尚更トーマは恥じ入ってしまった。






バベルよりはむとま。羽村先生の生活スキルが上がっていく話。
実際戸惑いは山ほどありそうだけど、覚えれば何でも出来そうな気がするね羽村先生。









10.添い寝



四畳半KK企画の事務所は、いつも通り暇だった。
オカルト紛いの仕事も舞い込んで来ず、ビンタはソファに座って手慰みに銃の手入れをしており、
外宮はちょうどコンビニから帰ってきて、戦利品のコーラで事務所内の冷蔵庫を圧迫していた。
今日は女装をした外宮が、冷蔵庫の扉を閉めながらくるりと所内を見渡す。

「ビンタさん、狐太郎さんは?」
「知らね。本屋でも行ってんじゃね?」

ビンタは何も気にした風もなく答えたが、その言葉に外宮はちょっと色めき立つ。即ち、今がチャンスだと。
軽い足取りでスカートの裾を翻し、三人掛けソファのど真ん中に座ったビンタの右側に、ちょこんと腰を下ろす。
一瞬、視線を向けられるが、別に構わないらしくビンタは再び目を手元にやる。その顔は真剣そのものだ。
……普段の自分なら、相手の機微など気にせず、このままソファの上に押し倒すところだけれど。
色の薄いサングラスの下、その顔につい見惚れてしまっていることなど気づいていない振りをして。
ぽすん、となるべく体重をかけないようにビンタの肩に頬を寄せた。
んだよ、と訝しげなビンタの声にも気づかない振りをして、目を閉じる。
しかたねぇな、と言いたげな溜息を吐く音が聞こえて、こっそりほくそ笑んだ。
彼は本当に、身内に甘い。一度懐に入ってしまえば、絶対に、拒否されることはない。
きっと狐太郎さんも、同じところが好きなんだろうなぁ――、なんて思いながら、外宮の意識はゆるゆる溶けていった。



「ビンちゃん、ただいま――ぁ」

事務所のドアを開けて、目の前の光景に慌てて口を噤む。
ソファの上で、銃をほっぽり出したまま熟睡しているビンタと、その肩に寄りかかって寝息を立てている外宮。
解っていたけど、お似合いすぎて。まだ瘡蓋になったままの、狐太郎の胸が鈍く疼く。
冷たい瘧のような殺意は、もうこの身の内には無いけれど。
それは綺麗な絵のようで、やっぱり自分が入ることは叶わなくて――

「……んが」
「あ、ビンちゃんごめん、起こし――」

ふと、僅かな声をあげてビンタが瞼を僅かに開ける。狐太郎が詫びる前に、ちゃんとその目は彼の姿を捉えて。

「ん」

ぽんぽん、と空いている左側を手で叩き、もう一度眠りの淵に落ちていった。
暫しの沈黙と、どうしようという逡巡は。

「……お邪魔しまぁーす……」

あっさりと誘惑に打ち負けて、狐太郎は足早に示された場所へ駆け出すのだった。





サタスペホラーリプレイより狐太→ビン←外宮。公式です!(言い切った)
いや本当最新刊良かったね良かったね狐太郎……! てなった。もう三人で幸せになってくれてもいい……!(落ち着いて)