時計+人形

のんべんだらりんごった煮サイト

What is Love?

act.1 困惑

タン、タン、タタン、タン。
リョーマは一人で壁打ちをやっていた。
タタン、タタン、タン、タン。
一定のリズムで、足と腕を動かし、同じ場所にボールを打つ。
彼にとっては簡単過ぎる練習だが、普通の人が見たら驚嘆するほどの腕前だ。
例えば…そう、ちょうど自分の練習が上手く行かなくて、潤んだ瞳を隠そうと水飲み場に顔を洗いに来た女子生徒にとっては。
「あ…リョーマくん!」
タ、タタン……
リズムが崩れた。スィートスポットに当たらなかったボールは見当違いの方向に飛び…三つ編みの少女の足にこつん、と当たって止まった。
「…………」
無言のままにボールの行方を見守るリョーマ。何となく眉間に皺が寄っている。
「ご…ごめんなさい、邪魔しちゃった…」
帽子の下から大きな目で睨まれて、びくりと桜乃は萎縮した。
「…別に、いいけど」
その仕草に、ばつの悪そうな顔を帽子のつばを下ろして隠し、ぼそりと言う。その言葉にホッとしたのか、桜乃のほうが顔を上げる。
「でも、リョーマくんって凄いね。やっぱり子供の頃から沢山練習しないと、上手くならないよね…」
その言葉を自分にかけていることに気付き、リョーマは軽く溜息を吐いて頭を掻いた。
「ヘタッピはそう簡単に上達しないよ」
甘えるな、と言われているような気がして、ますます桜乃は落ち込んでしまう。大きな瞳から今にも水が零れそうだ。   
「う、うん、そうだよね…ごめんなさい…」
「……また謝る……」
あまりにも小さい声で呟いたので、桜乃の耳には届かなかった様だ。苛々とした感情を消せない。
「だから、そうじゃなくって…」
ぼそぼそと呟き、前に垂れていた長いおさげを一房取り、少々乱暴に引っ張った。
「きゃっ!?」
思わぬ痛みにバランスを崩した細い小さな身体を、両腕で支えた。相手が我に返らないうちに耳元まで口を持っていって、囁いた。
「人一倍練習しろってこと」
耳を僅かに擽る吐息に、桜乃の顔がかぁーっと紅潮する。
「解った?」
「…う……うん……」
顔を真っ赤にしたまま頷く桜乃に、満足そうに笑う。身体を離してやると、ほっと息を吐いて、真剣な瞳を自分の方に向けてきた。
「あ、あのね…全然上手く行かなくて…少し落ち込んでたの。リョーマくんのフォーム、ちょっとだけ見せてもらっていい…?」
じっと見つめてくる視線に、何故か心臓が一つだけ大きく鳴った。
「あ、あの、勿論、邪魔だったらいいの。すぐ帰るから…」
「邪魔だね」
きっぱりと言われ、やっぱり…と俯くが。
「今日部活終わった後、ヒマ?」
「えっ??」
「だから。終わった後なら…いいよ」
「本当!?」
ぱあああ、という効果音が似合いそうな笑顔で桜乃が笑う。リョーマはぷいっと横を向いた。
「ありがとう、リョーマくん!」
「別に…」
ぶっきらぼうに返すと、存在を忘れられていたボールをひょいっとラケットで持ち上げ、軽くリフティングしてから壁打ちを再開する。
「あ…じゃあ、私戻るね。ありがとう!」
振り向いて、手を振っているであろう相手に、ラケットを右手に持ち替えて利き手を軽く振った。


××× ××× ×××


「青春してるな、越前」
「…乾先輩、いつからそこにいたんスか」
コート内からひらひらと手を振ってくる先輩に嘆息し、壁打ちを中断する。
「でも、女の子の髪を引っ張るのは減点対照だな」
質問に答えず、只ノートに鉛筆を走らせている先輩に、深く考えるのは止めようと思いつつ金網越しのところまで近づく。
「ほっといてくださいよ」
「そうか? 残念だなぁ、教えてやろうと思ったんだけど」
「………何をスか」
「竜崎桜乃嬢に懸想する青学男子生徒の人数」
「!!」
ポーカーフェイスが消えてばっ! と目を見開き、次の瞬間憮然とするリョーマに、してやったりと笑む。
「知りたい?」
金網の向こうにある何の変哲もないノートの中身をこれほど見たいと思ったことはない。
何とかその衝動を堪え、踵を返す。
「…別にイイっスよ。『自分で』調べますから」
「…成る程」
納得したように頷く先輩を無視し、リョーマは飲み物を買いに行くべく歩き出した。
心の中のモヤモヤしたこの感情を、どうにか説明づけたいと思いながら。
その感情は、彼が始めて味わう、苦くて甘くて、どうにも形容しがたいモノだったので。



―――恋愛は、人を戸惑わせる。 






act.2 焦燥

最早何が理由なのか忘れてしまった、桃城との何百回目かの喧嘩を部長に止められ、校庭十週する羽目になった。
そこでも張り合いつつ殆ど全力ダッシュで走り終わり、流石にふらふらになりながらコート近くまで戻る。
そこで見たのは、金網越しに話しあっている生意気この上ない後輩と、
………自分が近づくことを求めてやまない先輩で。
ちりっとした痛みが、海堂の胸に突き刺さった。それを振り解くかのように、ベンチに立てかけてあったラケットを手に取り、素振りを始める。
人と接するのは苦手だった。
他人は自分の顔を見て怯えるか、勘違いして凄んでくるかのどちらかで。
だから、何の躊躇いもなく自分に触れてきたのは彼が始めてで。
嬉しかった、のだと思う。
それと同時に、今まで気にもしなかった「他人からの評価」が急に気になりだした。
―――先輩は、自分のことをどう思っているのか。
先輩にとっては自分は、その他大勢の一人に過ぎないのではないだろうかと。
だから。
だから、強くなりたかった。
あの人を倒せるぐらい強く。
そうすれば、彼は自分のことを認めてくれるのではないかと。
―――――馬鹿馬鹿しい。
「素振りは500でいいよ。7回オーバーだ」
「!」
いつのまにか、目の前に壁が出来ていた。否、壁のような長身が立っていた。
「ちゃんと数えてたか?」
彼の口元に浮んでいる苦笑が、柔らかくて、優しいので、…苦しくなった。
何か。何か、気の効いた台詞を言えればいいのに、いつにもまして唇も舌も動かない。
「…………」
結局無言のまま、目を逸らす事しか出来なくて。
「海堂」
責めるわけでも、詰るわけでもない。
只、問いかけるように名前を呼ばれるから。
自分には、そんな余裕はない―――いつ彼がこの場所から去ってしまうかと思うと不安で、それなのに目を合わす事も出来なくて。
もう少し。
もう少しだけ、強くなれば。
受け止めることが、自信を持つことが、出来るのだろうか。
「……壁打ち、いってきます」
そんな自分の女々しさを悟られたくなくて、頭を下げるとその場所を離れた。



××× ××× ×××



取り残された乾は一人で、溜息を吐く。
「全く…少しは頼って欲しいんだけどな」
一つ下の後輩。
無愛想で、喧嘩っ早い癖に、礼儀には煩くて、馬鹿がつくほど真面目で。
ストイックで、『絶対に』最後まで諦めない精神力の持ち主。
動物とヨーグルトが好きで、バンダナを集めるのが好きで。
そんな風に、ありとあらゆるデータを集めてしまうけど。
未だに、全体像が判らない。
彼の存在は判る。それなのに、知れば知るほど次が出てきて止まらない。
全部知りたい。
海堂薫という人間のデータで、自分のメモリが埋まるまで。
自分が側にいる間に、それを完遂させることが出来るだろうか。
今まで書きこんでいたノートをベンチに置くと、もう一冊。海堂専用のメニュー作成用ノート。最近の体調を考えて、さぁどうしようかと首を捻りはじめる。
自分の中の焦燥を、必死に抑えこみながら。
自分は、まだ「頼りになる先輩」でいたかったから。



―――恋愛は、人を焦らせる。 






act.3 躊躇

グラウンドを走らされていた二年生が戻ってきたので、3年レギュラーはベンチにクールダウンしにいった。
「ねぇ、エージ」
自家製の特製ドリンクを一口飲んで、不二が尋ねる。
「にゃに?」
タオルで乱暴に汗を拭っていた菊丸が、その下から答える。
「大石ってさ、エージのこと英二って名前で呼んでるよね?」
「? 何それ。そんなん不二だってそーじゃん」
大きな吊り目をぱちぱちさせて小首を傾げてくる菊丸に、ちょっと困った様に笑って。
「だから、何でエージは大石のコト名前で呼ばないのかなって」
「え? ふぇえっ!?」
不二自身、軽い気持ちで休憩中の暇潰しに問いかけただけだったのに、菊丸にとっては凄い威力の爆弾だったらしい。
最初の疑問符の後、一気に頬を朱に染めてわたわたとしている。
「…そんなに驚くこと?」
はてな、と言う感じで首を傾げる不二に、菊丸はむぅっと唇を尖らせる。
「べ、別に名前で呼べとか言われてねーもん…」
「そんなこと気にしなくても、エージだったら喜ばれると思うけど」
「そ、そぉ?」
あっという間に照れ臭そうな顔になって頭を掻く菊丸が、ほんのちょっとだけ羨ましい。
自分は正直、そこまで愛されてる自信なんてないから。証を求めるのはいつも自分の方で、相手はそれに答えるだけ。
いつでも仲睦まじい黄金コンビが羨ましくて、ついついちょっかいをかけてしまう。
「だから、何で呼ばないの?」
「う…だからぁ」
赤くなった顔がどんどん俯いていく。それに合わせて、不二も頭の重心を下げていく。
「……は」
「は?」
「恥ずかしいんだよぉ! 素面でんなこと言えるかよ!」
目を瞑ったままがーっと歯を剥き出しにして怒鳴る菊丸に、きょとんとしたままの不二。
「…………恥ずかしいって…」
普段の菊丸の行動を考えてみる。
朝から大石と一緒に登校。練習も一緒。何かあればすぐ彼のクラスまで飛んでいく。暇さえあればじゃれつく・抱きつく・しがみつく。
「何を今更」
それしか言えない不二の気持ちは良く判るだろう。
「だ、だって…じゃー不二はどうなんだよ! タカさんのこと名前で呼べるのか!?」
「え」
いきなり向かってきた菊丸の反撃に、一瞬思考が止まる。ちょっと考えてみて。
「―――――」
ぼん、と音が出るくらい顔が真っ赤になった。
「………だろ?」
つられたのか、やっぱり顔を赤くしたまま菊丸が言う。
「……何でだろ…すっごい照れる……」
「うん…」
不二の赤面なんて滅多に見れるもんじゃないかも、と思いつつ、菊丸はまじまじとそれに見入る。
不二の方は自分で言うよりも、もし相手に名前で呼ばれたらどうなるかまで想像を飛躍させてしまったらしく、顔の赤みが中々引かない。
「こら、英二。サボってるのか?」
「不二、どうかした?」
と、そこにお互いの相方が近づいてきた。
「そんなことないって! ちょっと休ー憩!」
「ううん、何でもないよ」
慌てて首を振って相手に答える。
そのまま黄金コンビは何か言い合いながら歩いていってしまったので、その場には河村と不二だけが残された。



××× ××× ×××



「菊丸と何話してたの?」
「えっ…」
何気なく言われた問いに、動揺を抑えこむ。他の人間相手なら何の疑問もなく出来るその行動が、彼を前にすると何故か出来なくなる。
「大したことじゃないんだケド…気になる?」
本当に言いたいこととか、不安とか、全部心の中に押しこんでからかうように言ってやる。
「えっ、いや、別に……」
慌てた様に目の前で手を振る河村に、くすくすと笑って。
ふと、菊丸達の方を見ると、クラスメイトが彼の相方に抱きついていた。
あれの100分の1くらい愛情表現できたら、河村も僕のこと名前で呼んでくれるかな。
―――とても今は耐えられないだろうけど。
「何でもないよ、本当に」
だから全部、飲みこんだまま笑う。
今は何よりも、嫌われるのが怖いから。



―――恋愛は、人を躊躇わせる。 






act.4 自信

この世で一番知っているのは、貴方のこと。
  
   

「だから〜、あのフォーメーションだって俺らにかかれば簡単過ぎ!」
「うん、そうだね」
大石の腕に掴まって自信満々に言う菊丸の言葉に、にっこり笑って大石が返す。社交辞令ではない、本気の声
音で。
「乾に言ってこようよー。新しい練習やろって」
「それは駄目だよ。簡単でも、練習はやりこまないと。試合では何が起こるか解らないから」
「むー」
かといって、締める所はしっかり締めて、甘やかし過ぎない。不満げに唇を尖らせた菊丸の頭をぽふぽふと叩
き、宥めてやる。
その感触にうっとりしながらも、しがみ付いた腕を離さないまま、ほんの少しだけ考える。
いつもいつも、自分の我侭を聞いてくれる大石。
そんな彼に、自分は甘えすぎていないかと、たまに不安になる。
大石は、優しいから。
駄目な事でも抑えて自分を立てて、迷惑を被ってるんじゃないかと。
普段楽天的な分、考え出すと止まらなくなる。
じわじわと不安が滲み出てきて、泣きそうになる。
「英二?」
急に黙りこくった相方が心配になったのか、大石が名前を呼ぶ。
俯いた菊丸の瞳が僅かに濡れていることに気がついて、歩みを止めて彼の両肩に手を置きこちらを向かせた。
「どうした?」
責める声音にならないように気をつけて、問う。向かい合わせの顔が、ちょっと持ちあがって、すぐ下を向く。
気分屋の菊丸は、一瞬前笑っていたかと思ったら急に落ち込むことが良くある。その度に自分は不安になって、
放っておけなくなってしまう。
手塚や不二には「菊丸を甘やかすな」とよく言われるのだが、大石は甘やかしているとはちっとも思っていない。   
明るい笑顔に包まれた、傷つき易い本心を知っているから。
例えば、軽いスランプに陥ったり、試合で負けたりした夜、泣きそうな声で家に電話をかけてくる声とか。
それを聞いてしまえば矢も盾も堪らず、彼のところまで駈けて行きたくなる。
自分の側で菊丸が安らげるならいくらでもそうしてやりたいと、望んでいるのだから。



××× ××× ×××



そんな大石の気持ちを菊丸は知らない。だから不安になる。
「大石、オレ、お前に頼りすぎてない? オレのこと、呆れてない?」
だから答えを欲しがって。
「…そんなことない。思ってないよ」
だからそう笑って答える。
「ホント?」
「本当だよ」
「ホントにホント?」
「本当に本当」
「ホントにホントにホント?」
「本当に本当に本当」
「良かったぁ…!」
問答が段々と笑い混じりになって、最後の菊丸の言葉の後に二人で吹き出した。安心しきった笑顔で、菊丸が
大石の首に飛びついてしがみつく。
彼の言葉に嘘などないと、確信しているから。
大石も一瞬よろめいたが、しっかりとその身体を受けとめてやる。
彼の不安を取り除けたことが、何より嬉しかったから。
盲目的な信頼ではないかと、人は言う。
それは、違うと二人そろって言える。
誰よりも相手のことを知っていると、自信を持って言えるから。



―――恋愛は、人を強くさせる。 






act.5 変化

日が傾き始め、本日の練習は終了。
部室ではレギュラー陣が着替えを始めている。
「お先ッス」
「あれ〜おチビちゃん、早いねぇ」
素早く身支度を整えたリョーマが鞄を担ぐのを目に止め、菊丸が声をかける。
「急ぐんで」
先輩へとは思えないぶっきらぼうな返事をして、外に出ていった。
「何あれ〜、大石何か知ってる?」
「ううん、別に何も聞いてないけど…」
ぷぅ、と顔を膨らませた菊丸を大石が宥めている。唯一理由を知っている乾は椅子に座り、海堂と机を囲んで新しい練習メニューの説明をしていたのでそれに気づいていなかった。
少し離れたロッカーの前で河村と不二は何やら話して笑い合っていたが、ふと気づいたように不二が言った。
「…あれ? 手塚は?」
その言葉に残っていたレギュラー陣があれ? と言う感じで辺りを見回す。今日の後始末は大石の仕事だったし、別に先に帰っても良いのだが、毎日他のメンバーが全員帰るまで部室で見送るのが当たり前になっていたので、帰ってしまったとすると凄く意外だった。
「もしかして、まだコートにいたりする?」
「いや、さっきまで確かいたはず…」
さわさわとざわめく面々の所に、コート整備を終えた桃城が帰ってきた。
「ありゃ、何騒いでンすか?」
「あー桃、手塚見なかった?」
「部長ッスか? さっき校門の辺りで見ましたけど…もう帰っちまったんじゃないすか?」
桃城の証言に、皆また顔を見合す。やはり帰ってしまったのか。
「何かあったのかにゃ〜?」
「体調が悪かったとか…」
ちょっと不安そうに見当違いのことを心配する大石。
「結構、急いでたみたいすけど」
結局、まぁ手塚にも思う所は色々あるのだろうと言う不二の意見と桃城のその証言を元に、明日聞いてみるかと乾が言い、そこでこの話題はお開きになった。



誰より早く部室を出ていた手塚は、早足で駅に向かっていた。
別に意識していないのに歩みが速くなるのは、始めての経験だった。
昨日の夜、かかってきた電話。それが、彼の行動の原因だった。
久し振りのコンタクトだった。会えるか、と。一も二も無く、返事をした。
駅前は、夕方の賑わいに支配されていた。人の間をぬって歩く。時たま好奇の視線が自分に向けられるが、気にしない。
やがて、駅の柱に凭れかかっている黒い学生服を見つけて、そこに歩き寄った。相手も気づいたらしく、手を上げて挨拶する。
「すまない、待たせた」
「いや、さっき来たばかりだ」
軽く詫びると、笑って返される。そんな会話一つで、自分の心の中に熱が灯るのが解る。
とりとめない話をぽつり、ぽつりと話しながら、電車に乗る。座った椅子から伝わってくる暖房の熱と、規則的に揺れる振動に、部活の疲れが手伝って軽く瞼を下げていくが、頭を振って堪える。
眠るのが勿体無かった。久し振りに、会えたのに。
「眠いか?」
「いや、平気だ」
「無理するな。疲れてるんだろう?」
それはお前の方だろうとやはり眠そうな橘に問うと、お互い様だとまた笑われた。
こんな風に。
部活が終ってからすぐ、何も考えずに彼の所まで来て。
何気ない会話をして、笑うのが楽しくて。
少し前までの自分なら信じられないほどの変わりようだと思った。
しかし、生活を戻す気にはなれなかった。戻りたくなかった。
甘えと言われてもいい。今この場所が、凄く幸福だったから。
そのまま、段々会話が途切れていって、安心する沈黙が訪れると。



××× ××× ×××


   
周りの乗客の、くすくすとした微笑ましい笑いをものともせず、二人はお互いの肩に寄りかかったまま寝息を立てていた。
そのまま終点まで目が覚めず、駅員に起こされて恐縮しつつお互い謝る羽目になるのだが―――
本人同士は、ちっとも嫌では無かったことを追記しておこう。




―――恋愛は、人を変えてゆく。