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着付け教室

ばさり、と広げられた重い布地に、Hiverは目を瞬かせる。
「…Savant、これは?」
「うむ、良い質問だ。極東の国の民族衣装でね、『Hurisode』というのだよ」
「服、なのですか」
金糸銀糸をあしらった美しい布は、一見見ると縫合してある場所が余り無く、只の反物のようにしか見えない。
「ああ、ガウンのように羽織ってからこちらの布、『Obi』で結んで支える。どうかね、着てみないかい?」
「…僕が、ですか?」
「似合うと思うのだがね?」
片眼鏡の下からにこりと笑われて、Hiverには拒否する理由が無くなってしまった。
正直、美しい衣装に対する興味もあった。自然と上着を脱ぎ、宝石のあしらわれたタイを解く。その時点で手を止めると、ちちちと目の前で手袋に包まれたままの指が振られた。
「他も脱いでくれないかね?」
「…脱がないと、駄目ですか」
「これは下に何もつけないのが作法なのだよ」
正直恥ずかしかったが、賢者に逆らう事など考え付かない子供は大人しく服を脱いだ。背中で結われたベストの紐は、当然のように賢者が解いた。
露になった背中に、そっと白絹がかけられる。
「ここに腕を。ああ、そこは脇だよ、こっちだ」
「? …?」
悪戦苦闘しつつ袖を通し、どうにか形を作る。腕を覆う長い袖にはやはり美しい花が刺繍されていて、それを見たHiverの顔が自然に綻ぶ。
その間にやはり賢者が用意しておいた髪留めで銀髪を纏め上げられ、幅のある帯が腰に回され締め――――ようとして、止まった。
「………? Savant?」
「…ああ、失敬。つい見惚れていたよ」
ぼそり、と首筋で囁かれ、今更ながらに互いが密着していることに気付き、Hiverの頬が赤くなる。
「この美しい服は君に良く似合うし、この髪飾りも首筋に良く映える」
言葉とともに、熱を持った唇が白い項に押し付けられた。






巻かれるはずだった帯は床に放り出されたままになっている。
「ふ…ぁ、あ、」
折角合わせた着物の衿は肌蹴られ、その間にSavantが顔を埋めている。僅かに隆起した胸の突起に舌を当て、潰すようにして舐めているからだ。
「Sava…ntッ、もうこれ以上は…ァ!」
口に含んだ方と逆の突起を手袋を嵌めたままの指で弾かれ、Hiverの声が途中で途切れる。
先刻からずっと、刺激を与えられているのは胸だけなのに、既に彼の息は上がり、腰が僅かに揺れている。
「如何したね…? もう辛いかい?」
「っ…〜〜」
唇で突起を食みながらの問いに、Hiverは顔を真っ赤にしながらも何度も頷く。
事実、彼の股座は既に熱を持って形をかなり変えていた。直接触られたら次の瞬間弾けそうな程に。
「構わないよ、一度出したまえ」
「! ゃ…ぁ…!」
出せと良いながらも賢者の手指と舌は、既に色が変ってひくついている両胸の突起を苛めるだけだ。
背中にしがみついているHiverの腕が拒否をするかのように爪を立て、服の上からでも解るその強さに流石のSavantも苦笑して動きを止める。
「痛いよ、Monsieur」
「ぁ…めんなさ…でも、」
「うん?」
宥めるように優しく促すと、左右色の違う瞳に涙を溜めながらぽそぽそと言う。
「…服を、汚してしまう…から…」
震える声音で言われたそんな台詞に、賢者は一瞬動きを止め。
「―――ああ、もう。何て可愛い事を言ってくださるのかね、Monsieur?」
ちゅ、と音を立てて突起を啄ばみ、間髪入れずに指で股座を擦りあげてやった。
「は…っ、あ、や、駄目…ぇ…!!」
悲鳴のような声が上がり、豪奢な絹の上に白濁が散った。




ず、と洟を啜る音が胸元で聞こえて、やれやれと賢者は苦笑しか出来ない。
「Monsieur,そろそろ機嫌を直してくれないかね?」
声に反応したのか僅かに、着物を緩く纏っただけの白い肩が揺れるが、賢者の胸元に埋まったままの首は嫌々と拒むように横に振られた。
一度達せられてからずっとこの調子で、流石の賢者にも罪悪感が沸く。どうもこの子供を目の前にすると色々と加減が利かない。よしよしと纏められたままの銀髪を撫でて、宥めるように旋毛にキスをした。
「顔を上げてくれまいか。このままでは口付けできない」
ぴく、とまた肩が揺れ―――数瞬の逡巡の後、おずおずと顔が上がった。目尻に涙が溜まっていたが、もう泣いてはいないようだった。その顔に心密かに安堵し、嘗てと変らぬ素直さに微笑んで口付けた。軽く柔い部分同士を食み合うように合わせ、すぐに離す。それは彼が最も喜ぶ触れ合いの行為だったが、Hiverの顔色は晴れない。如何したものかと内心首を傾げる賢者の耳に、小さな声が聞こえた。
「…ごめんなさい……」
「うん?」
「……汚して、しまって」
それだけ呟き、Hiverはしょげた顔を再び賢者の胸の上に戻してしまう。もし彼の頭の上に耳があったら限界まで垂れているに違いない。
賢者は一瞬だけ思考して、彼が漸く怒っているのでも恥ずかしがっているのでもなく、申し訳ないと詫びている事に気がついた。
「…ああ、参ったね。君相手だとここまで、私の頭も鈍くなるのか」
「……?」
呆れたような笑い声とともに吐かれた言葉の意味が解らず、再びおずおずとあげられたHiverの頭を逃がさずに両手でそっと覆う。逃げ道を無くし、戸惑ったように見上げてくる子供に、全力の愛情を込めて今度は深く深く口付けた。