時計+人形

のんべんだらりんごった煮サイト

FAT SOUNDS

「なぁ、杉本。お前千草とはどうなのよ?」
昼休みに口火を切ったのは三村だった。
それを聞いて七原は、隣で本を読み耽っていた友人に目線を移した。
「どう……って?」
読んでいた本から顔を上げて、不思議そうな顔で聞いてくる。
「だからぁ、お前に浮いた話がないのって、千草がいるからなんだろ? ん?」
どうだ、と言わんばかりに椅子の背もたれに片肘を立てて身を乗り出す三村に、七原の方がやや呆れている。
「三村…やめろよ」
「何だよ七原。お前だって気になるだろ?」
自分だって興味がないと言えば嘘になるが、杉村の方が怒ると洒落にならない。
「…………あぁ」
ようやく話に合点がいった、と言う風に杉村が返事をした。
興味深い視線を思わず向けてくる二人に苦笑して、杉村は二人の目の前でぱたむと本を閉じた。
「俺は貴子と付き合えるほど男前じゃないよ。幼馴染みなんだ、俺達」
「幼馴染み?」
軽い風圧に目をぱちくりさせながら、七原が問う。
頷いて、杉村が返す。
「昔、よくかくれんぼとかしたのさ。ケンカすると、俺が泣かされてさ」
「お前が〜??」
疑り深い視線を向けてくる三村の視線を軽くかわす。
七原にしても、目の前のこの男がそう簡単に涙を流すなど信じられないので、ついそう言う目で見てしまう。
「…そんなに信じられないか?」
「いや、お前が泣かされたって言うのが」
やや憮然とする杉村に、慌ててフォローにならないフォローをする。
「じゃ、お前と千草って本当に何でもないのか?」
「本当」
「おー。じゃ、フリーかぁ」
「何考えてる、三村?」
「別にぃ」
じゃれ合う二人を余所に、杉村は教室の隅に視線を動かす。
思い思いの場所に固まっているクラスメートの中から、窓際で友達と笑い声を上げている少女に目をやる。
ほんの少しだけ、その瞳が眇められた。





「じゃ、お前はどうなんだ?」
「へっ? 俺!?」
「そうそう」
杉村が想いを馳せている間に、ターゲットは七原に移動したらしい。
「俺は、別に…誰も」
ちょっと慌てて言葉を紡ぎ出す。
脳裏に浮かんだある先輩の面影によってもたらされる痛みは、随分小さくなっていた。
「はぁ。全くお前は幸せもんだな。いや、不幸せなのか?」
七原が凄くクラスの女子に人気があることを知っていて、それを踏まえた上で三村はため息を吐く。
杉村もそれには同感らしく、口元に浮かんだ笑みを持っていた文庫本を開いて隠した。
「何だよ。どう言う意味だ?」
その態度にむっとして七原が背凭れから身を乗り出す。
「お前がお子様だってコトだよ、七原クン?」
ウインクされてさらりと言われた言葉に、納得がいっていないらしく唇を尖らせる。
その仕草に、他の二人は耐えきれずに吹き出した。
「何なんだよー!」
七原の大声が、教室に響いた。