時計+人形

のんべんだらりんごった煮サイト

LOVE SICK

「欠けたグラスの半分みたいに、自分に合う人は決まってるんだって」
日の落ちかけた放課後、唐突にそう言ったみかるの顔は、いつもどうり僅かに紅潮して大きな目をきらきらと輝かせていた。
その目から逃げ出す様に、チャーリーはMDのイヤホンを耳に突っ込んでいたのをいい事に何も言わず目を逸らした。   
この天然なお子様と同じ位置で喋ろうとすると、確実に負ける。その唐突さと無邪気さと無敵さに。
逃げるのが一番だ、卑怯だと言われても構わない。
「何だかいいよね、側にいるとぴたっとするかんじで」
それに気付いているのかいないのか、みかるの唇は止まらない。
「でもグラスって割れる時あんまり真っ二つに割れないよね。ぐしゃぐしゃになっちゃうよね」
机の反対がわに上半身を預けてごろごろしながら、言葉を続ける。
チャーリーは今だ椅子の背もたれに肘をかけて横   を向き、無視したままだ。
「一番おっきいかけらが黒井くんで、次におっきいのがあたしで…」
「待て!!」
聞き捨てならない一言を呟かれ、ばっと突っ込みをいれてからしまったと思う。
言葉を返してしまえば聞いていたのがばれてしまう。
「残りのかけらって一体なんだと思う?」
「知るか!」
どんどん熱をもっていく頬を隠したくて、見る見るうちに沈んでいく夕日の方に顔を向け少しは気を使えと理不尽なやつ辺りをする。   
「うん、でも、何でもいいや。二人で拾いにいこうね」
ぱかっとしたとしか形容できない笑顔を向けられて、チャーリーが机に突っ伏す。
「ワケ…わっかんねー…」
「え、そぉ? だってどうせだったら、ちゃんとしたグラスになりたいし…」
「あーもういいお前もう喋んな」
「???」
疑問符を顔いっぱいに浮かべながらそれでも口を両手で覆うこの子供が、
どうしようもなく可愛いと思う時点でもう完封負けだと思うし。
「大体なんだよその例えは」
「昔ぐうぜん見たテレビで言ってたの」
「はぁん」
「でもどうやってくっつけばいいんだろ」
「ば」
馬鹿、と言う前に。
「これでいいのかな?」
机から乗り出して、抱き締められた。
「………………」
「やっぱり、接着剤とかでつけなきゃだめなのかな」
「……これで充分だろ」
「良かったぁ」
これ以上この怖いもの知らずは何をするつもりなんだろうか。
羞恥とか役得とか、それ以前に何も反撃できない自分が嫌だ。




これはもう、病気だな、と。