時計+人形

のんべんだらりんごった煮サイト

our place.

誰になんと言われても
そこが一番居心地の良い場所。





「どんな顔して会えばいいのよ…わかんないわよっ!」
「煩ェなっ! 当事者のテメエがこんなトコでイジケちまってる場合じゃねェだろうがよ!?」









唐突に判明った自分の「罪」。
この世界全ての、誰よりも重い「罪」。
それに耐え切れなくて、叫んだ。

唐突に判明ったコイツの「罪」。
あの能天気なヤツの心の奥で渦巻く「闇」。
それが耐え切れなくて、叫んだ。








「テメエ、ホントは現実を認めるのがコワイだけなんだろ?」
「あ………っ」
「ケッ! だったら一生そこで腐ってるがいいさ…」








違う。
違う。
あの子の言っていることは正しい。
でもそれは、とてつもなく鋭利な槍になって。
私を、貫いた。

違う。
違う。
言いたい事はこんなんじゃない。
でもそれは、止められない穂先になって。
アイツを、貫いた。













「捜さなくちゃ。捜して…謝らなくちゃ」










あの子はいつもそう。
ふざけてるふりして、不真面目なふりして、
一番大事な所を見続けている。
あたしが目を逸らしたくなるようなところでさえ、
しっかりと見据えている。
それが、とても、
辛くも、
悲しくも、
嬉しくも、
あるのだけれど。

アイツはいつもそうだ。
一番大切なものを絶対に失わない。
オレが食傷気味になるぐらい、
甘ったるくて輝くものでその小さな身体を一杯にして、
それが、とても、
腹が立って、
むかついて、
許せなく、
なるのだけれど。












「バルレル!!」
「―――ッ、ニンゲン…」










それでも。
それでも。
貴方に憎まれ役なんて、
あたしはさせたくなかったのよ。

それでも。
それでも。
そんなシケた顔させるよりかは、
万倍良いって思っちまったんだ。








――――――――――――ごんっ。




「っいっでえええええええええっっ!! て、テメェ、いきなり何しやがんだッニンゲンッ!!」
「ふらふら一人でこんなところまで出歩いて。あんた、あたしの護衛獣って自覚ないでしょう?」
「テ、テメエ…さっきまであんなにヘコんでたのに!?」
「あんたみたいな性悪の護衛獣、目を離したら何するかわかんないでしょ」






でも。






下手に謝るのも何か違う気がするし。
悪い物でも食ったのかって目で見られたら散々だし。
第一そんなの自分の柄じゃないし。






だから。







うん。



「ケッ。つくづくとんでもねェ野郎と誓約しちまったもんだ。あーツイてねェ!」
「さ、行こっか。みんなと―――、ネスと、アメルに謝らなきゃ」




いつも通りで良いと思うんだ。







「ねぇ、バルレル」
「あぁ? ンだよ」
思いきりガントレット付き拳で頭を殴られた霊界サプレスの護衛獣は、
瘤を擦りながら殴った犯人である自分の主人の召喚師を睨みつけた。
「うん。ごめんね、色々やつあたっちゃって」
月が輝くテラスに両腕と顎を預け、照れ臭そうに囁くトリスに、
バルレルは気まずげに目を逸らした。
「ケッ。解ってんならもうちょっと手加減しろよな」
「ごめんごめん」
「ったく。
今回はなぁ、ドイツもコイツも似たり寄ったりの重苦しい感情ばっかで飽き飽きしちまったんだよ。
テメェの側にいたせいで、嗜好まで変わっちまったぜ」
「…もう一発食らいたい?」
にっこり笑って拳を突き出すトリスから、ぱっとバルレルが距離を取る。
それを見てトリスが本当に嬉しそうに笑うと、
バルレルは拗ねたように口を尖らせてテラスの外に目を向けた。
今日もいつも通り。
テラスは静か。二人のほかには誰もいない
ただ大きな大きな月が、ぽっかりと浮かんで輝いているだけ。
「明日も晴れるねこれなら」
「さーな」
とりとめない話を、ただ呟く。
本当なら、もっと言わなければならない台詞があることも、解っている。







本当は、解ってる。
心配も叱責も罵声も安堵も、
その裏側に全部含まれていることを。

本当は、知ってる。
明るさと能天気さと無邪気さと笑顔と、
その下に喩えきれないほどの悲しみが渦巻いていることを。








でも、絶対に言ってやらない。
それが二人の間の不文律。




いつものように、じゃれ合って。
いつものように、喧嘩して。




それが、一番優しい場所。






月はいつも通り輝いて、ふたりを照らしていた。