時計+人形

のんべんだらりんごった煮サイト

焦10題

01 燃え尽き症候群に陥った創造主



朝と夜の祝福を受け、生まれることを選んだ子供が最果ての地より旅立って暫く。
残骸しか残っていない揺り籠の廃墟にて、胡散臭い髭の男は唯一人佇んでいる。

彼が望み、己が促した。その選択に、誤りは無い。
彼が願い、己は答えた。その意志に、後悔は無い。

彼の孤独を癒したが故に、己の孤独は永遠となった。その結果を――否定したいわけは、無いけれど。


「――再会は、再度の別離と同義だ。

全く情けない、ただそれだけでこの足はとてつもなく重い鉛となるよ」


全ての人の節理から外れた賢者は、確定したただひとつの運命を恐れて、そこから一歩も動けなくなってしまった。




幻想楽団より賢者×天秤。黄昏ラプンツェルの後の話のような。
生きて死ぬことを選んだ子供を、もう見送ることしか出来なくなった男。







02 恋だ愛だと名が付く前に



「お守りしようとしているのに、肝心の殿がご自分の御命に無頓着では、正直腹が立ちます!」

真っ直ぐこちらを見つめて言われたそんな言葉に、息が出来なくなる。
そんなつもりはない、と言ってやれば良かったのに、唇が凍り付いたように動かない。

盲目的な忠誠なら、これは本来自分が受け得るものではないと戒めることが出来た。
だが、これは。
耐え切れずに視線を逸らす。
無意識なのか意識的なのかは、解らないけれど。
向けられる視線には、真摯な忠誠とは異なる、粘りのある熱が含まれているように感じて。

――これは、違う。
志葉家十八代目当主、シンケンレッドという地位と存在に、向けられるものではないと。
そんな浅ましい期待をしてしまう自分が、何よりも恐ろしい。

どうか彼が、その熱を舐めとって応えようとしたがる、何者でも無い己に気が付く前に。
もう一度、深く深く、影武者としての仮面を被り直すため、少なくとも一晩の時間が必要だった。






真剣青(無自覚)→←赤(自覚有り)。個人的には殿の正体バレがあるまでりゅーのすけには無自覚で居てほしい(願望)。
二十六幕が好きなんですよ……!







03 揺るがないそれを抱いたまま



「貴方が鎚を振う時。何を思っているのか――正直、興味を持っています」

普段自分では入ることは無い、高価な食事処にて遠慮なく食事を奢って貰った時のこと。
高価な葡萄酒が口の滑りを良くしたのか、普段は言わないだろう不躾な問いを、
招待者――即ち、騎士団長よりかけられた。

同じく芳醇な香りを持つ液体を口に含みながら、武器屋は逡巡する。
何を思うのか、と言われたら、何も考えていない、と答えるしかない。
打つことを決めた瞬間から、思考は意識の埒外に置かれる。
それをどう説明すればいいのか、武器屋は少々考え込んで。
騎士団長が己の不躾さに気づいて、質問を撤回する前に口を開いた。
彼の問いが不快では無かったとちゃんと知らせる為に。

「……子供の頃。祖父が武器を打つときの、鎚の音と、鉄の赤と、飛び散る火花を覚えています」

思うがままの言葉は、随分と散らかってしまったけれど。
相手が驚いて目を瞬かせているうちに、何とか結論まで話すことが出来た。

「それに魅せられたあの時から、ただ――武器を打つための者に成ろうと、それだけ思って、鎚を振っています」

偽りなき本心を告げると、目の前の青年はとても驚いたように目を見開き――
やがて、尊敬と何か別の感情が入り混じったような複雑な笑顔で、「素晴らしい」とだけ告げて、
祝福するように葡萄酒のグラスを掲げてくれた。





武器に願いをより騎士団長×武器屋。お食事デート中(公式)(デートではない)。
騎士団長は話してくれて嬉しいのと、自分を見てくれない不満が篭っての乾杯です(おもい)。







04 渦巻きうねる雑念を爆破したい



何がきっかけなのか、覚えていない。
たまたま、弟妹が家に居ない時だったからか。
ごく自然に触れ合った手指が、思ったよりも熱かったからか。
その時に絡み合った視線が――どうしても、離し難かったからか。
気づいた時には、その肢体を組み敷いていた。

美しい黒髪が、毛羽立った畳の上に広がって。
細いのに、均整の取れた体の線と、寝転がってもその形を崩さぬ胸の膨らみが。
脳の中の必要な回路を次々と焼き切っていくようで、ノリキの意識は千々に乱れた。
まだ昼間の、いつ弟妹達が帰ってくるか解らない時間。
身を起こさなければならないのに、動けない。動かない。
それでもどうにか、全ての理性を総動員して、どうにか片手を引こうとすると、絡み合っていた指に力が込められて。
いつも穏やかな笑みを絶やさない彼女の顔が、まるで強請るように伏目を潤ませ、唇を僅かに開いたから。
己の拳では砕けない煩悩を壊す手段が思いつかず、ノリキはそのまま彼女の柔らかい褐色の肌へ飛び込んだ。




境ホラよりノリキ×氏直。ェーロース! ェーロース!!(大興奮)
そろそろ原作でも一緒に暮らしてくださいよぅ妄想ばっかり滾ってるんですよぅ……!(必死)






05 ある意味真っ黒け、ある意味真っ白け



「僕らの戦争は、この三ヶ月間を持ちこたえること。それさえ出来れば、勝ちなんだよ」

そう言った岩崎の顔は、自分ならそれが出来るのだと確信を持った笑みであるにも関わらず、その顔色は随分と青白かった。
彼が色白なのを源は良く知っていたけれど、それにしても血の気が引いていた。
彼は本気だし、その為にはありとあらゆる手段を講じるだろう。
部隊を生かすために、誰かを切り捨てる矛盾も全て許容して。
これが己の保身だけを考えているのだったら、源は怒りのままに彼の頬をぶん殴っただろうが。
彼は間違いなく、払う犠牲の中に、源も岩崎自身も入れたうえでそんな宣言をしてきたから。

「……好きにしろよ。お前の頭だけは、信用してるからな」
「あはは、うんうん。ありがとう、源くん」

何でも無い事のように、安堵を隠して。いつも通りの笑顔で答えるその顔に腹が立って。

「けど腕は信用できねぇからな。激戦地行く時は、俺も連れてけ」

こちらも何でも無いことのように言い返してやったら、一瞬で彼の笑顔は崩れてしまったので。
反論を許さない為に肩を抱き寄せて、噛みつくように口付けてやった。





GPOより源岩源。多分緑。そろそろ岩崎に慣れて来た源と、上手く誤魔化せなくなってきた岩崎。
黒いことはいくらでも出来るけど平気なわけではない岩崎が好きです。







06 壮大なラストシーンは突然に



今ならまだ間に合う。
そう思ったのは己自身か、ほんの僅か残っていたセンセイの意識か。
目の前を歩くビンタは、命を失いかけたとは思えないほどしっかりとした足取りで歩いていて。
それを支えるように、とても仲睦まじい恋人のように寄り添って、外宮も歩いていて。

――置いて行かないで。

何も成長していない己だけが、無様に泣いて望んでいる。
自分には、ビンタの心も外宮の気持ちも止める権利が無いのが、解っているから。
だから、手の中の重い銃器を握り締める。
だから、照準を外宮の背に合わせて、引き金に指をかける。
何かの気配に気づいたのか、外宮が振り向いた。
少し驚いたようだったけれど、静止はしない。ビンタの足を止めさせようともしない。
どうやら彼女には、自分の気持ちが理解できているようだ。きっと彼女も同じ気持ちなのだ――
彼にだけは、この想いを、知られたくないと。
ああ、ああ、だから、今ならまだ、間に合うと――

衝動のまま、引き金の指に力を込めた瞬間。
当然だけど、気づいてしまった。自分が外宮を殺せば、
きっとビンタは驚き、嘆き、怒って、訳が解らないと叫び――それでも、最終的には自分の事を許してくれるだろうと。
彼はそういう男だ。一度仲間と決めた相手には、たとえ裏切られても、裏切り返すことだけはしない男だ。
良く言えば度量が広く、悪く言えば身内に甘すぎる、そんな男だ。
それを誰よりも知っていて、だからこそ狐太郎は――そこから全く、動けなくなってしまった。
だからこそ、己の行為が、彼に一生癒えない傷をつけてしまうことが、許せなかったから。




サタスペホラーリプレイより狐太ビン。衝撃のラストシーン(誇張無し)。
何が恐ろしいってこれほぼ原作ままですからね! そして結局ビンちゃん大好きな狐太郎。







07 とっくにわたしの天秤は壊れていた



広い玄室に、銃声が響く。
両手で構えられたハンドガンによる弾幕を避けるのは難儀だが、それでも弾切れによる攻撃が途切れる瞬間がある。
ずっと彼の戦い方を傍で見ていた皆守には、そのタイミングも解る。
故に、その一瞬の隙を逃さず――全力の踏み込みで、己の間合いに飛び込み、蹴りを放つ。

「――っとお!!」

僅かな呼気と共に、首を狙った蹴りは躱された。
同時に空になったマガジンが床の石畳を叩き、すぐさま弾倉を入れ替えた銃口がこちらを向く。

「チィ!!」

舌打ちし、横に跳び退る。銃弾は全て、頭や胸という急所では無く、腰から下を狙ってくる。
つまり、もろに喰らえば戦えなくなるが、致命傷にはならない場所を。
じり、という焦燥が皆守の胸を焦がす。自分は彼を殺すつもりだ、彼がここまで辿り着いたのだから、当然だ。
それなのに彼は、裏切られた筈の嘆きも怒りも見せず、どこか楽しそうに戦いを続けている。
――自分を殺そうとはしないままに。
その事実が非常に不快で――皆守は多少の傷は覚悟で、無茶な突貫をすることにした。
一刻も早く彼の息の根を止めないと、拙いことになると、何の根拠もなく思った。

「あっは――!」

彼は笑った。明確な殺意をまっすぐ向けられて、それでもとても嬉しそうに。

「何、笑ってやがる……!」

苛立ちのままに、全力の蹴りを叩きつけようとした瞬間。

「だってやっと――嘘も、我慢も、しなくていいんだろ、甲太郎!!」

まるで祝福するように、叫ばれて。必殺の蹴りは、勢いを失って躱されて。
目の前に銃口が突きつけられて――ああ、もう全てが遅かったのだと、理解した。





九龍より皆主。絆されきった皆守と、本音が嬉しい主人公。
うちの主人公は自分が信じた相手には裏切られても気にしないし、殺すつもりもナッシングです。







08 至れ、精神世界のキザハシへ



大きな荷物を背負って、ナガレは歩いていた。
長い道だったし、決して平坦ではなかったけれど、辛くは無かった。目的地に近づけるのが、とても嬉しかったから。
そして――ついに彼は、とても高い階段の麓まで辿り着いた。
大きく息を吐いて、それを見上げる。とても高く果てが見えないその階は、とても美しくて暫し見惚れた。
しかし同時に、足を乗せたら一瞬のうちに崩れてしまいそうに見えて、昇ることが出来なくなった。
見ているだけで十分だと、思いながら。我慢できずに、段の一番下に腰かけて、ずっと上を眺めていたけれど。
――ふと、目を閉じているうちに、どたばたと大きな足音が聞こえてきて。

「コラァーナガレ!! いつまで休んでんだお前!!」

何事か、と目を開けた瞬間、階段を全速力で駆け降りてくる兄が居て。

「え、えええ!?」

驚きつつも、勢いのままに走ってきた、自分より背の低い体をしっかりと抱きしめた。

「ったく、いつ来るかと思ったら休んでるだけで全然こねぇし! ほら、行くぞ!」

そんな、真っ直ぐで何でもないことのように言う彼の言葉に、背負っていた荷物は全部ばらばらと解けて崩れ落ち。
腕を引かれた瞬間、足は嘘のように軽くなって――兄の手をしっかりと握ったまま、ナガレは昇り始めた。
脆そうに見えていた階段は、とてもしっかりとしていて、二人の重みがかかっても揺れすら起こさない。

「どうだ? 良い眺めだろ、ナガレ!」

振り向いてそう笑ってくれる兄の顔が、何よりも大切で愛しくて。

「うん。――でもやっぱり、兄さんが迎えに来てくれないと、ここまで来れなかったよ」

情けない、と怒られるだろうけれど。望外の幸福に酔いしれながら、彼の手をしっかり握って告白をした。





救急青赤。全てイメージ映像でお送りしました(何)。
近づいたけど中まで入り込めなかったナガレを引っ張り上げてくれたマトイ兄さん。







09 恐ろしい光を見る必要はないよ



夜空の、宿命を司る星が輝く。
己の宿星の光を真っ直ぐに見つめながら、如月は僅かに顎を引き、決意を固める。
――やがて、凶星のものがこの地に復活する。同時に、黄龍の器も顕現するだろう。
この身に課せられた使命は決して軽いものではないけれど、心地良い重さだった。
生まれた時から、この都の守護を任されて、放り棄てることなど考えもしなかった。
だから決してあの星の輝きは、疎ましくも不快でもなかったのだけれど――

不意に、目の前が暗くなった。驚きよりも先に、瞼を緩く抑えてくる手の温もりに動けなくなる。
気配に敏い己に気づかれずに後ろに立っていた、非常に運の良い術師の男は、片手で如月の両目をそっと覆ったまま耳元で囁く。

「――あんまり、星ばっか見てんじゃねェよ。妬けるぜ」

軽口の筈なのに、耳の中に滑り込んだその言葉が随分と熱く、ぞくりと背筋が震えた。
その癖、触れたままの手はとても温かく、まるで自分を守るようで、振り払うことも出来ない。
知らず知らずのうちに力の籠っていた体が、ゆるゆると弛緩して、自然と体重を後ろに立つ体に預ける。
当然のように柔く、しかし確りと抱きしめてきた腕が心地良過ぎて。
今ひと時だけ、と己に言い訳をして、掌の下でゆっくりと瞼を閉じた。





魔人よりむらきさ。宿命を誇らしく思っているけれど、肩に力が入っちゃってる如月と、
それを止める気は無いけれど、少しだけ休めと言ってくれる村雨。







10 唯一無二だからこそお前は護り抜いて来たんだろ



「別にお前の行きたい道を、止める気なんてねぇけどよ。菊池には何も言わずに行くのか?」

ジャーナリストとしての道を歩むため、日本から離れることを決めた日に。
中学の頃からの得難い友人である安永にこんなことを言われて、相原は何も反応出来なかった。
何も言わず、というのは通常で考えればおかしい。自分の進路については真っ先に、菊池に告げた。
しかし彼の言葉がそれとは別の意味であることにも相原は気づいてしまい、どうすることも出来なかった。
対する安永は悠々と、しかしからかいもなしに、煙草を咥えたまま続ける。

「次に会うのがいつになるかも解んねぇんだったら、きっちりケジメ付けといたほうが良いんじゃねえか」

一体、いつから気づかれていたのか。親友である彼への、一言では説明出来ない、捩くれた慕情を。
そんな思いが顔に出ていたのか、安永は漸く笑った。ほんの少し、苦い笑みだった。

「俺はあいつと、離れることなんて考え付かなかったからな。なんでだ、って思っただけだぜ」

彼がもっとも大切に思う、強気で優しくて蹴りの得意な彼女と彼は、
それこそ中学の頃から、いつか必ず一緒になることを当たり前にしていて。
その為の努力を、今に至るまで怠ることは無くて。だからこそ、相原の今の様に疑問を提示できるのだろう。

「……俺は、お前みたいに強くなれないよ」
「んだよ、情けねぇな」

漸く言えた言葉は、無様に震えていて。呆れたような彼の声にも、答えることが出来なかった。
傍にいる喜びより、失う恐怖の方がどうしても強い自分では、とても彼のように生きることは無理だったから。

「言えないよ。――言う気も無いんだ」

そんな風に、酷く苦しそうに笑う相原を見て、安永はやはり呆れたように肩を竦めた。
お前が言う言葉なら、菊池は拒絶なんて考えも無く受け止めてくれるだろうに、と思ったけれど、
きっと彼は信用しないだろうとも思ったので。




ぼくらシリーズより相原英治。英治いないけど。
安永はぼくらの仲間の中でも一番大人に近いと思います。喧嘩っ早いけどね。
相原が英治以外に、己の心の内を話すのは安永じゃないかな、と。