時計+人形

のんべんだらりんごった煮サイト

進み続ける人たちへ10題

01 走り続ければいいってもんじゃない


「―――右43度。残り2体」

小さな声で呟かれるのは、只の確認であり誰に聞かせるものでもないと知っている。
マガジンをワンアクションで詰め替え、両手に銃を握ったまま敵に突撃。

ダンッ、ダンッ!!

「――スイッチ。前方25メートル、敵影」

逃さず急所に銃弾を叩き込み、踵を使って方向転換。
暗闇の向こうにいる影に腰を屈めて走り出―――

「あ〜、眠い」
「んぐぶっふ!?」

―――そうとしたので、思い切り襟首を掴んで引き戻した。
息苦しさに文句を言われる前に、自分達の目の前を衝撃波が通り抜けていく。

「…おぉう。ありがと、甲太郎」
「ぁあ? 勘違いすんな、眠かっただけだ」
「アナタ眠いと人の襟首掴んで引き寄せるんですか抱き枕代わりですか」

礼を言いながら、胡乱気な視線を向けてくるのを無視しつつ。
無温の視線と声が、いつも通り血の通ったものになったことに何故か安堵した。




九龍皆主。止まれ、止まれ、行くな。









02 柵なら飛び越え壁なら砕け


この世界には、理不尽な事が多すぎる。
子供を弱者として虐げてしまう教師、
金儲けのことしか考えない企業。
誰もが年を経るにつれて諦めてしまうそんな事を、
どうしても見過ごす事が出来なかった。
きっと一人では、挫けて倒れてしまったけれど。

「俺達の解放区を作るんだけど、お前もやらないか?」

お前がいれば、きっと。
どこまでだって。




ぼくらの相原英治。な なれそめ?(黙れ)相原は英治の事が大好きだと(もういいよ)








03 一人でもいいから頼れる人がいればいい


「こんにち…あら」
「も、申し訳ありません、木崎さん」

定期健診という名目の来客を、トーマは彼にしては非常に無作法である、
居間のソファに座って立ち上がらないままという状態で出迎えた。

「驚いたわ、熟睡ね」
「はい…お疲れだと思うのですが」

その原因は、ソファに腰掛けた彼の膝の上に頭を乗せ、
胸に読みかけの本を抱いたまま完全に眠りの世界に落ちている一人の医者。

「ああ、良いのよ起こさなくて」
「いえ…すみません、もう少しだけ」

申し訳ないと思いつつも、彼の小さな掌は膝の上の子供の頭を無意識のうちに何度も撫でてやっている。
本当に懐いたのね、と少々失礼なことを思いながら、木崎は自主的に自分の分のお茶を入れる為立ち上がった。




バベルはむとま。お互いが頼れる場所。








04 疲れたときには甘いものを


ぽりぽりと軽い音を立てて減っていく細い駄菓子。
煙草の代わりに咥えられているそれを見て、如月は僅かに目を瞬かせた。

「…珍しいものを食べてるな」
「あァ。貰いモンだ」
「だろうな」

まさかこんなものを彼が自主的に買うとは思えない。
恐らくさっきまで出ていた、競馬場辺りで意気投合した馬仲間にでも貰ったのだろう。
別に好きなわけではないが、目の前で食べていられると自分も欲しくなるもので。

「一本くれないか」
「もうねェよ。半分でいいか?」
「ああ」

ぱか、と口を開けると自然に咥えられたままの菓子の逆側が舌の上に乗り、
有難く半分ほどぽりぽりと頂いて飲み込んだ。




魔人むらきさ。今更ポッキーゲームぐらいじゃ照れない夫婦。







05 そうやって独りぼっちだと思い込むの?


だってこの想いは成就できないと解っていて、

「舐めんなよ、この馬鹿」

こんな醜い衝動に貴方を巻き込むなど出来なくて、

「もう遅ぇっての。これで俺も共犯だ、癪だけど」

それでもそれでもそれでも、

「観念しやがれ、馬鹿ナガレ」

ごめんなさいもうこの手を離すことなんて出来ない。




555次男長男。「モラリストの涙」の続きっぽい。









06 休むことは悪いことじゃない


「源くーん。源君ってば」
「………………」
「おーい、源くーん」
「っと、んだよ! 人が折角ノッてる時に」
「ウォークマン、随分音漏れしてたよ。ボリューム大きすぎない?」
「これぐらいの方が気合が入んだよ」
「ふぅん? ちょっと貸して貰っていいかい?」
「ってオイ何すんだ!?」
「…うん、中々いいねぇ、うんうん」
「……勝手にタダ聴きしてんじゃねぇよ」

うっかりお互い逆側の耳にイヤフォンを被せてしまい、
ぴったりくっついてロックを拝聴する羽目になった。
一番問題なのは、偶然厩舎にやって来た英史に揶揄交じりの呆れを向けられるまで、
寝藁の片隅で小さくまとまっている自分達二人に疑問を見出せなかったことだろう。




ガンオケ源岩源。たまの休日。
アレ、もしかして音楽とかも多目的結晶で聴いてるのかな(汗)。






07 走って走ってゴールは何処にあるの


世界が自分に対して余りにも残酷であるから、
自分も世界に対して残酷であろうとした。

持っていたものを切り落とすのは苦痛ではなかった。(もう既に持っているものは僅かだった)
湧き上がる苛立ちと怨嗟は尽きる事が無かった。(幸いぶつける相手はすぐ傍にいた)
だから計算外だったんだ、(矛盾矛盾矛盾。所有物を切り捨てられていない)
何でお前は壊れない。(何でお前を忘れられない)

「お願い………。帰ってきてぇな、なっちゃん」

ああ。
お前が僕の、帰る場所だったのか。


「おかえり…!」




ガンパレ夏祭。絶対になくならない場所だと信じられた。









08 たまには周りも見てごらん


一度決めた事を翻したくは無い。
鬼に変じて人を護ると決めた。
前へ、前へ、前へ。
周りの人は驚き呆れつつも、励ましてくれた。
だからたった一人で歩いていても、平気だった。
平気だと、思っていた。


ふとした時、くるりと振り返ると。

「ヒビキさん」

驚いた後に、笑ってくれる彼がいた。
自分が振り向くだけで、本当に嬉しそうに笑ってくれた。
距離はつかず離れずだけれども、決して立ち止まることだけは無かった。
本当に、それだけで。
こんなに嬉しくなるなんて、知らなかったんだ。





鬼アスヒビ。ヒビキさんもある意味孤独なひとだよなぁと思う。
だからお前らもう結婚しちまえよ(寝言)。








09 優しさに触れたら


―――余り信じたくない、結論ではあるけれど。

「アンタさぁ…もしかして」

血の滲んだ痣の上に、ざりざりと擦り付けられる舌。
これでは自分で手当ても出来ず、無理やり振り解けば怪我が増やされるだけだし、
途方に暮れていたのだが。

「………治療のつもり?」

彼の動きは止まらなかった。ただし、否定もしなかった。
ずるずるべろべろ、舌が血を舐め取っていく。

「…あああああ気色悪いっ!! はーなーれーろー!!!」

行為自体と、その行為が行われた理由と思われる推測によって、全身に鳥肌が立ち捲った。
奮闘空しく、血の味が皮膚の上から無くなるまで離して貰えなかった。




龍騎タケマメ。どうしてこのカプに限っていつも無謀とも言えるお題に当るんだろう…(ダイスで決めてる)







10 胸を張っていうんだ「こんなに頑張ったんだ」って


けふ、と喉の奥が少し疼いた。
何とも言えぬ血液のえぐみが舌まで登ってきて、呂蒙は辟易する。
鼻もむずむずとしたので、無作法だと解ってはいるが袖で拭う。
きっと陸遜に見つかれば嫌味混じりの忠告をされただろうが、幸い今は部屋に一人だ。
紅く染まった袖を見ないふりをして、目の前の木簡に視線を戻す。
遠い地にいる戦友への命令書、その後ろに少しだけ近況と、願望を書く。

「春までには戦はかたが着く。必ず勝ちを持ち帰るので、久しぶりに酒でも飲もう」

猛禽のような鋭い目が、勝利の美酒にほんの少しだけ綻ぶ姿を思い出し、呂蒙は僅かに笑んだ。
まだ雪の降らぬ、219年初冬の事だった。




蒼天甘りょも。かんりょもですよっっ(言い張る)。