時計+人形

のんべんだらりんごった煮サイト

色々小説お題ったー 三題話風に。

赤と青に縁取られた、村雨からの手紙は、大概が一枚の絵葉書であり、言葉が書かれていることは滅多にない。
なので、やや癖のある字で書かれた宛名の荒さを見て、急いでいたのか、暇だったのか、と想像するのだが。
今回は珍しく、綺麗な空の写真、その片隅に走り書きの言葉が一編。

“この国には目元が暑苦しい女が多すぎる”

嫌気か、はたまた女性に好かれているという自慢か。それしきのことで此方が動揺するとでも?
余裕と不満を半分ずつ込めた息を吐いてから、ふと思い出してしまった。

眦をついと長い指でなぞられて、お前の瞼は涼しげで好い、などと閨の中で囁かれたことを。

反射的に手に力が篭り、折角の青空をぐしゃりと握り潰してしまったけれど。
それに反比例するように、全身に広がっていく面映さが何とも悔しくて仕方がなかった。





「文字」「一重」「満たされる」で魔人むらきさ。
如月は一重瞼であると強く主張(趣味)。



×××



嫌な毒気が、体にじわりと巡っていくのが解る。
下らない、仕方ない、有り得ない、そう解っている筈なのに。
兄の傍に美しい女性が近づき、賞賛と好意を伝える度に、自分の中から化け物が浮かび上がってくる。

彼女達は当然、男ではなくて。――自分には絶対に持てないものを、兄に与えることが出来て。
彼女達は当然、妹でもなくて。――自分では絶対に与えてしまう負い目を、無くす事が出来て。

「っこら! お前なぁ明日も早いんだから――……ナガレ?」

遅くに帰ってきた兄を自分の部屋に連れ込んで押し倒すと、怒った後に訝しげな顔。
ああでも今は、貴方の優しさすらこの毒を引き摺りだしてしまうから。

些か乱暴に彼の口を吸い、朝が来るまでの短い間、半ば無理やり行為に及ぶ。
……勿論、それを兄に許されているからこそ出来るのだと、良く解っては、いるけれど。





「嫉妬」「血清」「夜は短し」で55X次男長男。
ちょっと煮詰っちゃったけれども、これも一種の調子乗り(台無し)。



×××



じわじわじわじわ、まるで機械のように均等に、延々と、蝉が鳴いている。

「あっついなあ……」
「おう……」

夏休みももうすぐ終わるのに、暑さだけは未だ留まることを知らない。
今日は部活が休み、学校の夏期講習も終わって、何故夏休みに学校に行かなければならないのかという愚痴を散々言い合った後。

「菊地。いくらある?」
「……貧乏だよ。300円ぐらいしかない。お前は?」
「似た様なもんだ。流石にこれでアイスは買いたくないな」
「コンビニのは、高いもんな」
「な」

顔を見合わせて少し笑うけど、暑さが和らぐわけもなし。
遠慮なく落ちてくる首筋の汗を、ぐいと拭うと、相原が先に寄りかかっていたガードレールから離れた。

「うち来るか?」
「え、今日塾休みだろ」
「……俺の部屋に上がれば良いだろ」
「あ、そうか」

相原の家に行くというのは、殆ど相原学習塾に行くことと同義になっていた菊地にとって、一瞬考えつかなかった。
何故かその反応にちょっとだけ不満を見せた相原は、歩き出して菊地を促す。

「寄ってけよ。麦茶ぐらいなら出すぜ」
「んじゃ、喜んで」

ゆらゆら陽炎が残る道を、いつも通り、二人でのんびり歩いていった。





「財布」「麦茶」「憂鬱」でぼくらシリーズ相原英治。
なんでもない日常を書きたかったのだけど本気で山も落ちも意味も無い(あかん)。



×××



家の近所の公園を、二人で歩くのは、いつしか日課になっていた。
そんなに大きくない公園だが、雑木林もあるし、池もある。
自然というものに未だに慣れない羽村にとっては、いいリハビリにもなるらしい。
だから今日もいつも通り、羽村の仕事が早めに終わり、トーマの学校から帰る時間と重なったので、散歩に興じていたのだが。
池の周りまで近づいた羽村が、僅かに驚いたように足を止めた。
どうしました、と聞こうとして、トーマはすぐに気づく。池の中に、恐らく渡り鳥であろう大きな水鳥が、何羽か羽を休めているのだ。
少なくともこの前来た時は、まだ居なかった筈。一般の人なら気づかない人もいるだろうに、彼にとっては露骨な変化だとトーマにも解るので。

「渡り鳥がこの街に来たんですね。この季節だけ、やってくるんですよ」
「……そうなのか」

僅かに瞳を瞬かせて、不思議そうに羽村が言う。足は止まったままだが、視線は鳥から動かない。
興味はあるが、近づくことによる更なる変化を恐れているのだと、トーマもちゃんと気づいている。
だから、そっと彼の手をとって、促すように引き、池の畔まで近づいた。

「……大きいな」
「羽を広げると、もっと大きいですよ」
「そうか……」

ゆっくり池の周りを歩きながら、優雅に浮かんでいる水鳥を観察していると、水鳥の餌を売っているらしい老婆が二人に声をかけてきた。

「あらまあ、仲の宜しいこと。ご兄弟?」
「えっ……あ、」

全く嫌味のない、笑顔で言われた問いにトーマは戸惑う。元々、嘘を吐くのには慣れておらず、では二人の関係をどう答えたら良いのか、それも解らない。
混乱したまま、とりあえず繋いだ手を離そうと思って指の力を緩めると。
ぎゅっと、痛くない程度だがしっかりと、羽村の手指に力が篭った。
トーマが驚いているうちに、羽村はいつも通りの静かな声で、呟くようにこう言った。

「はい。――家族です」

驚きすぎて、トーマは息が出来なくなった。
羽村が誤魔化しの為の嘘を言ったのも驚きだし、それより何よりその回答が、嬉しいのか気恥ずかしいのか困るのかも良く解らなくて。
ただ、甘いのに苦しい息が肺一杯に詰ってしまったようで、何も言えず、ただ彼の手を握り締めて是と応える。
同じぐらいの強さで彼の手が握り返してくれたことに、漸く安堵の息を吐くことが出来た。





「嘘」「鳥」「満たされる」でバベルはむとま。
家族という括りすら自分達には贅沢だと思っていたらしい二人。



×××



かちり、と紙巻の先に火を点ける。僅かな酩酊感を齎す煙を肺に吸い、思い切り吐き出す。
久々に味わう煙の旨さに暫し浸っていたら、外から父親と娘のはしゃぐ声が聞こえてきたので、僅かに舌打ちして携帯灰皿を取り出し、火を消す。

「「たっだいまー!!」」
「……お帰り」
「あれ、三条さんだけですか?」
「ああ、理由は知らんが皆出ている」

幼稚園から帰ってきた舞は凌駕と手を繋いでにこにこしていたが、ふと不思議そうに首を傾げる。

「りょうちゃん、なにかへんなにおいがするよ?」
「んん? ……あっ三条さん、もしかして」
「文句を言うな、ちゃんと消しただろう」

鼻を動かしながら、咎めるように言う凌駕に対して幸人はしれっと返す。
実は愛煙家であることを、幸人は凌駕にしか喋っていない。
正義の味方になった後は、自主的に本数を減らしていたのだから文句を言われる筋合いはあるまい、と本気で思っている。

「まあ良いですけど〜。本当は止めた方が体に良いんですよ?」
「量を守れば安定剤の役目は果たせる。適量は解っているから気にするな」
「ええー、結構俺の前では続けて吸ったりしてません?」
「お前がイラつかせるから悪い」
「酷いなぁ」

ぽんぽんと言葉を交わしつつも凌駕は笑顔で、お土産ですと言いながら、どこぞの屋台かスーパーで買ってきたのであろう安っぽい焼き鳥を差し出してくる。
幸人もまったく悪びれず、遠慮なくそれを受け取ろうとしたのだが。

どん。

「ん?」
「舞ちゃん?」

スツールに座った幸人の膝と、立ったままの凌駕の腿に同時にしがみつく様に、舞が体当たりをしてきた。
ぷうっと膨れた頬を幸人の膝の上に擦り付けて、精一杯の不満げな声で言う。

「りょうちゃんとゆきとさんばっかり、わかっててずるい! まいもまぜて!」

話の意味が全く解らないまま進んでしまって、寂しかったのか。
普段聞き分けのいい娘の、なんとも可愛い我侭に、凌駕は満面の笑みになり、幸人の口元も思わず緩む。

「悪かったな、来い、舞」
「わぁ!」
「あっ、ずるいですよ三条さん! 俺にもだっこさせてください〜! 舞ちゃーん!」
「きゃー! くるしいー!!」

一歩早く幸人が動き、己の膝にひょいと舞を抱き上げると、慌てて凌駕もそのまま舞を挟むように抱きしめる。
苦しさを訴えながらも、既に舞は笑顔を取り戻し、狭い腕の中できゃっきゃとはしゃいでいた。





「煙草」「鳥」「やきもち」で青赤舞。
やきもちを焼いちゃったのは娘、その娘が可愛くて仕方ない父二人。



×××



油断は一瞬だが、それで充分すぎた。
がしゃん、と横倒しになる車椅子、からからと回る車輪、放り出された衝撃に呻く己を、狩谷はやけに冷静になって俯瞰した。

「……くそ」

噛み締めた口から漏れるのは悪態だ。これぐらい、この足が動かなくなってから良くある事だ、立て直すのも慣れたものだ。
そう思っているのに、己の腕は遅々として進まず、車椅子を起こすことすらしない。

「くそ。くそっ……」

がり、と己の膝に爪を立てる。
食い込んだそれの痛みは全く感じられないのに、じわりと赤い液体が沸いてくる。
いっそ黒い粘液でも出てくれば、これは己の足ではない、化け物の足だとまだ納得がいくものを。
まだ、座り直せない。否、座り直さない。いつもなら、この辺りで、


『なっちゃん!? 大丈夫、しっかりして!』


血相を変えた彼女が、走ってくる、筈なのに。

「ちくしょう……!!」

苛立ちが、拳になって膝に向かった。がつん、がつんと叩いても、痛みは愚か衝撃ひとつ感じない。
彼女が最近、部署異動になってパイロットに就いたのを知っている。
あまり放課後会えんくなるかも、と申し訳無さそうに言う彼女が不快で、勝手にしろと罵声を浴びせたのもつい先日。
怒り、苛立ち、激しい感情が体中を席巻して、無数の棘になって内側から体を突き破りそうだ。

「なんで、お前は……!」

来ないのだ、と思ってしまった己が。
彼女を待っている、待っていた己が。
希望なんぞを持ってしまった己が、誰よりも何よりも、只管に腹立たしかった。




「不幸」「爪」「ブラック」でGPM夏祭。
いろんな二律背反はなっちゃんの真骨頂だと思う。割とマジで。



×××



「おやおや、凄く素敵なものを持ってるねぇ源くん」
「チッ、目ざとい野郎だ」

小さな瓶に入った琥珀色の液体を、仕舞いこむ前に天性の食客に見つけられてしまい、源は露骨に舌を打った。
調達班からこっそり横流しして貰った蜂蜜だ。出来れば自分ひとりで久々の甘味を堪能したかったのだが、間違いなく集られる。
源もそれほど甘い物自体が好きなわけでは無いが、疲労と体力の回復に優れた薬とも言えるこれを易々と手放したくない。
彼に「お願い」されるとどうにも逆らえないのが、彼が部隊長だからと言うだけでは無いのがまた悔しくて、只で渡したくは無かった。

「別に全部とは言わないよ、半分――いや、四分の一――もっと言うなら一舐めでもいいんだけど」
「プライドがねぇのかテメエは。……そうだな、俺をビビらせるようなことが出来たら、分けてやっても良いぜ?」
「うーん、そうか、うんうん。難しいねぇ」

顎に手を当てて大げさに考え込む岩崎を見て少しは溜飲が下がるが、隊長命令で没収すればいいものを、という苛立ちが逆に出てくる。
勿論、そんなことをすれば源が何の躊躇いも無く彼を殴れるから、なのだが。

「……うん、こんなのはどうかな?」
「へっ、何だよ」
「昨日ハヅキさんの厩舎に朝早く行ったんだけど」

自分の雷電の名前を出し、岩崎はいつもと変わらないおっとりとした口調で話し始めた。

「朝露で寝藁が濡れていてね、ちょっとよろけて壁に手をついてしまったんだよ」
「ドジだな」
「あはは、うんうん。それでね、やれやれと体勢を立て直してふと壁を見たら」
「……なんだよ」
「こう、僕の手の甲の、本当すぐ横にね?」

わざわざ手振りを入れてから、岩崎は笑ったまま。

「手とおんなじぐらいのサイズの、蛾がぺたーっと止まってたんだよねえ、うんうん。壁と保護色だったから全然気が付かなかったよ」
「う、おああああ! そういう鳥肌が来るのは止めろおおおお!!」
「一歩間違ったら、手の中でぐしゃあといってたのかと思うと、流石の僕も血の気が引いたよ、うんうん」
「だから黙れぇ! あーもう、畜生!」

両腕を掻き毟り、相手の言葉を止めるために源は蜂蜜瓶を岩崎に向け、結構本気でぶん投げた。

「おやおや、全部くれるのかい? だったら源くん、一緒に食べようよ」

あっさりそれを受け止めて、先刻と変わらない笑顔で言われた言葉にまた腹が立って、ずんずんと源は校舎裏へ歩いていく。
当然、岩崎もすたすたとそれを追っていったのだけれど。





「蛾」「いじわる」「蜂蜜」でGPO源岩源。
危うく潰しかけた壁の蛾、は実体験です。流石にそんな大きくは無かったけども。



×××



※念の為ダンガンロンパ1・2のネタバレ注意です※













頼りない。戦刃むくろが最初に思ったのは、それだった。
テーブルの上に店員が無造作に置いていったのは、武器としては使えないだろう金属の食器。
刃はそれなりに尖っているのに、強度はとても使用に耐えられないだろう。
むくろにとっては、こんな刃物が何故この世に存在しているのか? と思うぐらい、理解不能の代物だ。
こんな、「役に立たないもの」が。

「……戦刃さん、パフェ来たけど、食べないの?」
「えっ」

思考に沈んでいた脳髄が、きょとんとした言葉で引き戻された。
目の前には、大きなガラスの器に盛られた、随分と甘そうな果物と動物性脂肪、それとチョコレートの盛り合わせ。
……そして、その向こう側で同じものを口に運んでいる、何の緊迫感も無い、一人の少年。

「ぁ……、え、っと」

今日此処に自分がいる目的は、当然妹に命じられたからだ。
妹の考えなど、出来の悪い姉にはさっぱり解らない。
だが、「今日苗木を呼び出したから、『×××』ってお姉ちゃんから言ってあげて、それぐらい出来るでしょ」と言われたから。
だから待ち合わせの場所に、時間ギリギリに来て「ごめんね、遅れて!」と言われた時も、
この店に入って、何を頼めばいいのか解らなくて相手と同じものを頼んだら、「戦刃さんもパフェ好きなの?」と笑った時も、
言わなければいけない言葉がそのたびに、何故だか喉の奥底で止まってしまって。
また、妹に叱られてしまう、それは絶対避けなければいけないのに。

「あの、苗木くん――」
「うん? 何?」

理由は解らない、ただきっとこれは彼に絶望を与える言葉になる筈、だと、思ったから。
不思議そうに首を傾げた彼の顔を直視できなくて、やっと口の中までやってきた「大嫌い」の言葉を、クリームと一緒に無理やり飲み込んでしまった。





「刃物」「パフェ」「大嫌い」でダンガンロンパ苗残。
お互い自覚無しなのに妹様には気づかれててかき回される二人。



×××



新しく覚えた舞を、披露したいのですと彼女は言った。
宴でもあるのか、と問うたら少しだけ拗ねた顔で、督姫様だけにお見せしたいのです、と解るべきことをはっきり言ってくれた。
舞台の上でも部屋の中でもない、誰にも悟られないように裏庭の片隅で、ひっそりとその発表会は行われた。
ひらりふわりと、まるで蝶の羽のように白絹が風に舞う様を、督姫はずっと目で追い続けている。その動きを具に見詰めて、真剣に。
その舞が美しくて見惚れていたというのが一番の理由だったが、もうひとつ。
つい先日まで熱を出して床についていた彼女の体力が、心配だったからだ。

「、あ――」
「っ氏直!」

案の定、と言うと彼女に失礼かもしれないが、後僅かで終わるという油断のせいか、けして平らではない地面のせいか。
ふらりと傾いだ少女の体を、少年は咄嗟に飛び込むように支え――

がっつ、と互いの顔で一番堅いものがぶつかった。
じんと震える痛みと衝撃に耐え、互いに咄嗟に閉じた瞼を恐る恐る開くと。

「「――!」」

思ったよりも近い位置で、互いの睫が触れ合うほどで、驚きのあまり動けなくなる。息を呑んでしまい、言葉の一つも発せられない。
しかし、自分の犬歯が相手の唇に、刃物の如く刺さっていることと、口を濡らす唾液とは味の違う滑りに督姫は気がついた。
怪我をさせた。
離れなければ。
そんな当たり前の理性が、舌に触れる液体から感じられる甘さで、留められてしまう。
馬鹿な、と思う。口に流れ落ちるのは間違いなく、独特の塩辛さとえぐみを持つ血液の筈だ。
それなのに、何故。

「督姫さま……んっ」

僅かに離れた唇から己を呼ぶ名を聞いた瞬間、もう一度塞ぐ衝動が沸くほどに、そこは酷く甘かった。




「ナイフ」「蝶々」「甘党」で境ホラのりうじ。当たり前のように幼少期捏造です。
欲望にかまけすぎだよ!(素直) 強引なノリキさんもいいよね!(落ち着いて)



×××



珍しくパチンコで大当たりが出て、三文判ビンタはご機嫌であった。
最近寂しかった財布の中身が一気に潤い、同居人や従業員の土産に端玉を菓子に換えるぐらいにはご機嫌であった。
意気揚々と事務所に戻ると、外宮はおらず、何やら怪しげな表紙の本を捲っている狐太郎だけだった。

「おかえりービンちゃん」
「おー」

いつもなら勝ったの? 負けたの? と不躾に聞いてきて眉間に煙草を押し付けられる狐太郎だったが、
今日は余程本が面白いのか、ちらと視線を上げただけですぐに紙面へと戻す。
その様に、基本傍若無人なビンタはちょっとだけイラッとする。
折角土産を持ってきたのにその態度は何だ、と怒鳴るために息を吸い込んだのだが。
本に夢中になっている狐太郎が、無意識なのだろう、自分の親指の爪をかちりと噛んでいるのを見て、別口の不快感が沸いた。
みっともない、という気持ちもあるし、汚ぇな、とも思った。
しかしそれだけではなくて、では何なのかと言われるとビンタには解らない。解るほどに考えない。
深い思考とは無縁の生き方で20年以上やってきたのだ、今更変えるのは無理だ。
だから、今回もビンタは衝動の赴くままに動く。荷物の中から駄菓子の棒付き飴を一本取り出して、

「おい」
「なにー?」
「おら」
「もぐぐっ!?」

返事をする為に指から口を離した瞬間、その隙間に丸い飴を捻じ込んだ。
唐突な衝撃に目を白黒させた狐太郎が涙目でビンタを見て、自然とビンタの溜飲は下がる。

「んん……らにほれ」
「土産」
「あいがとー、ビンひゃん」

安い甘さが気に入ったのか、もごもごと口を動かしながら狐太郎は笑う。
その時にはすっかりビンタの機嫌も上向きに戻っていて、「おー」と生返事をしながら向かいのソファにごろりと寝そべった。





「財布」「爪」「甘党」でサタスペホラーリプレイ・狐太ビン。のつもり。逆っぽいけど。
くくく……ついに書いてしまったぜ……何せ滅多に無いからこれが創作として正解なのかも解らないぜ!(痛)
ビンちゃん大好きな狐太郎(意識的)と、狐太郎は俺の「もの」だと思ってるビンちゃん(無意識)が好きです。