時計+人形

のんべんだらりんごった煮サイト

戦場の睦言

雷を放つ戦車は、目的地である住宅からかなり上空で停止した。そして出来る限り静かにゆっくりと降下していく。
手綱を取るイスカンダルにとっては少々面倒ではあるのだが、何せ自分のマスターからの命令により、『少なくとも自分の隠れ家の側で派手な真似をするな』と五月蝿く言われている故やむなく従っている。こう見えても主の事は尊重しているのだ、とイスカンダル自身は頷くであろうが、主=ウェイバーにしてはどこがだ!?と絶叫するところだろう。
戦場の気迫にすっかり当てられて気を失っている主を、片手でちょいと摘まんで肩に乗せると、空中に停めてある戦車から腕を伸ばし、鍵を開けておいた窓をそっと開ける。無骨な手にしては信じられないほど繊細な動きで、音一つ立てなかった。
「ふぅ、やれやれ。手間のかかるマスターだ」
呆れた口調で、細い身体を寝台の上に投げ落とす。うぎゅ、という悲鳴が聞こえたが、そこまでイスカンダルは気を割かない。どかりと寝台の横に胡坐を掻き、その顔を覗き込むに留めた。
悪夢でも見ているのか、眉間に皺を寄せたまま眠っている姿は随分と幼い。精々、嘗て自分が戦場まで連れ歩いた小姓ぐらいの年にしか見えぬその体躯に―――ほんの少々、悪戯心が沸いた。
にやり。とやや人の悪い笑みを浮かべ、イスカンダルは安っぽいベッドマットのスプリングに思い切り悲鳴を上げさせた。





ゆっくりと、身体全体が温かいもので撫でられている。
その心地良い覚醒間際の感触に、ウェイバーは満足げに小さく息を吐いた。
母親に頭を撫でられているような、安心できる感触。勿論実の母親にそんな事をされたことは一度も無いが。
髪を梳られる感触が気持ち良くて、思わず頭を摺り寄せると、―――期待なんてこれっぽっちもしていなかった野太い返事が返ってきた。
「おう、起きたか坊主」
「………へぁ?」
間抜けな寝ぼけ声をあげて、じわじわと瞼を持ち上げる。寝転んでいる筈の自分の目の前に写る光景にびきっ、と固まってしまった。
厳つい髭面のむくつけき男寧ろ漢、しかもすっぽんぽん。
「…あqswでfrtgyふじこlp!!!?」
そのあまりの衝撃と恐怖に再び意識を飛ばしたくなったが、何とか堪える。何せ自分の衣服もいつのまにか全て剥ぎ取られていて、現実逃避よりも先に今そこにある危機を実感したからだ。
「ちょ…おま……なに、」
今すぐ自分の体をその無骨な手で撫で回しているサーヴァントを問い詰めたかったが、あまりの衝撃に上手く言葉を紡げず、ぱくぱくと口を開閉する事しか出来ない。対するイスカンダルは、微塵も悪びれた様子もなく、呵呵大笑する。
「戦場の昂ぶりを冷ますにはこれが一番手っ取り早い。まぁ一戦付き合え」
「ふ、っざけんなぁあああああ!!!」
再び頭に伸ばされた手を思いっきり―――擬音は何とも情けなく、ぺちっ、ぐらいのものだったけれど―――弾き飛ばし、ウェイバーは絶叫した。ほんの数分前の、この腕に安堵していた自分に怖気が走る。いくらこのサーヴァントに、現代社会の常識やら何やらが枯渇していてもこれはあんまりだと思った。
「な、な、何考えてんだよッ! どけ、今すぐどけ早く!」
「つれないのぅ。心配するな、乱暴にはせん。たっぷりと蕩かしてやる故な」
「ぎゃああああ嫌だやめろうわあああああ!!」
冗談抜きに全身に鳥肌を立てて絶叫するウェイバーに、小指で耳を穿りながらイスカンダルは逡巡し…にやり、と人の悪い笑みを浮べた。
「怖いか、坊主?」
「んなっ…! ば、馬鹿言え! そんなわけ無いだろ!!」
馬鹿にしたような声音で問えば、反射的に否定が返ってくる。
「何、我がマスターがそんなにも恐ろしいというなら、無理強いはせん。適当に女でも見繕わせて貰おう」
「それも駄目! 勝手に出歩くな! それ以前に怖いんじゃないって言ってるだろ!!」
「うむ、ならば問題は無いな」
「……………ぇ」
自分の浅はかな返答に気づく暇もあればこそ。
「ん、ぐむぅ――――っ!!?」
思い切り、口を丸ごと唇で覆われた。
口付け、なんていう甘やかな雰囲気とはかけ離れた、まるで捕食するようなその動きに、ウェイバーは怯み舌を逃がそうとするが征服王はそれを許さない。
「んむ、ぐ、ぅー…っ、んんんっ…!」
覆い被さってくる体が重い、がっちり両腕で掴まれて動けない、それ以前に息が出来ない!!
そんな思いをぶちまけたくて何とか握り締めた拳でポカポカとイスカンダルの肩や胸を叩くが、無論何の抵抗にもなっていない。
蹂躙者は遠慮なく舌を食み、頬肉の裏を舐り、歯をなぞって吸い上げてくる。長い口吸いが終わった後、ウェイバーは息も絶え絶えで必死に酸素を得ようとすることしか出来なかった。
「は……ぁ、ぁ……!」
「…やれやれ、これぐらいでもう降参か? 坊主」
「………っ、けんな。ばか…」
ぐしゃぐしゃと頭を撫でながら、揶揄しつつも困ったようにイスカンダルが問いかけると、萎えかけていた反抗がじりじりと持ち上がってくる。このまま自分のサーヴァントに良いようにされるのは我慢できなかった。苦しさから潤んだ瞳で睨みつけると、何故か満足げに、褒められるように頬をついと撫でられた。
「うむ、こうして見れば中々可愛げがあるな、余のマスターは」
「…一発殴らせろ…! っ、ひ」
言葉と共に繰り出した拳は、大きさが二倍もありそうな掌で止められ、退く間もなく指の股をずるりと舐められた。皮膚が粟立っている隙に、まるで本当に捕食するかのように口と舌が蠢き、腕から胸へとずり下がってくる。
「ぅあ…や、め…んぅ…!」
胸の僅かに隆起した突起を思い切り口に含まれて、耐え切れずに身体を仰け反らせた。直接的な肉欲を感じた事の無い身体だったが、繰り出される手管はその無骨さに似合わず繊細で、嫌悪感よりも快楽を拾わせていく。初めて与えられるその快感に、ウェイバーの意識が混濁し始める。
「や…ぅ、ふぇっ…んん―――…ッ!」
ぐい、と丸太のような太股で自分の股を割り開かれ、足の間を擦られた。痛みでなく、火花を散らすような快感の波が来て、びくんと身体全体が跳ねた。
「おぅ、元気がいいな」
「やめ、やだ、本当にやだ…!」
勃ち上がっている自分の中心が信じられず、必死に首を振る主に構わず、イスカンダルは遠慮なくその太い指で、抓む様にその肉芽を愛撫した。
「あぅ!? いた、痛いって、馬鹿ぁ…!」
「そら、剥いてやろうか」
「や、め、ちくしょ、ひ、ぃ…!」
皮を被っていたその先端を、あやすように撫でるその指はあくまで優しく。静止する暇もなく、突起の一番敏感な部分が外気に晒された瞬間、白濁液が其処から思い切り吐き出された。
「あッ! ぁ、あぁあ…!!」
「何だ、もうか?」
「ひぁ…あー…」
イスカンダルの呆れたような声も、激しすぎる快楽に呆然としているウェイバーには届かない。自身の精液で汚れた身体はひくひくと痙攣を繰り返して、何とも卑猥に見えた。
「ほれ、呆けるな坊主。次は余の番だ」
「……ぇ…ぅ?」
告げられた言葉の意味を不思議そうに考えた時、物凄い激痛が腰の裏側を駆け抜け、一気に正気に戻った。
「いっ…たああああ!!? なに、おまっ何っ」
「力を抜け。却って辛いぞ」
「ば、ばか、何やってる何やってるっ…!」
自分の後門、その入り口にぐりぐりと太い指が押し付けられている。僅かにそこを濡らした白濁では当然潤滑油にはならず、ぎりりと押し込まれる侵入者に声と身体が引き攣った。
「やめ、やめろって、こんなの無理だ……!」
「これしきで弱音を吐いて如何する。次はこれが入るのだぞ?」
ぐい、と頭を片手で掴まれ、今まで意図的に視線を外していた場所を無理やり見せられる。その部分を見て、ウェイバーの全身から血の気がざ―――っと音を立てて退いた。
ありえない。そうとしか言えない。
下手をすれば、自分の腕より太いだろうその一物は、隆々と天を指して勃ち上がっていた。そのあまりにも現実離れした光景に、ウェイバーの思考回路は完全にショートした。現実を全て把握するには、若干の時間が必要になった。
こんなものが存在する事も信じられないし。
何よりさっき、この目の前の男は、とてつもなく恐ろしい事を言った、気が、するのだが。
戯れのように、その凶悪な一物がウェイバーの尻に擦り付けられる。その瞬間全てを理解したウェイバーは―――絶叫した。
「無理だ無理無理絶対無理…! やだ、もうやだぁ…!!」
「こら、落ち着け」
「やだ、ほんとにやだ、やだああ!」
「ええい、落ち着けと言うに!」
パニックに陥ってしまった主を、慌てて従者が抱き締める。どうにかその腕から逃げようとじたばたと身を捩らせるウェイバーを抱き込み、イスカンダルは何とも情けない顔つきになった。主の顔を押し付けた自分の胸に、じわりと濡れた感触があったから。
「ひっ、く、ばか、やめろよぅ、このばかぁ…」
「ああ、解った解った悪かった」
すっかり臆し、まるで子供のようにぼろぼろと涙を流しながら悪態を吐くウェイバーの頭をぽふぽふ叩きながら、イスカンダルはやれやれと溜息を吐いた。
「全く、そら、機嫌を直せ」
「なっ、なんで、ボクの言う事きかないんだよぅ…! やだって、言ったのに、やだってっ」
「あー、すまん、悪かった。だから泣き止め」
「ないてないぃ…ばかぁ…馬鹿サーヴァントぉ…ぜったいやだぁ…」
ひっく、ひっく、としゃくり上げながら、力の入らない手で厚い胸板をぽこぽこ叩く。どうにも、時計搭に篭りっ放しだった魔術師には少々刺激が強すぎたらしい。
イスカンダルも珍しく、ばつの悪そうな顔で顎をこりこり掻いている。相手が男だろうが女だろうが、泣き叫ぶものを無理やり犯すのは征服王の趣味ではない。奪えど辱めず、なのだ。
しかしこのまま終わるわけにもいかない。未だに彼の一物は天に向かって硬さを保っている。少し考えて、イスカンダルはあっさりと打開策を決定した。
「ふーむ…よし、坊主。両足を閉じていろ」
「ふぇ…? なに…?」
ころり、と再び寝台の上に寝転がらされ、見下ろされる状態に再び彼の体全体が竦みそうになるが、それは再び重ねられた唇で止められる。緊張が僅かに緩んだとき、イスカンダルは片手でウェイバーの両足を一掴みにして、ぴたりと細い太股を重ね合わさせた。相手の意図が解らずきょとんとしているウェイバーのその両足の間に、ぬるりと何かが滑り込んできた。
「っひ!?」
自分の足の間から出て来た赤黒い物体に、慌てて後退って逃げようとするが征服王はそれを許さない。もう片手で細い腰をも掴むと、ぐいぐいと腰を押し進め始めた。
「ふぁ…、やめ…んく! これ、や、…ァ!」
巨大な一物はウェイバーの太股を犯し、尚且つすっかり竦みあがっていたウェイバー自身をも擦り上げる。一度快楽を与えられていた身体はすぐに反応を返し、熱を持ち始めた。
「どうだ? こんなのも悪くあるまい?」
「ゃ、うン、く…ぅ! まっ…て、ぁ、あ…!」
「我慢するな。また出して構わんぞ?」
「ぁ、や、ぅあア…! んんん、くぅぅンッ…!」
揶揄するようなイスカンダルの声に必死に首を横に振るが、腰の動きは止まらない。尚且つ、やはり自身に与えられる快楽のもどかしさに耐え切れず、自分からその身を擦り付けるように動いてしまう。するとまるでその行為を褒めるように、顔に信じられないほど優しいキスが降って来た。
まるで、泣いている子供を慰めるような、肉欲とは無縁のそれが心地良くて、ウェイバーは最後の快楽に身を任せた。
「ふぁあッ! も…や、でる…!! んァ…!!」
「よし…いくぞ。腹で受け止めろ、両方な」
に、とまるで悪童のような笑みを浮べて、イスカンダルの動きが早くなる。
「あッぁっ! や、ぁ、あ――――…!!」





今度こそ完全に意識を飛ばしてしまい、くったりとシーツに包まっている自分の主を眺め、イスカンダルはこっそりとほくそ笑んだ。
目の前で眠っている青年は、とても戦士とは見えぬ細い身体だ。度胸も気概もまだまだ未熟としか言えず、矮小なその心持が失笑を齎す事も決して少なくない。しかし、それを不満と思わぬ程度には、イスカンダルはこの未熟なマスターの事が気に入っていた。
先刻相見えた―――といっても相手はその姿を晒すことも出来ぬ臆病者であったけれど―――ランサーのマスターは、全くもって鼻持ちならない相手だった。あれが一歩間違えれば自分のマスターになっていたのかと思うと、聖杯や現界などお構いなしに斬り捨てていたかもしれない。魔術師とは大なり小なり皆あのようなものだと言うのなら、つくづく自分のマスターがこの青年であった事は僥倖と言えた。
「お主はもう少し、人生の楽しみを覚えた方が良いな。今度は女でも抱かせてやるか」
ぶに、とそれなりに形の良い鼻を抓んでやるとむが、と声が漏れて、イスカンダルは今度は声をあげて笑った。勿論真夜中故、大分声音は抑えたものであったけれど。
「頼むぞ、我がマスターよ。余と共にこの世界を駆け巡らんばかりに、強くなれ」
その言葉は、睦言にしては随分と純粋な、自分の主に対する信頼と言えた。