時計+人形

のんべんだらりんごった煮サイト

監督役の神父より新しいサーヴァントを貰った間桐慎二は、ご機嫌だった。
彼にとって、8人目のサーヴァントというイレギュラーが存在することも、それが自分に力を貸すことも疑問にはならなかった。自分は特別扱いを受けることが彼の世界では遥か昔から決定していて、それに疑問を提示する気など欠片も起きない。それが間桐慎二という男であった。
自室の椅子に座り、これからの聖杯戦争に関する夢想を始める。思考ではなく、夢想である。彼にとっての真実とは自分の中だけに存在するものであり、現実とはそれに摺り合せられるべきものなのだ。それはとても甘美であり、彼の自尊心を満足させるのに充分な代物だった。
だから、彼の現在のサーヴァント―――金色のアーチャー・ギルガメッシュがノックをせずに部屋の中に入ってきても咎める気はしなかった。…彼にとっては幸運と言うべきだろう、もし咎めていたのならこの従者は何の躊躇いも無く慎二の首を刎ねていただろうから。本来のマスターの命令を反故にしてでも。
「やぁ、どうしたんだい? この黴臭い家じゃ確かにこの部屋が一番過ごしやすいだろうけどさ」
「ふむ、装飾も中々悪くない。気に入ったぞ」
慎二の更なる幸運は、この傍若無人なサーヴァントと非常に趣味が似通っていたことだろう。本来許しなく話しかけることを許さない王が、別段咎めたてることも無く会話を続けているように見える。無論事実は、従者が主のことを道端の石くれほどにも気を割いていないせいなのだが。
しかし、部屋に入ってくるまでは上機嫌だったギルガメッシュの眉間に不意に皺が寄った。ひくりと鼻を蠢かせ、大股で椅子に座ったままの慎二の傍に寄り―――その首筋に顔を乱暴に埋めた。
「うわ!? な、何だよ!?」
「―――…蛇の臭いがする」
慌てる慎二など意にも介さず、ぼそりと不機嫌この上ない声でギルガメッシュが呟く。その呟きを拾い上げ、慎二も心当たりを思い出した。
「ああ、ライダーのこと? もういいだろあんな奴、必要ないし」
嘗て慎二が所有していた―――正確には桜から譲渡されたサーヴァント・ライダーは既に消滅している。慎二にとっては負けた時点で役立たずの烙印を押される。女としての体は悪くなかったから、その部分だけは若干勿体無いとも思ったが。
「気に食わんな」
「だから、別にもういらないって。お前がいてくれるんならもう勝ったも同然だしね」
あはは、と笑い声をあげる慎二に対し、ギルガメッシュも本当に珍しくにっこり、と満面の笑みを浮かべた。
「本来ならその臭いを消すまで触れたくもないが、まぁ我自らの手で消し去るも一興か。この幸運に感謝するが良い」
「は?」
何を言っているのか解らない、という顔の慎二に、金色のサーヴァントは先刻とは対照的な凶悪な笑みでにぃ、と嗤いかけ。
その体勢のまま首筋をずるりと舌で舐め下ろした。
「、ひ!? なっ、」
予想など微塵も考え付かなかった行為に、慎二は素っ頓狂な悲鳴をあげることしか出来ない。そのままギルガメッシュは容赦なく、皮膚の薄い首にぎちりと噛みついた。
「痛ッ…! 何すんだよバカ! 絶対血ぃ出て…」
慌てて両腕で狼藉を続けるサーヴァントを引き剥がそうとして、びくともしないことに気付いた。当然だ、受肉した英霊に人間如きが太刀打ちできるわけがない。そんな簡単な事を、彼は今の今まで思い出さなかった。そんな必要が無かったから―――正確には、無いと思い込んでいたから。
動揺する慎二の心境に心を配ることもなく、ギルガメッシュは更なる行動に移った。ぐ、と慎二の肩を掴むと、腕力だけでその体をベッドの上に放り投げる。ぼぅん、とスプリングで跳ね、衝撃で咳き込む慎二の仰向けになった腰の上にどすりと腰掛けた。
「な…何だよ。何考えてんだよっ」
紅色の魔の瞳で上から睨まれて、慎二の鍍金はあっさりと剥がされていく。明確な怯えを隠せなくなっている主に向ける従者の瞳は、はっきりと軽蔑だった。
「悦べ、シンジ。お前に究極の快楽を教えてやろう」




ぐちゃり、と湿った音が肉の間から漏れるのが解り、まるで女の膣孔のようだと思ってしまった。無論、そんな器官は自分には無い。
「いた…いたい、痛いっ…て…!」
音を立てているのは先刻から確実に深く指で抉られている首筋の傷。四肢は縛鎖で抑えられ、抵抗は完全に封じられている。そんな狼藉を働き続けている従者は、楽しくて仕方ないと言うように両の口端を引き上げている。
「何、すぐに痛みも快楽に変る」
いつのまにか手元に持ってきていた小振りの壷からどろりとした液体を指で取り出し、その長い指で慎二の口の中を蹂躙した。
「ん…ごっ、ぐぇ」
「この薬も鎖も、お前には勿体無い程の宝具ぞ? それを使ってやっているのだから、もっと楽しめ」
「い―――ぐ、ぁ? ぅ、ぅ、」
更に指は先程の傷口に擦り付けられ、喉の奥と傷がかっと熱を持った。その熱がそのまま血液の中に入り込んだように、体中を物凄いスピードで駆け抜け、意識が拡散しかけた。
「む、こら壊れるな。まだ聖杯に出来るほどの利用価値はお前にあるのだ、耐えよ」
「あがぁ!」
目敏くそれに気付いたギルガメッシュが傷口に爪を思い切り立て、それでどうにか意識を保った慎二だったが、それが精一杯でかけられた言葉の意味を考える余裕は無かった。そして一瞬の痛みが数倍の快楽になって帰ってきて、もう体を御する事が出来ない。
「は、ひ、ぅ…」
「ふむ。これであの嫌な臭いは消えたな」
自分の下で悶える慎二を満足げに見下ろし、相手の下肢の服を取り払う。これから自分が何をされるのか漠然と気付いたらしい慎二が、びくりと体を痙攣させる。
「どうせお前の鄙びた身体と魔力でこの我を満たせるわけがない。―――好きに動かさせて貰うぞ? マスター」
痛烈な皮肉を込めて主を主と呼んだギルガメッシュは、主の腹の上でくるりと体を振り向かせ、薬のおかげで既に硬く立ち上がっているものを、靴を脱ぎ捨てた足で無造作に踏んだ。
「がふっ、ぎゃ! ひぃ…!」
衝撃と痛みに慎二の体が跳ねるが、次にその足指で思い切り擦り上げられ、一気に刺激が快楽へシフトする。初めて与えられる快感に、だらしなく舌を出して喘ぐことしか出来ない。
「そら、もう少し耐えよ。迂闊に達したら切り落すぞ」
「ぃぐ、ぁ、あぁー!」
心底楽しそうに足での嬲りを続けるギルガメッシュの言葉はそれでもどうにか脳膜に届いたらしく、悲鳴とも嬌声ともつかぬ声をあげながら必死に頂点を堪える。その従順さに満足したのか、ギルガメッシュは足を退いてくるりと再び体を翻した。―――今度は、腰の上で。
痛いほどに立ち上がり痙攣しているそれを無造作に掴み、自分の後孔に当てた。エーテルで出来た体は慣らさなくても受け止める事は可能だ。一瞬の躊躇いもなく、それは飲み込まれた。
「ぁ、あ―――…!!?」
嘘だろう、と攪拌している意識の片隅で慎二は驚愕していた。自分の征服欲と性欲を同時に満たせるセックスという行為は大好きだったが、それはあくまでそれに相応しい女相手の話。男に、しかも無理矢理犯させられる、というのはショックどころの騒ぎではすまない。
「―――慈悲をやろう。せいぜい有難く頂け、雑種!」
「うぁ、ああ! やめ、ひ、あが、ぁ――――…!」
激しく擦られ抜かれて、身も世も無く慎二は鳴き叫んだ。もう自分に与えられる刺激が激痛なのか快楽なのかそれすらも解らない。ただ早く終わってくれと誰にともなく祈る事しか出来なかった。
「はははははは! 受け取れ。―――地獄の汚泥だ」
哄笑を上げ、息一つ乱さず言い切ったギルガメッシュの言葉と共に慎二は達し、相手の体内に迸りを吐き出す。それと同時に相手の体から得体の知れない魔力の塊が雪崩れ込んで来て、最後の意識が完全に飛ばされた。




「―――これで良いのだろう? 全く手間をかける」
既に身奇麗にし、衣服を整えたギルガメッシュは、携帯電話で何者かと話している。無論慎二は戒めだけを解かれ、寝台の上にうち捨てられているが省みられることはない。
「ときに言峰。本当にアレが聖杯になるのか? 擬似パスは繋げてやったが、保つとは思えんぞ」
電話の向こうの名前を呼び、不機嫌そうに語っていたが、相手が何事かを告げたらしくその顔はすぐに笑顔になった。
「成る程、それは面白い。どれだけ醜悪な代物になるか、じっくり見物しようではないか」
話しながら立ち上がり、部屋の出口へ向かう。勿論、仮の主に対して視線を動かすことは一度も無い。
「口直しをさせろ、言峰。あの程度でこの我が満足できると思うてか」
向こうは何事か反論していたようだが、容赦なく通話を切って部屋の中に放り捨て、上機嫌で王はその身を霊体と化して姿を消した。