時計+人形

のんべんだらりんごった煮サイト

芳醇ナイトメア

「…ねぇ、Violette」
「…ねぇ、Hortense」
「Hiverが元気になったのは、とても嬉しいのだけれど」
「Hiverが笑っているのは、とても喜ばしいのだけれど」
「その理由が」
「その原因が」
「あの男だというのは」
「あの男だというのは」
「とっても悔しいわね」
「とても腹が立つわね」
「ねぇ、Violette」
「ねぇ、Hortense」
「あの男にHiverを独り占めされるなんて」
「あの男にHiverを良い様にされるなんて」
「「許せるものでは無いわよ、ねぇ?」」
「私達はHiverのものでもあるんだから」
「Hiverは私達の子供でもあるんだから」
「「私達だって、出来るんだから。見てなさい、黄昏の賢者」」






緩やかな覚醒を果たし、Hiverはゆるりと瞳を開けた。
いつも通り、自分の家の天井が見え、腕を動かそうとして出来ない事に気づく。
え?と思って体を起こそうとすると、それも出来ない。自分の両腕が寝転んだ頭の上で拘束されていたから。
「―――な…」
呆然とした声が唇から漏れ、Hiverは何度も目を瞬かせた。拘束といっても、柔らかい布で緩やかに締め上げられているだけだが、動けないことに変わりはない。更に自分の体を包んでいるのはシーツ一枚きりで、肌寒さと心細さで震えが走った。
「寒いのかしら、Monsieur?」
「心細いかしら、Monsieur?」
「っ!?」
不意に両側から同時に声をかけられて、Hiverは息を飲んだ。いつのまにか自分の寝台の両脇に腰掛けていた金髪の少女が二人、微笑みすら浮べて侍って来た。
「嗚呼、御免なさいMonsieur.痛かったかしら」
「嗚呼、御免なさいMonsieur.怖かったかしら」
自分の瞳に浮かんだ不安に気づいたらしく、宥めるように小さな手がそっと両側から頬を撫でる。その手は冷たかったけれど、仕草は酷く優しくて―――混乱していたHiverの意識が少しずつ落ち着いてくる。
この手を、覚えている。忘れるわけが無い、いつも自分の傍にいてくれた―――
「…Violette? Hortense?」
「「嗚呼―――Monsieur! 覚えていてくれたのね!」」
まさかと零れ落ちた名は、少女達の顔を喜色で染め上げた。その金糸の髪も、名に相応しい色合いのドレスも、須らく自分の所持している双児の人形に相違ない。…もっと他に思い出した事があったような気がするのだが、意識の水底に沈んでいってしまって掬うことは叶わなかった。
それでも、覚えている。この二人が、自分に危害を加える等、億に一つもありえない事を。安心して息を吐いたHiverに、双児もほっとしたように顔を見合わせ、猫のように自分の子供に擦り寄った。
「こんな事をしてしまって御免なさい」
「でもどうしてもあの男が気づく前に」
「貴方に触れたかったのよ」
「貴方を確かめたかったわ」
「だからどうか、怖がらないで」
「だからどうか、拒まないでね」
「「愛しているわ、Monsieur.私達の可愛い子」」
歌うように紡がれた言葉の最後に、ちゅ、と両頬に口付けが落ちてきた。
同時につい、と小さな手指が伸ばされ、Hiverの首筋からシーツの下に入り、胸を撫でていく。
「ぁ……」
ふるり、と体を震わせた子供を宥めるように、双児はキスを繰り返す。白い肌の中で僅かに色を持っている頂の上まで辿り着くと、そこを優しく撫でて苛める。
「ぁ、そこはっ…」
「怖がらないで」
「気持良いから」
ひくんと緊張する体を解すように、首筋から鎖骨に小さなキスが何度も落とされる。その度に湧き上がるどうしようもないむず痒さをHiverは必死に堪えた。
「駄目―――だ、や、ぁ」
「本当に駄目?」
「本当にいや?」
「あ、」
静止が唇から漏れた瞬間、さっと何の未練も無く手と唇が退いた。その唐突な刺激の払拭に、Hiverの方が戸惑った程に。双児はやはりにっこりと笑い、Hiverの頬をゆるりと撫でる。
「本当に駄目なら、もうしないわ」
「本当にいやなら、もうしないわ」
「……………」
双児の言葉には一片の偽りも無かった。例えどんなに望んだことだとしても、彼自身がそれを拒むのならばするわけが無い。それが彼女達にとっては当たり前なのだ。
拘束されたまま僅かに昂ぶらされた体は、更なる刺激を求めて疼きだしている。それでも羞恥心が拭えず、Hiverは困ったような顔で二人を見返すことしか出来なかった。
そんな子供の態度をどう思ったのか、双児は殊更ゆっくり言葉を重ねる。まるで虫を誘惑する花のように魅力的な、蜜の匂いを携えて。
「大丈夫よ、Monsieur」
「安心して、Monsieur」
「「これは、夢だから」」
「夢…?」
「そう夢よ」
「夢なのよ」
「だから、恥ずかしがらないで」
「貴方の望む事なら、何とでも」
「「私達が、叶えてあげるから」」
「ぁ……ぁ」
ぞく、と腰骨から脊椎にかけて湧き上がる感覚がHiverを苛む。この有り得ない状況と、身動きの取れない状態が、Hiverから正常な判断を奪いつつある。
かの賢者によって快楽に慣らされた体は、このままの停滞を望まなかった。
「「Monsieur?」」
「――――…」
く、と喉が仰け反り、ほんの小さな声が唇から零れ出る。
「…………、続き…、を」
「「Oui,Monsieur.お任せ下さいませ」」
それはしっかりと人形達に拾い上げられ、双児は正しく花のような微笑を浮べた。



「ぁ…ア、はぁ…ッ!」
同時に胸の突起を唇に含まれて、耐え切れずにHiverは悲鳴をあげた。双児はその声に静止が篭っていないのを確認してから、改めてその突起に舌を絡めて何度も小さく吸い上げた。
「ァ、やっ、ん―――ンッ…」
「嫌ですか、Monsieur?」
「嫌ですか、Monsieur?」
「っ…〜〜ッ」
ちゅん、と突起を解放して尋ねてくる双児に、夢中で首を左右に振る。少しでも拒否する素振りを見せたら止められてしまう快楽の緩急に翻弄され、意味のある言葉を紡ぐ事すら出来ない。
「「畏まりましたわ、Monsieur」」
「はぁ……ッ!!」
再び胸を刺激され、Hiverの腰が跳ね上がる。未だシーツの下に埋もれている中心部は既に熱を持って硬くなっている。双児達も勿論承知で、胸を咥えたまま同時にするりと指をその場所に滑らす。
「ア、そこ…っ!」
「とても熱いわ、Monsieur。まるで焼けた鉄のよう」
「とても硬いわ、Monsieur。まるで打った鉄のよう」
「あ―――…ッ!!」
二つの手で同時に撫で上げられて、身も世もなく悲鳴をあげる。素直な賛辞なのであろうが、Hiverにとっては耳に与えられる拷問に等しい。普段青白いほどの頬は、これ以上無理だというぐらい紅く染まっていた。
「嗚呼、凄い。もう達するのですか?」
「嗚呼、凄い。もう吐き出しますか?」
「ふぁ、あああっ!!」
「「あ―――!!」」
何度か往復した小さな指が先端の鈴口を突付いた時、そこから白濁液が溢れ出た。流石の人形達も驚いて目を瞬かせるが、すぐに自分の顔や髪に飛び散った液体を拭ってから、未だとろとろと溢れ続ける出口に口付けた。
「ンぁっ!? や、ぁ、ん―――ンンッ!!」
ちゅう、と先端を吸われ、達したばかりの場所に刺激を与えられてHiverは耐え切れず絶叫した。双子達はまだひくついているその場所にもっと快楽を与えたいと、夢中で舐っていたのだが。
「―――まさか君達とはね、Mademoiselle? 全く油断も隙もない」
「「!! …貴方にだけは言われたくないわ、黄昏の賢者」」
いつの間にか部屋の中に現れていた第四の人物は、芝居がかった仕草で肩を竦めて見せる。双児達の動揺は一瞬で、自分の主に向ける時には有り得ない絶対零度の瞳でその男を睨みつけた。
「邪魔をしないでくれる?」
「どこかへ行ってくれる?」
「ははは、冗談ではないよ。愛しい私のMon cheriから離れてくれるかね?」
「…その首を落としてやろうかしら。貴方ならまた生えてくるのではなくて?」
「…その身を棺桶に篭めようかしら。貴方なら首だけで生きるのではなくて?」
三人とも顔は笑っているのに口調は剣呑そして真剣、という中々に怖い状況になる。これを打破する事の出来る唯一の存在は、強い快楽によっての自失から漸く立ち直り、僅かに身を起こして客人の姿を捉えた。
「あ―――Savant,」
涙に潤んだオッドアイが嬉しそうに緩み、両手を伸ばそうとして拘束に阻まれた。その顔に浮かぶのは、不貞による怯えでも快楽の強請でもない。ただ、一番大切な相手に会えたという嬉しさだけで満ちている。快感に翻弄された分、下手な取り繕い等無く、あまりにも純粋な好意だけだ。
それを見て賢者は勝ち誇ったように口元を緩め―――双児は悔しそうに一瞬だけ俯いて、それでも彼の拘束を解く。よろりと起き上がったHiverが解放された腕を伸ばすと、寝台に膝で乗り上げた賢者はそれを引き寄せてしっかりと抱き締めた。
「…だから、賢者が来る前にもっと触れたかったのに」
「…だから、申しわけないけれど繋いでしまったのに」
この男が来たらどうなるか解っているから、と双児は同時に溜息を吐いた。仕方ないのだ、どんなに無体と思える所業を働いても、この子供を本気で泣かせる事など二人の母には出来はしないのだから。
「随分と魅力的な格好でのお出迎えだね、Monsieur?」
「あ……」
くすくすと耳元で笑われ、手袋に包まれたままの指で裸体を撫でられ、漸く自分の今の格好に気づいたHiverが改めて顔を赤らめる。
「Mademoiselle達に苛められたのかね? 可哀想に」
からかい混じりな賢者の言葉に双児の眉が吊り上り、反撃しようと花色の唇が開こうとした時―――先に声を発したのはHiverの方だった。
「違…います。望んだのは、僕だから」
僅かに掠れた声だけれど素直に紡がれた言葉に、賢者も双児も目を瞬かせる。きゅっとSavantの服の裾を掴み、子供は必死に訴えを続ける。
「だから、二人を責めないで…喧嘩をしないで、下さい。お願い…」
自分にとってはどちらも大切で、決められないから。そんな彼らがいがみ合うのが嫌なのだと、朴訥な言葉で紡ぐ。
じわ、と生理的とは違う涙が左右色の違う目の端に浮かび―――最初に音を上げたのは賢者だった。
「…全く、Monsieurには勝てないね。どうか泣かないでくれたまえ…」
「ん………ん」
苦笑を浮べたままの唇をそっと重ね、銀糸の頭を撫でてやる。と、感極まったのか、賢者を押しのけんばかりに双児がHiverの両腕に縋りついた。
「嗚呼、Monsieur! 何て優しい子なんでしょう!」
「嗚呼、Monsieur! 何て愛しい子なんでしょう!」
「Violette,Hortense」
額や頬に降ってくる口付けを嬉しそうに顔を綻ばせて受ける子供に、今度はSavantが不満をどうにか取り繕った顔で強請る。
「―――では、私とも遊んでくれるかね、Monsieur?」
「あ…………」
するりと腰に回された腕の感触に、一度は退いた熱が戻ってきてHiverの体が強張る。と、そのまま促され、寝台に腰掛けたSavantの足の間に寝転ぶ形になった。
「君と繋がる為に、私のこれを慰めてくれたまえ」
「Ou…i,Monsieur」
布地の隙間から現れた、もう力が漲り始めている熱が頬に触れ、じきに与えられる快楽を思って瞳が蕩けた。
おずおずとだが、伸ばされた舌が昂ぶりの先端に触れ、そのまま口腔に導かれる。
「…うむ……上手だ。いい子だね」
「ふ…ぅ、ぅ―――んむ」
ともすれば喉の奥を突かれ嘔吐いてしまうのを堪えつつ、必死に奉仕を続けていたのだが。
「んんっ!? ふ、う、う―――!」
「おや、これはこれは。邪魔とは無粋ですな」
放っておかれた自分の中心に再び濡れた感触がして、口に熱を含んだままHiverは驚愕する。呆れたように言う賢者に対し、Hiverの股座に顔を埋めた双児は同時に顔をあげ、ふんと唇を尖らせた。
「貴方がMonsieurの御奉仕に夢中だからよ」
「Monsieurへの奉仕は私達に任せておいて」
言うだけ言って、再び双児は目的の場所に顔を下ろした。今度は中心だけでなく、一番奥まったところにまで舌を伸ばし、指を差し入れる。
「んぁ、あふっ…! ふ、んぐっ」
二枚の舌と二十本の指で細かく容赦なく与えられる快感に、耐え切れずにHiverは口を離して喘ぐ。しかし続きを促すようにSavantが髪を撫でると、それを堪えて再び含む。
「ん、う、っく、ぅ―――…ッ!!」
顎が痙攣しそうになり、必死に堪えていると不意に口から熱を抜き取られた。は、ひゅ、と足りなかった酸素を手に入れようと喘ぐと、ひらりと賢者の膝の上に抱き上げられた。
「ぇ…あ」
「良いだろう? もうここは蕩けてしまっているようだしね」
「仕方ないわ、Monsieurの為だもの」
「Monsieurの欲しい物を差し上げて」
ひたり、と当てられた先刻まで自分の口を嬲っていた熱に、Hiverの体がかっと熱くなる。尚且つ賢者は彼の両足を抱え上げ、目の前にいる双児に見せ付けるように奥まった部分まで晒している。双児の顔に自分が吐き出したのであろう液がこびり付いているのが確認できて、羞恥の余り目を閉じることしか出来ない。
「ッ! ア――――…!!」
しかしそれを許さないとばかりに、最大の蹂躙者が襲ってきた。自分で体重を支える事も出来ない今の状況では、促されるままに飲み込んでいくことしか出来ない。
「あっ…ぁ、ァ…」
「ふ…全部飲み込んだね」
「痛くない、Monsieur?」
「辛くない、Monsieur?」
するりと両頬を同時に撫でられて、ゆるゆると瞼を開く。すると目の前に、心配そうな双児の顔が並んでいて―――Hiverは衝撃と快感を堪え、大丈夫だからと言うようにぎごちなく微笑んで首を振って見せた。
「嗚呼…本当に、何て優しい子」
「嗚呼…本当に、何て愛しい子」
双子は子供に微笑み返しちゅ、と同時に頬にキスをして、僅かに残る痛みに震えている体を宥めるように撫で、胸や臍にまで舌を伸ばしてやる。
「ぁ………ん…」
「全く、少し妬けてしまうね…っ」
「ァッ!? ふ、ぁ、Savantッ…!」
優しい愛撫に震えるHiverに苦笑して、不意に賢者が腰を揺する。急に来た激しい刺激に、飲み込んだ腰がひくひくと震えた。それでもSavantは容赦なく、最後に向かって下から責め立てる。
「んっ、あ、ふ、ぃッ、ひゃ、ア、んんっ…!」
「達しそうなのね、Monsieur?」
「達して良いのよ、Monsieur?」
「ひぁふっ!! あ、ヒ…ッ、んゃっあ、ア…ッ!!」
突き上げられる衝撃と、胸と秘部に与えられる甘い刺激に耐え切れず、無理やり腕を伸ばして後ろの男の体にしがみ付くと、その瞬間絶頂が訪れた。






呆っとした頭が、漸く回転するようになってきた。
開けるのが億劫なぐらい重い瞼を抉じ開けて、辺りを見回す。
やはりそこは、自分の部屋で。昨日眠る前と、何も変わるところは無くて。
「…ゆ、め………?」
寝起きで掠れた声で小さく呟き―――捩った自分の身に、僅かに濡れた感触が残っていることに気がついた。
「ッ!!」
その瞬間一気に意識が覚醒し、顔に血液が集まる。誰がいるわけでもないのに布団の中に潜り込み、くちゃりと粘性の音がする自分の股間に泣きたくなった。
「何て…こと」
恥ずかしくて死にそうになる。あんな有り得ない淫夢を見て、愛しい相手や大切な人形まで引っ張り出して、尚且つ自分で強請って―――
「ごめんなさぃ……っ!」
誰にというわけではないけれど、半泣きになって引き被った布団の下で詫びることしか出来ない。
そうやって必死に自責していたHiverは、普段暖炉の上に飾っている双児の人形が座る位置が、昨日の夜から僅かにずれていることにも気づかずにいるのだった。


×××



「やれやれ…まさか今更、君達に邪魔されることになるとはね」
「当然でしょう」
「必然でしょう」
「「私達はずっと、Hiverの傍にいるんだから」」
「まぁ楽しませて貰ったのだから、御礼ぐらいはするべきかな?」
「あまり調子に乗らないで」
「余りいい気にならないで」
「今度来たら首を落とすわよ」(ぶんぶん、とどこからともなく取り出した剣を振り回す)
「今度来たら棺に篭めるわよ」(かぱ、とどこからともなく取り出した揺篭の蓋を開ける)
「「どちらがお好みかしら、Monsieur Savant?」」
「……他に選択肢は無いのかね?」
「……………」
「……………」
「「両方がお好みかしら、Monsieur Savant?」」
「減らすという意志は微塵も無いのだねMademoiselle?」