時計+人形

のんべんだらりんごった煮サイト

14. Gender-swapped

 テラフォーミングによる新しい星作りが大分軌道に乗ったある日、15人の嘗ての少年少女達は懐かしきセクターへその身を躍らせた。保存してある沢山のAIを、クローン技術により現実へ復活させる為の先駆けとして。
「沖野! やはりここに――、ッなんだその恰好は!」
 嘗て自分達が過ごした、セクター4にて。漸く見つけた相手の名を、驚いて比治山は呼んだ。
 あの頃と変わらない、古びた旧校舎に差し込む夕日の中。細い背が僅かに反応し、白い髪の少年――見た目はおさげ髪の少女にしか見えないが――がくるりと振り向く。嘗ての時と一切変わらない、どこか相手を小馬鹿にしたような笑み付きで。
「やあ、この姿では久しぶりだね比治山君。久しぶりに見れて嬉しいんじゃないかな?」」
 編まれた長い髪も、柔らかそうな頬と唇も、セーラー服に包まれたその姿も、あの頃比治山自身が目を奪われた姿ほぼそのままで――思わず頬を紅潮させてから、慌てて首を横に振った。
「か、からかうな! 俺一人を惑わす為にわざわざ面倒なことを……!」
 いい加減彼との付き合いも長くなった――色々な意味で深くもなった――が、この常に優位に立ち自分を振り回してくることに、比治山はいつまで経っても慣れない。悔しげに歯噛みをする、普段よりも幼い顔立ちに、沖野は一瞬だけ満足げに唇を緩め――すぐににやりとしたからかいの笑みに変えた。
「はは、別に君の為だけって訳じゃあないよ。こっちの格好だと色々便利だからさ」
「どういうことだ」
「容姿は他人に好意を持たれる方が得ってことさ」
 さらりと言われた言葉に比治山は鼻白む。つまりそれは、彼が不特定多数の相手から秋波のようなものを送られており、彼自身もそれを望んでいるということに相違ないからだ。彼が己の容姿を遠慮なく利用する性質だとよく知っているし――何せ自分が利用される筆頭だからだ――自分が指摘しても変えない頑固さを併せ持つことも解っているのに、どうしようもなく苛立ちが沸いてしまう。
 ぐっと握りしめた比治山の手をどう思ったのか、沖野の笑みがゆらりと深くなった。体を傾げ、自然と比治山の懐に近づきながら、内緒話のように囁く。
「ねえ、比治山君?」
「なんだ」
 不満げな声を宥めるように、ひそりと。
「さっきも言ったとおり、僕は今の外見を自在に設定できるんだ」
「ああ。……?」
「ただ僕だって、君の希望を取り込めないほど野暮じゃない。君が望むんだったら、選択を君に任せたっていい」
「どういうことだ」
「どっちがいいかってことだよ」
 言われた言葉の意味がさっぱり解らず、比治山は何度も瞳を瞬かせる。対する沖野は一層、目を細めて恐ろしい問いを発した。
「今の僕は――どっちだと思う? 比治山くん」
 うっとりと蠱惑的に、白哲の美貌が笑う。そのままするりと、白い手が黒のスカートをたくし上げ――太腿の半ばで止まる。
「おま、え、何を」
 慌てて隠そうとするも、触れるのも躊躇ったのだろう、ぎくしゃくと比治山の動きが固まる。くすくすと沖野は笑いながら、じりじりと愛する男に近づき――更に爆弾を放った。
「君が望むなら、僕の体は全部女性としてコンバートも出来るんだよ?」
「は――」
 息を飲んで、絶句。その反応に、沖野は満足げに笑う。
「ほら、外では当然、僕も男なわけで。君を楽しませるにしても、手管に限界があるわけだ。僕は充分満足しているけど、君はどうかなと思って。折角こっちに来たんなら、楽しめた方がいいんじゃないかな?」
「こ、こ――」
「こ?」
「――この馬鹿者!!!」
 漸く衝撃から立ち返った比治山が大声を上げた。教室の外で鳴いていた鳥が慌てて飛び去っていく。
「貴様、本気で俺がそんなことを望んでいるとでも思ったのか!」
 太い眉を吊り上げて声を荒げる比治山は、本気で怒っているようだった。沖野はそれに対して別に恐怖も無いが、そこそこ驚く。照れつつも欲しがってくれるんじゃないかと期待していた分もあって、不満げに眉を顰めて言い返す。
「だって君、元々はヘテロセクシャルじゃないか。君に我慢をさせるのは僕だって不本意だけど、浮気は絶対許せないし。ほら、良い折衷案だろ?」
 もう一度スカートをたくし上げようとすると、今度はがっしりと両手を抑えられた。比治山の顔は真っ赤だが、照れだけでなくまだ怒りは収まっていないらしい。
「た、確かに、これがお前の、好意だというのは解った。その……嘗て、この姿のお前に、一目惚れをしたのも、事実だ」
「うん、うん」
「だが――お、お前も言っただろう。俺とて、お前に我慢をさせるのは、不本意だ」
 漸く確りと合わさった目に、沖野も瞳を瞬かせる。ちょっと首を傾げて、成程、と口に出して言った。
「やれやれ、優しいな比治山君は。多少乱暴にされたって僕は構わないのに」
「だから、そういう破廉恥なことをすぐ口に出すな!」
「好きな癖に」
「ぐうう……!」
 言葉で勝てず、歯を噛み締める比治山をそろそろ許してやろうか、と思った矢先。
「第一だな……! お、俺は、お前に……その、だ、抱かれることに関して、不満は、ない……」
 先刻の自分が投げたもの以上の爆弾が返って来て、一瞬沖野は眩暈を味わった。限界まで顔を赤くした恋人にそんなことを言われたら、こうなるだろう。僕は悪くない、と己に言い訳をして、ぐいと背伸びをして――恋人の唇を塞いだ。
「おき、」
「……本当に? 嫌じゃない?」
「嫌なら、力で拒んでいる……! それぐらい解れ、馬鹿者!」
 どうも普段よりかなり素直な比治山だが、それだけ女性になった沖野というのが驚き且つ不本意だったらしい。自分のサービス精神が理解されなかったのはちょっと不満だが、ここまで正直に好意を隠さない彼は悪くない。
「うん。それじゃあ――抱いてあげるよ、目一杯。君の若い体も悪くない」
「だから、そういう事を言ぅ――んむぅ!」
 にやりとした笑みのままの唇で、もう一度彼の口を塞ぎ、教室の机の上に押し倒した。


×××



「沖野、沖野ッ……!」
「うん? 何だい?」
「ふ、服を脱いでくれ」
「ん――? 脱がしてくれ、じゃなく?」
 懐かしい学ランの前を寛げ、下着のシャツを捲り上げたあたりで静止が入った。勿論恍けただけで、理由は解っている。今の沖野はスカートを履いた足を思い切り広げて、比治山の腰に跨っている。白い太腿にちらちらと走る視線に、満足と不満が同時に湧く。我ながら面倒な性格だと思いつつ、おくびにも出さずからかいの笑いを作る。
「なんだ、やっぱりこっちの方が好きなんじゃないか」
「ちが、違う……! な、中が見えそうで、集中できん……!」
 慌てて目を逸らし、自分の腕で顔を覆いながら訴える比治山が可愛くて、遠慮なく体を倒して長い髪の下に露わになった耳に噛みつき舐ってやる。
「うぁ、あ!」
「目を逸らさないでよ。ちゃんと見て」
「ゃ、あ……ッだ! っく」
 必死に首を横に振られたので、お仕置きに胸板の頂点をきゅっと抓ってやると、面白い位腰が跳ねた。思いが通じ合ってから開発し続けた彼の体は、ちゃんとこちらにもフィードバックさせている。勿論沖野の趣味で。
「ふうん。そんな可愛くないことを言うんなら、もうちょっと虐めよう」
「な、何を」
 虐めると聞いて、一体何をされるのかと比治山の顔が僅かに蒼褪める。しかし瞳は潤んでおり、今までの経験を思い返して体が震えているのが解った。体の方が先に従順になる彼の事を良く知っている沖野は、満足げに笑みを浮かべて体をずり下げた。同時に、自分用のコンソールをこっそり出して、自分の肉体を再構成する。決してどぎつくない程度に増やして、形をしっかり。彼の好みなどお見通しなのだから。
「……ん、こんなものかな?」
「お、きの、何を……」
 セーラー服の胸元があからさまに盛り上がるのを比治山も見て取ったのだろう、すっかり顔が茹蛸のように赤くなっている。やっぱり好きなんじゃないか、とからかってやりたいところだが、ここで臍を曲げられるのも面倒なので、手早く用意していた潤滑油を襟から即席の胸の谷間に垂らし、すっかり硬くなっている比治山の熱を取り出した。
「ぅあ、沖野、待て、やめ――ぇ」
「待たない、っ」
「んぐうぅ!?」
 服の裾をたくし上げ、たぷりと柔らかい肉で、比治山の熱を包み込む。自身も経験は無いがきっと気持ちいいのだろうと信じて、絞り込むように自分の手で胸を挟み、捏ねる。びくびくと震える腰と、ローションだけでない水音に満足した。
「ぁ、ぅう、やだ、沖野、やぁ――」
「いや? 気持ち良くない?」
「いい、いい、けど、やだっ」
 大分舌っ足らずになっている。快楽に意識が負けかけている証拠だ。胸の間でどんどん成長していく熱の先端にちゅっと口付けると、面白いように腰が跳ねる。……これだけ立派なものを、使わせてあげないというのはやはり同じ男としてちょっと申し訳ないな、という気持ちはあるのだ。が、あんな可愛い事を言われては今回は引き下がるを得まい。胸はサービスだ。気に入ったら精神的なハードルが下がるのではないかという打算もある。
「ぅ、ぅう、もう、やめてくれ……」
 が、ついに比治山がぐずぐずと鼻を啜り始めたので、やれやれと熱を解放してやる。気持ち良くないわけがないだろうに、沖野の女の身体というものに興奮してしまう自分に罪悪感が湧いてしまうらしい。彼の律義さと融通の利かなさは嫌いでは無いし、ただ泣かせるのも不本意だ。
「性の不一致は破局の原因だしね」
「っ、ぁ……? はきょくは、いやだ」
「うん、ごめんね、大丈夫だよ」
 さりげなく自分の体を元に戻し、宥めるように涙の浮かんだ眦にキスしてやると、安心したように目を閉じられた。本当、何度も騙されたりからかわれたりするたびに憤るのに、沖野の言葉はすぐに信じてしまう。可愛くて、憎らしくて、放っておけない。
「比治山君の中に入りたいな……。いい?」
 我慢が出来なくなるのは自分の方だという自覚を持ちつつ、すっかりどろどろになった手で比治山の奥、会陰の先にある穴を緩く撫でてやる。また顔が限界まで赤くなるが、拒否は無く、小さく頷くだけの答えが返ってきた。ここまで彼を調教したのが自分だと思うと、罪悪感よりも優越感が先に立つ。――結局、彼の全てを手に入れたいだけなのだ、全部。
「ん、ぅう、ぐぅ――……ッ」
「歯、噛み締めちゃ駄目だよ。声出して」
「ぅう、んぁ! あっ、あ゛」
 必死に首を振って拒否するも、沖野の細い指が良いところに届くと、声が止まらなくなる。口よりよっぽど素直な体に我慢できず、沖野はすっかり硬くなった自分をスカートの下から取り出して、照準を合わせた。
「ぁ、あ――っあああッ! こ、んなァッ」
「ふふ、女の子に抱かれてる、みたいだね……ッ」
「それ、言うな、馬鹿ッああ! も、ンッ、ぅあァ!」
 快楽に逃げようとするのを許さず、瞼を開かせる。見た目は女性にしか見えない沖野の姿に、最後の矜持が崩れたのか、長い手足がしがみつくように抱き付いて来た。沖野としても否はないので、腰の動きを速める。現実と全く変わらない、興奮と快楽と、絶頂がやってくる。
「っひ、ぁう、も、おきの、おきのッ……!」
「うん、比治山くん、僕も、っく、ゥ……!」
「あ、アッ、あうう……!!」
 がくがくっ、と比治山の体が痙攣して、自分の胸に白濁を散らす。その淫靡さに我慢できず、沖野は自分で舌を伸ばしてそれを全部舐めとった。弛緩している筈なのに、ぴくぴくと反応するのが可愛らしい。  ……中々楽しかったし、次は比治山くんを女性化するのも有りかもしれない、という不穏なことを沖野が考えているのに気づいているのか、ほぼ意識を失っている筈の比治山には眉間の皺が刻まれたままだった。