時計+人形

のんべんだらりんごった煮サイト

恋愛の教え10題

1.およそ一生の恋というものはない

「結構真面目な話だよ。――明日夢」

いつも優しいその人が、いつになく真剣に僕の目を見て口を開いた時、嫌な予感がしたんだ。

「もし、お前の心が他の人に移った時は、俺のことは何も気にしなくていいからな」

穏やかな口調でそんな、残酷なことを言うから。
その理由が、彼の優しさから出たことも解ってしまったから。

「いいんだよ、永遠の想いなんて、そう簡単に出来るもんじゃないんだよ」

悔しくて、ヒビキさんの胸に顔を埋めて広い背中を抱きしめた。
子供くさい意地っ張りだと解っていても、口を開かざるを得なかった。

「永遠じゃ、ないです」
「うん……?」
「初めて会った時より、今。今よりきっと明日、もっとヒビキさんを好きになりますから」

僅かに息を飲んだ音が聞こえて、この人を追い詰めてしまったことに気が咎めたけれど。

「……全く。気づいたら、どんどんいい男になってくなあ、お前」

ふ、と困ったように僅かに笑う吐息が聞こえ、彼の腕が自分の背中に回ったことに安堵した。

響く鬼よりアスヒビ。必死な子供とずるい大人。





2.どんなに優れた頭脳も、恋の前には無力である

「……よし、終わり」

「マジかよ。もう少し待ってくれ」

「待つさ、頑張れ」

目の前に広げられた課題は、自分の方はまだ半分ぐらい残っているのに、相手の方はぱたりと閉じられた。
羨望と、僅かな悔しさから、英治は唇を尖らせてぼやく。

「ったく。頭に関してはお前に敵わないなぁ」

「そうか? アイディアなら、お前の方が上だろ」

「今はそういうの関係ないだろ……」

親友からの褒め言葉は嬉しいものだが、減らない課題に苦しんでいる今は素直に享受できない。

「……少なくとも、出来ないことの方が多いさ」

俯いたままだったので、その言葉をぽそりと呟いた相原の顔を見ることは叶わなかった。

ぼくらシリーズより相原英治。中学時代、相原若干自覚有り?





3.恋愛は瞬きのような瞬間だが、あまりにも多くの時間を欲する

「いつもありがとうございます――騎士団の者達も、貴方の仕事に満足していますよ」

飾りのない賛辞を告げると、目の前の金髪の青年は少しも気負ったところなく、頭を下げて見せた。
若いのに貫禄すら見せる、見様によっては生意気とも取られかねない様だが、騎士団長は彼のそんなところが好ましかった。

「それじゃあ」
「あ――」

しかし、そのまま立ち上がって踵を返そうとする、その淡白さにはどうしても我慢できなくて。
今まさに歩き出そうとした彼の袖を、掴んでしまった。

「……何か?」
「あ、いえ。その――」

どうにも、口から出そうになる言葉が、舞踏会で貴族の子女達へ向けるような言葉になってしまいそうで。
上手く回らない舌を、どうにかこうにか動かして――

「もしよろしければ、今度お食事でも如何ですか?」
「……」

あまり修正出来ずに、吐き出してしまった。
驚いたように普段伏し目がちな瞼を見開いて瞬かせる武器屋に、失敗したと更に言葉を重ねようとして――

「……別に、今日でも構いませんが」
「……! そ、それは良かった! いえ、是非あなたと語り合いたくて――」

何の気負いもなく、是の返事が返ってきて。
この国一番の武勇を誇る騎士団長は、子供のように喜びから飛び跳ねるのを如何にか堪えた。

武器に願いをより騎士団長×武器屋。騎士団長が必死すぎて若干きもちわるい(鬼)。





4.恋が恋たる所以は恋と名付けられたことにある

恋は下心、愛は真心、とはよく言ったもので。
成程、この感情は正しく恋なのだ、とナガレは自嘲する。
この感情が愛ならば。――報われることなど望まなかったろう。
この感情が愛ならば。――彼を苦しめることも無かっただろう。
この感情が、愛であったならば。――彼の幸せを、本心から祝福できただろうに。


「――うらぁ! 隙あり!!」
「っぎゃああああ!!? にっ兄さん何……!!?」

不意に、後ろから抱き付かれた。
否、正確には後ろから両腕を腰に回されて、身長差にも関わらず軽々と床から持ち上げられた。
吃驚するやら嬉しいやらわけが解らないやらで、すっかり自慢の頭脳の回転が止まってしまった流れに対し、勝ち誇ったように笑うマトイは。

「まーたくだらねぇことで悩んでたんだろ? ショウ達もいねえし、たまには兄ちゃんが抱っこしてやろうってな!」
「……いやこれは抱っこっていうか、バックドロップ一歩手前っていうか」
「んー? このまんまひっくり返してやろうか?」
「ごめんなさい止めてください!」

本気で止めた弟の声に、兄は本当に楽しそうに笑い声をあげ。
ああ、これこそが愛なのだ、とナガレは改めて思う。
このど真ん中の愛情は、下に置いた心さえ、力いっぱい救い上げて幸福にしてしまうのだから!

救急青赤。ナガレ兄さん惚れなおしの巻(いつもの)。





5.彼にとっての心変わりは彼女にとっての裏切りに相当する

「俺もお前も、違っていて。だけどお前は、正しいと認められた」

そう告げるノリキの声はとても硬く、何の感情も籠っていなかった。少なくとも、氏直にはそう聞こえた。
何故、という問いは、意味をなさないものだ。
彼が選んだ道筋も、彼が選べなかった事実も、全て、高速思考を使っても当然と言う結論しか出せないもので。
それでも。それでも――、諦めきれないのは。

約束をしたのだ。
幼い頃の、戯れとしか彼は思っていなかったのかもしれないけれど。
どんなことがあろうと、絶対に互いは互いの味方でいようと――。


「待ってますから……!」

向けられる背にかけた最後の言葉は、懇願であったのに、詰りのようになってしまった。
それをはしたないと解っていても――、止めることなど出来なかった。

境ホラよりノリキ×氏直。最近のラブっぷりを見るにつけ、V巻での邂逅は氏直さん大ショックだったんじゃないかなあとシミジミ。





6.恋をする人はみな幾許かの欺きにあう

「――、おい。掌を広げて見せろ」
「……チッ。ばれたか、ツイてねェ」

一瞬の隙。場の札に伸ばされた村雨の手指が僅かに動いたのを、如月の鋭い視線は逃さなかった。
村雨も一瞬抵抗しようとしたようだが、無駄を誘ったのか、面白く無さそうに手を広げる。ぱらりと一枚、手札とは違う仕込みの札が落ちた。

「この僕の目の前で、イカサマをしようとはいい度胸だな」
「仕方ねェだろ。こいつで勝てなきゃ、今日はお預けなんてごめんだぜ」

勝ち誇ったように僅かに胸を張った如月に対し、村雨はあくまで飄々と花札を弄りながら呟く。僅かに口元を札で隠し、に、と笑んで見せるおまけつきで。
僅かに震えた心臓を誤魔化すために普段通りに一度呼吸し、改めて札に向き直る。
今のところは五分五分だ、次で札が起これば雨入り四光を狙える。
……別にそこまで閨を拒んでいるわけでも実は無いのだが、勝負になってしまったのなら負けたくないのもまた事実なので。

「いざ、勝負――!」

気合を入れて札を捲ったものの、望みのものは手に入らない。小さく舌打ちした如月に対し、村雨はにやりと笑い。

「よし、赤短。コイコイは無しだ」
「く……! そんな安い手で上がるつもりか賭博師が!」
「悪ィな、勝てるチャンスは逃さねェのさ」

嘯きながら、村雨は手札を持つのとは別の手の中をこっそり確かめる。
憤懣やるかたない如月は、最初に笑みを見せた時に山札を一枚誤魔化されていたことに気づかない。
山から取り上げた雨札をこっそり確認し、村雨は己の幸運に感謝した。

魔人よりむらきさ。騙し騙されそれも愛。村雨的には最初のイカサマもフェイク。





7.恋愛に絶対はないが、相対があるわけではない

世界が不公平だなんて、狐太郎は当然気づいている。
この街で生きる人間ならば、きっと物心ついた時にはもう皆知っているだろう。

富める者と貧しい者。
強い者と弱い者。
報われる者と、報われない者。

きっと自分の想いはこのまま、誰にも気づかれないまま腐って、体と一緒に土に返るのだ。
でも、幽霊になって心だけこの世に残るのなら、腐らないまま綺麗でいられるだろうか。
もし、そうしたら、

「ねえねえビンちゃん、もし僕が死んだらさ」
「……いきなり縁起でもねぇこと言うんじゃねぇよ」

外宮が帰った後の事務所で、ソファに向かい合いながら、狐太郎はなんでもないことのように言う。
しかしビン太はすぐさま不機嫌そうに眉を顰め、吸っていた煙草を身を乗り出して、狐太郎の眉間に押し付けようとする。
慌てて両手で額を抑えて仰け反りながら、狐太郎は必死に叫ぶ。

「だから、もしもだってば! そうしたら多分僕、幽霊になるからさ。そうしたらここに化けて出てもいい?」

そんな、馬鹿な話を聞かされて。ビン太は心底、いつも通り面倒臭そうに。

「アホか。俺は幽霊なんて、信じてないっつーの」
「――うん。知ってる」

いつもなら「だからビンちゃん、幽霊ってのはね!」と鼻息荒く解説という名のオタク語りをしてくる狐太郎が、やけに聞き分けの良い笑顔でそんな風に言ったから、一瞬ビン太は違和感を覚えたが。

「おなか減ったねー。ご飯食べに行こっか」
「、ああ。お前の奢りだろーな?」
「従業員にたかるの!? まだ今月の給料貰って無いのにー!」
「つまり俺にも金がねぇってことだ。グダグダ言うな」

酷いよビンちゃーん! と嘆く顔はいつもの狐太郎のままだったので、その違和感を飲み込んでしまった。

サタスペホラーリプレイより狐太ビン。ちゃんと意識してる狐太郎と何も気づいてないビンちゃん。えぐい(顔覆)
ハナから自分が報われるわけがないと諦めてる狐太郎。えぐい(顔覆)






8.愛に永遠を期待しないことだ あれは逃げるのを仕事にしている

ぱちりとジョーが目を開いた時、白い背中が服を羽織るのが見えた。

「あれぇ、起きたの? 本当気配感じるの上手いね、ドーブツ並」

気づくお前も大概凄いと思うが、という混ぜ返しは懸命にも口に出さず、改めて振り向いた件を視界に収める。
昨夜の情事痕があちこちに刻まれた体が、一枚羽織ったシャツの隙間から見えるのが何とも扇情的だ。
ごく自然に、寝転がったまま彼の腕を取ろうと、しっかりと筋肉のついた腕を伸ばし、

「はは、だーめっ」

……綺麗に躱された。不覚、と思いながらも、彼に対して本気の瞬発力を出せるわけもない。
己の体が簡単に凶器と成り得ることを知っているジョーにとって、目の前の彼の体は、とても脆く見えて。

「いい加減起きないと皆にどやされるよぉ。お腹も減ったしね〜」

煮蕩けたような声で囁きながら、更に身支度を整える風も無く、ふらふらと外に出ようとする。
彼が本気で子供達の前に、そんな婀娜めいた格好を見せるわけが無いと解っている。
つまり、――追いかけさせて、捕えてみせろと、告げているのだ。
shit,と小さく悪態を漏らすが、そんな彼に抗えない己であるのは充分理解しているので。
一呼吸で体を跳ね上げ、二歩で彼に追いつき。逃がさないように、両腕で思い切り抱きしめた。

「こぉら。駄目だってば、痛いよ」

言葉は非難である筈なのに、響きは甘くて、何より満足げにこちらの喉に顔を擦り付けてくるから。
我慢できずに、彼の顎を引き寄せて朝から深い口付けを捧げた。

マッスルヒートよりジョー憲。憲さんが開き直り捲くってます。





9.恋をするのは精神だが、愛を受け取るのは身体である

何の意味があるのか。羽村の持つ第一の疑問はそれだった。
生殖行為とはその名の通り、子孫を残すのが目的の行為だ。人間ならば、精子と卵子が必要であり、それを交配させる為の行為なのだ。
それ以外の理由など存在しない。そう思っていたのだが、どうやら塔の外では異なるらしい。
「快感」を得るための行為。
「愛情」を確認するための行為。
どちらも、彼にとって無縁すぎる代物で、さっぱり理解が出来なかった、のだが。

初めて唇を合わせたのは、衝動だった。
二人で勉強代わりに見ていた洋画のワンシーンで、母親が幼子の頬に口付ける、情景を真似て。
何が起こるのか解らなかったが、触れた瞬間、彼の頬がとても熱かったことは覚えている。
熱が出たのか、とすぐに顔を離すと。
彼が顔を紅潮させて――それでも、本当に幸せそうに、笑っていて。
その後、悪戯っぽく、お返しです、と言われて。
彼のやはり熱い唇が、己の頬に触れた瞬間、じわりと体温が上がったのを理解した。
すぐに離れてしまった熱を、惜しいと感じた。
もう一度、触れたいと願ってしまった。
衝動が己の身を動かすのは――非常に不慣れであったけれど、彼相手にはとても良くあることで。
ぶつけるように押し付けた唇が、目算を誤って彼の唇にそのまま触れた。

お互い、びくりと震えたのだと思う。
離れようかと思い、躊躇って。どちらからともなく、ゆっくりとだが、押し付け合って。
僅かに聞こえた彼の吐息に、ぞくりと背筋が震え。
――もっと深く触れたいと、望んでしまった。

ゆるゆると、唇を開いた。戸惑いの行為であったけれど、相手の唇は一度怯えるように震え――しかし、受け入れるように、そっと開いた。
熱く濡れた粘膜が、触れる。触れ合う。互いの腕を背に回し、隙間が出来ないように力を込める。
彼が困ったように身を捩ると、離さないと力を入れ。やはり離すべきなのかと緩めると、逆に彼の手に力が籠った。
その時初めて、互いに着ているただの衣服が、互いを隔てる――酷く邪魔なものだと、感じた。

バベルよりはむとま。この二人に一線を越えさせることをまだ諦めていない。





10.別れを恐れたのでは遅すぎる 出会ってしまうことを恐れよ

一体何処で、間違ってしまったのだろうか。
そんな思考は、青い火にでもくべてしまおう。


「僕は、オルフェノクを守る」
「俺は、人間を守る」


最後の結論を出してしまったことに後悔など無い。


「君が、ファイズだったなんて……!」
「お前、オルフェノクだったのか……!」

憎んだ相手が、彼だったことの絶望など、どうってことない。


「君、猫舌なの?」
「……うるせぇ」

何でも無い、何も知らなかった頃の安らぎなんて、懐かしまない。


「僕は、木場勇二」
「俺は……乾、巧だ」

出会ってしまったのが、間違いだったなんて。
どんな結末を迎えたとしても、信じたく無かったんだ。

φズより勇巧勇。久しぶりに書きたかったのだけど結局こういう散文チックにしか書けない(トラウマ)。
何も考えずこの二人がラブラブなパラレルとか……読みたいよ……!(自分で書けるとは思ってない)