時計+人形

のんべんだらりんごった煮サイト

name is man

「黒井くん黒井くん」
「んだよ」
どんなに不機嫌そうな返事を返しても、彼女の笑顔が揺らぐことはない。
「へへー。大好きだよっ」
「ばっ!」
臆面もなく、恥もなく、あっさりと言えてしまうその言葉。
「テメェ、それ止めろって言ってんだろ!」
真っ赤になりながら言っても説得力がない。
「何を??」
大きな目をぱちぱちさせて問い返してくる少女を睨みつけ、
「そう言う台詞をサラっと言うなっつってんだ!」
「えー、だってほんとのことだもん」
全部平仮名で返された。そう言う発音なのだ、解ってやってくれ。
「テメェにゃ羞恥心ってモンがねぇのかっ!」
「シューチシンってなに?」
がくり、と膝の力が抜けてチャーリーがそこに突っ伏す。
駄目だ。コイツと会話を噛み合わそうとするだけ無駄だ。暖簾に腕押しプリンにお箸。
「黒井くん黒井くん」
自分もしゃがみこんでチャーリーと目線を合わせて、またみかるが呼びかける。
「あ゛?」
思いっきり柄悪く言っても、目の前の少女が怯むはずがなく。
「黒井くんは?」
「は?」
きらきら輝く瞳で真っ直ぐ自分を見つめてくる。
「あたしのこと、好き?」
こくん、と首を傾げて問うてくる。


…………………


「言えるか馬鹿野郎!!!」
「きゃー」
長い沈黙の後、爆発。無理もない。あまり緊張感のない悲鳴をあげて楽しそうにみかるが逃げる。
遊ばれてるとしか思えない状況に、そんなに太いほうでも無いチャーリーの堪忍袋の尾が切れた。
「いいか! もう二度と、絶対、簡単にそんな言葉言うんじゃねぇッ!!」
もともと、自分の考えを口に出すことは苦手だ。
意識しないと、正反対の言葉が口をついて出る。
素直なことが格好悪くなり、斜に構えることが普通になったのはいつからだ?
一生懸命が恥ずかしくなり、「適当」が標準になったのは?
それがアタリマエになったのは?
………それなのに、目の前にいるこの少女は。
いつでも、自分の中身を曝け出して。
ガキと言ってしまえばそれまでのはずなのに、目が離せないのはどうしてだろう。
そんな風に生きていけば、いつか傷つくのは自分の方だから。
だから。
「…………?」
煩い言葉が聞えなくなっていることに気づき、はたと足を止めた。
怒らせたか泣かせたか、と思って慌てて横を振り向くと、
「……………」
少女は、自分の小さな両手を口に重ねて当てて沈黙を作り上げていた。
「そうまでしないと黙れねぇのかテメェはっ!」
すかさずツッコミを入れて、腕を引っぺがそうとする。
「むーんむー!!」
必死に抵抗するみかる。しかし力で勝てず、べりっと剥がされた。
「ぷはっ! だってだって! ふさいでないと言っちゃうもん! 黒井くんのこと好きだって!」
「んなっ…」
「ココロの中にいっぱいいっぱい詰まってるから、出さないとぱんぱんになっちゃうよー!!」
手をじたじたさせて主張する子供に、再び脱力する。
何を言おうと無駄だ、このお子様には、と漸く悟ったらしい。
「はぁ…いーよもぅ。勝手に言ってろ」
諦めと共に吐き出された許しに、みかるの顔がぱぁっと輝く。
「そのかわり! 俺はぜってー言わねぇからな」
「え〜!!」
あっという間に不満げに寄せられる眉のど真ん中に、ぴしりとデコピンを入れる。
「あうっ」
「ばーか」
解り切っていることなんか、言うつもりがない。
誰が言うか、そんな恥ずかしい台詞。
気づけよ、俺が側にいる時点で。
「ねー、お願いー。一回でいいからー」
「い、や、だ」
「ケチーケーチー」
「黙れ」