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「…確かココに…お! あったあった!」
職員室の水道近くの棚をがさがさと探っているのは、2年E組黒井慎二ことチャーリー。
周りの教師が怯えたり責任を擦り付け合ったりしている中で、職員室はほぼもぬけの空。
ゆうゆうと略奪行為を行えたということで。
「黒井くん、何してるの?」
「おわぁ!!」
そんな彼の後ろから声をかけたのは、彼のパートナーである2年D組橘みかる。
ばむし! と壁に背をつけたチャーリーを、大きな目をぱちくりさせて何事かと問うている。
「っんだ、みかるかよ…脅かすんじゃね―よ」
「おどかしてないよぅ。何してたの??」
好奇心を丸出しにしてチャーリーの手元を覗き込んでいるその鼻先に、
手に入れた目当てのものを突き出してやった。
「う?」
「へへっ。教室行こうぜ」



適当な入れ物に水を入れて、沸かす。魔法ってのは便利だ。
がめて来たのは、インスタントコーヒーの粉。
これも勝手に拝借してきた二つのカップに入れて、お湯を注ぐ。
「うわぁ…」
「ほら、お前のぶん」
「ありがとー」
手渡された暖かなカップを嬉しそうに両手に抱えて。
「でも、いいのかなぁ。こんなふうに休んで」
「いーんだって。オレら、働き過ぎ。どうせ誰も気にしちゃいねぇよ」
先程職員室に忍び込んでこれでもかとびびっていたのはどこの誰なのか。
気にした風もなくチャーリーは、芳香のする液体をずずっと一口啜った。
みかるも同じように口をつけて……
「にが……」
うえーっと舌を出す仕草に、ぶっと吹き出す。
「我慢しろー。砂糖なんかねーぞ、お子様」
「う〜」
嫌々ながら、もう一度口をつけ、やっぱり苦かったらしくまた舌を出す。
その姿を笑いながら、もう一口。
実際、こんな風に少しでも現実を感じなければやっていけない、と思う。
ここが魔界? 狭間が魔神皇? 悪魔?
……馬鹿げてる。そんなのはゲームの中だけで充分だ。
しかし現実に、教室の窓から見えるのは宇宙空間のような次元の裂け目で。
たまに見えるのは炎を吹き出したり巨大な樹のように見える世界で。
休まなけりゃとっくに狂ってる。
でも…こんな風に休めるということが、どこか頭の捩子が一本飛んでしまったことなのかもしれない。   
 


「黒井くん黒井くん」
「あ? んむぐっ!?」
名前を呼ばれて思考を打ち消したチャーリーが返事をした口に、何かがねじ込まれた。
咄嗟に噛んでしまうと、崩れる感触と共に甘い香り。
「む…んだこりゃ」
「口直し。魔界特製ブラウニークッキー! おいしいよ」
にこにこしながら自分も、大き目のクッキーを両手で持って齧っている。
「…お前、順応性高すぎ」
「そうかなぁ?」
がくりと脱力したチャーリーに気づかない様に、既に二枚目を手に取った。
気を取り直して、チャーリーも手を伸ばす。
苦いコーヒーと、甘いお菓子。これだけあれば、休憩には充分だろう。
あと、変わらない笑顔を持つ彼女が隣にいてくれれば。
「おいしいねぇ」
「……おぅ」
二人にしばしの休息を。