時計+人形

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tell me

「ボス、あの転校生の川田って奴、どうします? シめちまいましょうよ」
笹川に言われたのは、そんな台詞。「くだらねぇこと言うんじゃねぇ」と沼井が笹川を小突いている前で、初めて桐山は視線を彼に向けた。
不遜な視線を前に向ける、苦みばしった目。
身体のあちこちに付いた傷と、不精髭。
どこをとっても中学生とは思えない容貌と態度。
つい最近転校してきた男子生徒、川田章吾。
彼でなかったら、誰もが興味を持つ対象だっただろう。
そう、彼が桐山和雄でなかったら。(そんなことは有り得ないのだけれど)
事実彼は、一通り観察すると何事もなかったように目を閉じた。
だから、川田の方が自分に視線を向けたことも、気付かなかった。






なんとなくコインで、次の授業に出るかどうか選んだ。
なんとなく付いて来る沼井たちを撒くことを選んだ。
選択。
それが彼が生きる指針となり得る、唯一のもの。
ざぁ、と風がなる。
木陰から、僅かに鳥の鳴き声が聞こえる。
髪を風に遊ばせている桐山の動かない瞳に、学生服が映った。
「よぅ、お前もサボりか?」
声をかけられた。
返事をすることもなく、ただ目をやる。
煙草を咥えた皮肉げに歪められた唇が、重ねて言葉を紡ぐ。
「ま、あんな退屈な授業に出る気はしないわな」
こちらの理由にお構いなく納得してしまったらしい。
「俺は、どっちでもいいと思ったんだ」
なんとなく、訂正することを、選んだ。
返事が返って来るとは思わなかったらしく、川田が少し驚いた顔でこちらを見た。
「………………」
「………………」
沈黙が続く。
ピチュピチュ、と小鳥の囀りが随分近くで聞こえた。そう、隣りから。
横を向くと、川田がその無骨な指で、手の平に丸ごと包まれるほど小さな赤い何かをいじっていた。
視線に気がついたのか、川田も目を上げる。
「バードコール。知らないのか?」
知っているが、実物を見たのは初めてだった。
視線を逸らさない彼を居心地悪く思ったのか、少し逡巡して、その小さな玩具を手渡した。
バードコールの仕組みを知るのも、悪くないと思った。
軽く回して音を出してみたり、目の前に持っていって翳したり、
まるで新しい玩具を与えられた子供のようにそれに夢中になっているように見える。
奇妙な光景なのだが、何故か違和感がなかった。
「……早く返せよ」
軽く溜息と共に煙を吐き出し、それを風に遊ばせた。
その風に、人工の鳥の歌声が混じって消えていった。