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Doing something Hot

 如月骨董品店の茶の間、卓袱台の上に鎮座して良い音と匂いを立てているのは、丸い穴ぼこがたくさん開いた鉄板だった。
「いったいどういう風の吹き回しですか、如月さん」
 意外過ぎる取り合わせに目を瞬かせて、学校帰りに訪れた壬生が如月に問うてくる。今日の夕飯に使用するための、蛸をはじめとした食材を刻んだ皿を卓袱台に降ろしながら、こいつに聞けとばかりに指をさした。その先で卓袱台の前に胡坐をかいている村雨は、上機嫌な顔で生地を鉄板に流し込んでいる。
「福引で当たっちまったんだよ。使わなきゃ損だろう?」
 容赦の無い強運を見せ付けつつ、不機嫌そうな如月から皿を受け取る村雨に同調するように、先に卓袱台を囲んでいた紫暮も豪快に笑う。
「それに中々楽しそうじゃないか。そら、壬生も好きな具を入れるといい」
「……解りました」
 スタンダードな蛸から馴染みのない具財まで、好き勝手に放り込んでいる紫暮が笑顔を見せてくれるので、壬生はもはや逆らう気は無くなったようで、いそいそと隣に座った。如月も諦め顔で、何でも出てくる蔵から探してきた、たこ焼きを回すために使えそうな鉄串を並べている。
「おい、げて物を作るな、やるなら全部自分で食べろ」
「ロシアンルーレットでやっても当たんなくてつまんねェんだよ。持ち回りにしようぜ」
「ほほう、受けてたとう!」
「紫暮さん、落ち着いてください」
 危険なギャンブルを提示する村雨と乗ろうとする紫暮を如月と壬生で止め、如何にか幸せなたこ焼きパーティーが開催の運びとなった。


 ×××


 腹ごしらえをした後は麻雀大会となり、村雨の鬼ツモに他三人で抵抗するいつもの展開にはなったがまあまあの善戦をして、無事に終了した。
「では、世話になったな。また誘ってくれ」
「御馳走様でした、如月さん」
「気をつけて」
 明日は普通に学校もあるので、紫暮と壬生は自宅へ帰ることになった。もしかしたら帰り際に二人でどこかに寄ったりするのかもしれないがそこは如月も指摘しない。何せ、村雨は普通に骨董品店に陣取っているのを指摘されないので。
 雨戸をきちんと閉じて座敷に戻ると、雀卓は紫暮達が片付けてくれた上で、縁側で悠々と煙草を吹かしていた村雨の尻を軽く蹴る。
「痛ェな」
「暇なら風呂の支度をしてくれ、僕はまだ洗い物がある」
「へいへい」
 この辺りの家事の分担は慣れたもので、渋々立ち上がる村雨を見送ることも無く、てきぱきと片付けを始める。灰皿を綺麗にし、使った食器を片っ端から洗っていく。
 やがて風呂場から水音と鼻歌が聞こえてきて、ちゃっかり村雨が一番風呂を貰っているのに気づくが、如月としてもそれはいつも譲っているので否はない。寧ろ、自分以外の生活音が心地良く感じてしまい、自然と口元が綻ぶ。
 昼間は仲間達が店先に寄ってくれたり、自分も出かけたりするものの、この家に帰ればいつも一人だ。別にそれを不満に思ったことは無いし、己の立場として当然であると理解しているけれど、――こういうのも悪くない、と知ってしまったから。
 最後の皿をきゅっと磨いて、洗ったはいいがたこ焼き器をどうするべきか逡巡する。このまま置くのは手狭なので正直村雨に持って帰って貰いたいが、あれば皆使うだろうし、と顎に指を当てて考え込んでいると。
「おう、風呂あがったぜ」
「っ!」
 腰に手が回されると同時、肩越しに覗き込まれるまで全く気配を感じなかった不覚に、如月は悲鳴を堪えて唇を噛む。しっとりと濡れた黒髪が雫を肩口に垂らしてきたので、どうにか体を反転させて、肩のバスタオルを掴むと髪を乱暴に拭ってやる。
「冷たい、ちゃんと拭け」
「はは、ありがとよ」
 寝巻用の浴衣は村雨が初めて泊まった時に貸してやって以来、少し丈が短いままずっと彼が使っている。着付けはちゃんと出来る癖に、いつもだらしない着方しかしないので、襟ぐりがかなり開いている。僅かに汗ばんだそこを見ないふりをしてついでに直してやった。と同時に、寄せられた唇が前髪にそっと触れ、ぴくりと動揺してしまった。不覚に眉を顰める間もなく次は眉間に唇を寄せられ、
「ッ離れ、ろ!」
「おっと。んじゃ、風呂入って来いよ」
 拳を振ると素早く間合いを取られた。含まれている理由に顔を赤くするほど初心ではないが、相手のにやけた口元には腹が立つので、襟を掴んでぐいと引き寄せてやる。ぶつけるように唇を重ねて、すぐに離す。
「……布団も敷いておけ」
「はいよ」
 相手に動揺が無いどころか、嬉しそうに笑われたので悔しかったが、溜飲は下げたので我慢する。


 ×××


 しっかり温まり、体中を清めて寝室に行くと、ぼんやりとした行燈の光の傍に煙草の火がちりちりと灯っている。
「寝煙草を止めろと言っているだろう」
「これで終わるさ」
 眉を顰めて布団に近寄ると、寝転んでいた村雨が苦笑して灰皿に火を押し付ける。そのまま掛け布団を持ち上げて誘ってくるので、僅かな恥じらいを堪えて膝をつき、その中に潜り込む。
 布団と共に、自分よりも太い腕が被さってきて、その重さに安堵する。胸元に鼻筋を埋めると香る、煙草の匂いにも。
「……術師の癖に無駄な筋肉を……」
「無い物ねだりするんじゃねぇよ、忍者」
 逞しい胸板に顔を埋めたまま毒づくと笑って頭を撫でられたので、あしらわれた口惜しさを、相手の胸板を軽く噛むだけで堪えた。
「ッと。誘ってんのか?」
「五月蝿い」
 不満のままに何度も噛んでやると、指を差し出された。呪符や雀牌を繰る長い指で舌を軽く押されたので、遠慮なく口に含む。
「ん、ふぅ」
 同時に、浴衣に包まれたままの尻を緩く撫でられて、睨み付けるとぐいと裾を開かれた。逃げようとした腰はしっかり掴まれて、相手の太腿に擦り付けられた。
「むぁ、ん……! あっ、くぅ!」
 声を堪えて必死に指に吸い付いてやると、逆に胸元を吸われた。胸の突起をちろちろと舐められ、思わず口の中の指を噛んでしまう。拙い、と思うよりも先に指が引き抜かれ、あられもない声を上げてしまった。
「ァッ、ぅ、ま――っアア!」
 濡れた指で尻の合間をぬるりと撫でられて腰が跳ねる。どんどん高ぶってくる熱のせいで、布団の中が熱い。汗ばんできた互いの皮膚が滑ってくる不快感を堪えていると、ばさりと村雨の腕で布団が捲り上げられた。
「――ぁ」
 自分の体が急に外気に晒されて、組み敷いてくる村雨に全て見られているように錯覚してしまう。かあっと頬が熱くなって目を逸らすが、逃げることは許されないとばかりに腰を捕まれた。
「っあ! そこは止め、っんんう……!」
 股座に顔を埋められ、熱を思い切り舐め上げられてしまう。ぐちゃぐちゃと水音を立てて先端を擦り上げられ、根本の膨らみは口に丸ごと頬張られている。逃げ道が無い快感が噴き出しそうになって腰を逸らせると、隙を逃さずに奥に指を突きこまれた。
「んあッ! あっ、や、ぁ……!」
 太い指が中を擽り、しこりを押し込むように弄ってくる。同時に先端を口に含まれて、我慢できずに腰が痙攣し、白濁を零した。
「ゃ、すうの、やめ……ぇ、んぅー……!」
 更に容赦なく管の中に残っていたものまで吸い取られ、絶頂から戻ってこられないままがくがくと震える。そしてそのまま、両の太腿が抱えられ、力が抜けて弛んだところに、ひたりと熱が当てられる。
「いけるか?」
「んんっ……」
 くちくちと弄るように先端を戯れに埋め込まれ、必死に首を振って最後の抵抗をするが、髭の生えた顎はにやりと笑い、焦らすように何度も穴の上を滑らせて来る。ひくりと奥の門が浅ましくひくつくのに自分で気づいてしまい、悔しさから必死で歯を噛んだ。
「欲しいんなら、ちゃんと言いな」
「悪趣味、め……!」
 耳朶を齧りながら囁かれ、全身の熱はもう堪えるのが無理な程蟠って溢れそうになっている。それでも答えを返すのはどうしても出来なくて、如月は力の入らない足をどうにか持ち上げて、村雨の腰を引き寄せるように絡めた。
「……たのむ、から」
 どうしても露骨な言葉は言えず、それが限界だったけれど。間近にある村雨の瞳が僅かに見開き――くは、と獣のような笑みを見せた。拙い、と思う間もなく、嵐がやってくる。
「んぐぅっ!? あー……!!」
 ごり、と中を貫くように熱が襲ってきて、濁った悲鳴が漏れる。更に、普段は交わる時にもそこまでいかない奥、終点であるはずのそこをこじ開けるように先端がぐりぐりと抉ってきて、快楽よりも先に恐怖が湧いてしまった如月の目元に涙が浮かぶ。
「ゃ、むり、無理だ――ッ」
「ちょっと我慢、な」
 宥めるように頬に口付けはしてくれるが、蹂躙は容赦なく進み――奥の奥に、ぐぽりと音を立てて先端が収まったのが解り、ひくっと喉が痙攣する。自分では絶対触れられない奥底に、今まで感じたことのない快楽のスイッチがある。
 しかもまるでその場所を何度も抉るように、膝裏を抑えられて貫いてくるので、耐え切れず震えることしか出来ない。
「ぁ、っ、しこ、しこう、も、やだぁあ」
「っは、翡翠ッ……!」
「あっ奥、むり、ンッあッああ……!!」
 抱きしめられて逃げ場がないまま、熱が弾けた。


 ×××


 体の奥に違和感があり、如月は眉間の皺を緩めることが出来ない。適当に身支度を整えて村雨の腕の中に抱き込まれていても、腰と奥の違和感が消えないのだ。
「大丈夫か? ……痛てて」
「さ、わる、な」
 一応体を慮ってくれているらしいが、腰を撫でられると静まるどころか熱がぶり返してしまう。回された手の甲をぎちいと抓ってやると、詫びるように腫れた瞼に口付けられた為渋々許した。
「一体何をしたんだお前……取り返しがつかないやり方じゃないだろうな……」
「身体的には何も問題ない筈だがなァ。ただまあ、数日はイイのが取れないらしいぜ」
「問題あるじゃないか……!」
 明日までこの違和感が残っているとなると、碌に仕事も出来ない。腹が立って身を起こそうとするがやはり力が入らず、宥めるように背を叩かれた。それだけでも背筋から腰の奥まで振動が届いてしまって、必死に堪えて息を整える。
「悪かった。明日は一日、面倒みてやるよ」
「……当然だ」
 店番含めありったけの仕事を命じてやる、と思いつつ、明日も彼と過ごせることがどこか嬉しいと思ってしまう自分が嫌で、顔を見せないように村雨の胸元に潜り込んだ。あやすように旋毛に口付けがされた気もしたが、体力が限界らしく意識が解けていった為、返すことは出来なかった。