時計+人形

のんべんだらりんごった煮サイト

年末のシークレットミーティング

一羽の鳥の話をしよう。
嘴は鋭く翼は大きく、遥か遠くを見通す瞳と強い足爪を持った鳥の。




「メリークリスマス、甲太郎ー!」
「クリスマスは6日前だ馬鹿野郎」
寒さも厳しくなっていた冬のある日、一羽の鳥が猫の塒にやって来た。
「今のは利子。丁度仕事中でメールも送れなかったしー」
「で、この年の暮れに今更ってわけか。―――まァ、上がれよ」
「うぃー、お邪魔しまーす」
鳥は頭や肩に積もった雪を身体を振って落とし、猫の家に入る。冷たい外気からきちんと暖房の効いた部屋の中に入り、ふはーと満足げに息を吐く。床に無造作に散らばった雑誌をひょいひょいと避けて、これだけはきちんと周りが片付けられている炬燵に我が物顔で潜り込んだ。
「掃除しろよ甲太郎ー」
「五月蝿い。来る一時間前に連絡した奴が偉そうに言うんじゃねぇ」
「ごめんって。時間取れるかどうかぎりぎりまで解んなかったからさ」
鳥の仕事は宝探しだ。その翼で世界の色々な場所へ飛んで行き、瞳で探り、嘴で敵を打ち倒し、足爪で掴み離さない。
「でも驚いたなー、甲太郎がここの用務員に収まるなんて」
猫は、この鳥が一度立ち寄った場所に、ずっと居た。彼が飛んできて、また飛んでいってからも、ずっとそこから動いていなかった。鋭い爪を隠し、いつもまどろみに身を任せながら、この地を守っていた。
「助平爺が急に止めて、人手が足りなくなったからな」
「あーそれね、境のおじいちゃんってハンターだったんだよ」
「? ………マジか?」
「マジ。道理であの時、任務完了報告してなかったのに次の仕事の依頼が来るわけだよー」
あはは、と笑いながら話す鳥に、笑い事かと猫が唇を歪める。そのせいで猫は、思っていたよりも早く鳥と離れなければならなかったのだから。
「何年経ってもお前の能天気は変わらないな」
「甲太郎こそ何年経っても突っ込みキツイですわぁ…何作ってんの?」
狭い部屋に据え付けられた台所に立っている猫の後ろから、ひょいと鳥は顔を出す。火にかけられていた巨大な鍋からは、食欲をそそる香辛料の香りが立ち上っている。
「決まってんだろ?」
「カレー!!」
肩越しに振り返り、にぃと笑って猫が問い返すと、心底嬉しそうに鳥の顔が輝いた。




――――鳥が猫と出会ったのは、もう何年も前の話になる。
猫と猫の仲間達が後生大事に守っていた宝物を、手に入れる為に鳥はやって来た。
彼らの首に繋がっていた鎖を全部その羽ばたきで吹き飛ばし、解放するのと引き換えにして。
それを手に入れた後、再び鳥は飛び去ってしまったのだけれど。
時間が出来れば必ず、鳥はこの地へやってくる。
もう鎖に繋がれてはいないのにここから離れない、面倒くさがり屋の猫の傍に降りてくる。




「んまー! 幸せー…」
「当然だ」
二人で炬燵に入り、食事をつつきながら取りとめの無い事を話す。鳥はとてもお喋りで、自分の仕事の体験や失敗談を話し、また猫に自分の友人達は何をしているのかと聞く。猫は気だるげにそれでも彼の問いに返事を返す。
「皆元気なんだねー。会いたいなぁ」
「…会いに行きゃ良いだろうが」
スプーンを翳して猫が何気なく促す。暗に、他の友人に会いに行けるほど時間があるのか、と問うている。鳥はんんん、と考える時の癖で唸りながら眉間に皺を寄せ、何かを指折り数えている。
「無理、かなー。どう頑張っても、明日の昼には出ないと」
「そうか…。次は何処だ?」
「結構近いよ、インド」
「近くねぇよ」
どうということも無いと言うように、次の別れの話をする。猫の心の中には、僅かな焦燥が浮かんだがそれをおくびにも出さない。
次はどれぐらいかかる、と問おうとした自分の言葉を喉の奥に飲み込む。これではまるで相手の訪問を待ち侘びているようではないか、と。…実際、待ち侘びずにはいられないのだけれど。
鳥は一所に留まる事が出来ない。彼はずっと飛び続けなければいけない。それは解っている。鳥が如何に強くて優しい者なのか、猫は経験をもってそれを知っている。
それでも、彼がいつかその翼を散らし地に落ちてしまうのではないかと不安に思っている。…決して、表に出す事はないのだけれど。
「むうう、残念…やっちーとかかまっちとかにも会いたかったんだけどなー」
「だったら、ここに寄らずに行っとけ」
「う?」
訝しげな声で顔を見つめられ、しまったと思い猫は目を逸らす。つい口をついて出てしまった言葉は取り返しがつかず、不機嫌そうに頭を掻く。
「なんで。折角この国に来たんだから、甲太郎のとこは外せないだろ」
そして、鳥からは何でもないことのようにそんな言葉を告げられて。
「…この、馬鹿」
自分の顔の赤さを知覚される前に、猫は鳥の口を自分の口で塞いだ。
「む!? ん、ちょ、ぅ、ん―――…っ」
咄嗟のことに反応出来なかった鳥を、炬燵を跨ぎ腕を回し完全に押さえつけて口付けを深くする。久しぶりに触れるその体からは、相変わらず僅かに硝煙の匂いがした。
「ぅ…ン、んっ、ぅ、ふ……」
じたばたと暴れていた鳥の身体が大人しくなる。思い切り口腔内を舐り、舌をちゅるっと吸い上げてから漸く離してやった。
「は、あー…何、いきなり何」
「ここまでして、解らないのか?」
「ぅえ、あ、や、やるのですか」
「嫌か?」
「んな、わけないけど、んっ」
自分を常に動揺させている相手の動揺する様を見るのは心地良い。そして慌てていても決して自分の誘いを拒否しない鳥に、猫は満足げに笑ってもう一度口付けた。
と、ちゃりんという僅かな硬い音に気付く。鳥の髪を一房ずつ纏めている瑠璃の管玉が、寝転んで広がる床の上でぶつかりあった音だった。
「邪魔だな」
「ぇあっ…?!」
考えるより先に猫は自然に動いた。3本ある管玉のうち1本をかちりと歯で銜え、そのまま髪から引き抜いた。ぱさりと纏まっていた髪が流れ、猫はそれを銜えたまま挑発的な笑みを浮かべる。
「ぅ…あ〜〜〜っ、甲太郎それ反則、エロ臭いっ、エロエロ星人ーッ」
ごしごしと髪が撫でていった耳たぶを指で擦りながら鳥は呻いた。
「遠慮するな、全部取ってやるよ」
「ああああいらないいらない! 自分で取るから〜ッ!!」
更に耳元で囁かれ、鳥の羞恥心の針が振り切れた。もどかしげに残りの髪飾りを外し、顔を見られたくないとでもいうように猫の首筋に両手を回して抱きついた。
それを確認してから、猫はゆうゆうとその身体を支え、続き間になっている寝室へ向かった。





万年床になっている布団に移動して、お互い服を脱いだ。
「いいか?」
「へぁ、うんっ」
何故か一生懸命ズボンを丁寧に畳んでいる鳥を猫が促す。その行動に疑問はあったが、今は目の前の体と行為が優先された。
「ど…どうぞっ」
一糸纏わぬ姿になった鳥が、顔を赤らめながらも床に背中を預ける。一度離れてから、会うたびにこうして身体を重ねているというのに、未だに鳥は慣れない。その事に心密かに喜びながら、猫は鳥の古傷だらけの体に唇を落とす。
「また、増えたか?」
「ん…そう、かな。わかんね」
肌に触れる熱に、鳥の身体は素直に反応を返す。初めて触れた時よりも多くなった傷跡に、猫は丁寧に舌を這わしていく。同時に、ほんの僅かな胸の隆起に手を伸ばし、全体を掴んで持ち上げるように刺激する。
「ぁ…」
鳥の喉の奥から掠れた悲鳴が漏れた。仰け反る身体を宥めるように首筋を舌で舐め上げ、更に胸を刺激してやる。
「ん…少し膨れたか?」
「うそ。気のせい、だっ、てっ」
「そいつはどうかな…」
「んぁ、やー…ッ」
掴み上げた肉を頬張るように、胸の突起ごと隆起を口に含んで吸い上げる。強い刺激に思わず拒否の声を上げるが、猫は聞かない振りをしてその場所を更に唾液でべとつかせた。
「…誰かに揉まれてないだろうな」
「ぅえ? えー…と」
「オイ」
不自然に目を逸らした鳥に、猫が驚きと苛立ちが丁度半分ずつの声を上げる。猫の機嫌の波が一段下がったことに気付いたのか、鳥は慌ててフォローする。
「ちがっ、揉まれてない! 揉まれそうになっただけー!」
「誰にだ!」
「ちゅ、中東の石油王さん…」
「…アイツか…」
まだ鳥がこの地に滞在していた頃から、彼の仕事のパトロンの一人であった男だ。顔写真だけなら猫も見たことがある。
「いっぺんだけ、会いに行ってさ。凄い歓迎受けたのは嬉しかったんだけど、引き止められて後宮入らないかって言われてー…断ったってば! そしたら押し倒されたけど、逃げましたからっ!!」
話しているうちにどんどん猫の目が据わっていって、鳥は必死に弁解を続けるが逆効果のようだった。
「…ちッ。解ってんだよ、んな事は」
苛立ちが猫の口をついて出た。
彼は―――この鳥は、誰のものにもならない。空を飛び続けなければいけない。自分の傍に戻ってくるのも只ひと時の休息を求めるだけ。その事実が猫を苛立たせる。
「甲太郎…?」
「…悪い。続き、するぞ」
「ぁ、うん」
訝しげに自分の名を呼ぶ鳥の声に我に返る。彼と住む世界が全く違う事など、充分すぎる程理解している。それでも湧き上がる苛立ちは、独占欲だ。それを抑え付けたくて、猫は目の前に晒された身体を貪った。
「ふぁ、あ…ッ、な、こうたろ、」
「何、だ?」
「俺、っさ…心の、底から、こいうこと、したいと思う、のって…っ、甲太郎、だけだからっ」
「―――――…ッ」
荒い息の下から言われた言葉に、心臓が震えた。
そう、彼が自分を欲しがってくれているという事実は紛れもない真実。
もし彼の翼を引き裂き、目を潰して嘴を砕き足爪を切り落とせば彼をここに留めることは出来る。きっと自分がそれをするのならば彼は抵抗しないだろうということも。
だからこそ、出来るわけがない。
彼の翼で起こした風に煽られて長いまどろみから覚めた自分には。
「そ、れにさ。この身体じゃ、物珍しがられてるだけだって…ッア!!」
困ったように笑う声が、不意に中心を掴まれて跳ね上がった。しかし猫はそのまま手を動かさず、僅かに揺らめく脇腹に刻まれた刺青をそっと撫でた。
夜の鳥、と書かれた只一文字。空を飛び続ける為に折角手に入れた宝すら手放さなければいけない彼が、唯一持つもの。
「―――鵺」
「ッ…!!」
その、名前を呼ぶと。
鳥は酷く驚いたように目を見開き、次の瞬間本当に幸せそうに、笑った。
「こうたろ、甲太郎ッ…!」
しがみついてくる身体をいなし、猫は鳥の一番感じる場所に手を伸ばす。既に持ち上がっていた男性の証を擦り、更に奥まった部分に指を伸ばす。
「ぁ、ァ、あ…ッ、や、同時、だめッ」
「イイんだろ?」
「やば、いってっ! すぐイくッ…!!」
花芯と花弁の奥底を同時に攻め立てられて、鳥は泣き声を上げた。首を振ってまだ終わりたくないと告げる鳥に、猫は彼相手でも滅多に見せることのない蕩けた笑みを浮かべる。与えられる刺激に耐えかねて目をきつく閉じていた鳥には、残念ながら見えなかったのだけれど。
「我慢しろ」
「ぃあ、無理、だってぇ! あィッ、や、あッァアア…!!」
中の一番感じるところを指で引っ掻かれ、鳥の中心は子種の入っていない液体を自分の腹に吐き出した。
「ちっ…もうかよ」
「は…ぁ、あ―――…ッ」
舌打ちをしながらも猫は、僅かに隆起した腹筋の上に飛び散ったそれを丁寧に舐めとる。絶頂に達した直後の緩い刺激に、鳥は痙攣しながらゆっくりと息を吐いた。
「もう、いけるか?」
「ぁッ…」
内部に指を差し込んだまま、猫は自分の象徴をその入り口に擦り付ける。感触でそれに気付き、意識を半分飛ばしていた鳥は目を開け、これ以上は無理だというほどに顔を赤くする。しかし同時に、体の中の粘膜がひくりと痙攣し、猫の指を締め付けた。
「…焦んなよ」
「ぅ…ぁ〜〜〜〜…」
引き込もうとするかのようなその動きに、猫はもう一度笑い、鳥は羞恥のあまり逃げ場所を求めて視線を彷徨わせる。それを逃がさないとでもいうように、猫は指を引き抜いて柔らかく開いた花弁の入り口に熱い塊を押し付ける。
「息吐け」
「ぅ、はぁ…ぁ、ッ! くあ、いっつ…!!!」
みしり、という音がして蹂躙者が入り込んできた。決して慣れたとは言えないそこは抵抗するが拒絶はせず、じりじりと飲み込んでいく。
「は、ぁー……ぁ。こうたろぉ…」
「動く、ぜ?」
「うんっ…ア! イんっ、くぅ…!」
震える身体を押さえ込み、突き上げる。無意識のうちに伸ばされた手指を絡め、離さない。
――――共に永遠になど、居られるわけがない。
――――だから今だけは、二人きりで繋がりたい。
「―――くっ!!」
「ふぁあっ!? んあ、や、これ、ヤだッ…!!」
組み敷き蹂躙する動きすらもどかしく、猫は鳥の身体を抱き上げて自分の膝に座らせる。寝ている時よりも数段深く押し込まれる感覚と、密着する身体に逃げ場所を完全に封じられたように錯覚し、鳥が首を横に何度も振るが、当然聞き入れられるわけもない。
「――お前も、動け…ッ」
「ン、ァ…! ぅ、無理、むりぃ…ッ」
下から突き上げられる衝撃に嬌声を上げながらも拒否を繰り返す鳥に舌打ちし、猫は自分が辛いのも堪えて腰の動きを止める。
「ぇ、あ? 何で…?」
急に刺激を止められて、戸惑いながらも鳥は、恐る恐る目尻に涙を引っ掛けたまま瞳を開ける。すぐ目の前に、普段の気だるさを微塵も感じさせない、真っ直ぐな情欲が篭った視線と目が合い、慌てて俯いてしまったけれど。
「動けよ。でないと、動かしてやらねぇ」
「…ッ! 鬼悪魔…!!」
「何とでも言え」
耳元で囁かれた言葉に悪態を吐くも、すかさず耳たぶを齧られて抵抗が出来なくなる。自分の内部に鎮座した熱の塊は全く動く様子は無い。内壁が焦れて、収縮しだす。その刺激に僅かに吐息を漏らしながらも、やはり猫は動かない。
無言の我慢比べは思ったよりすぐ決着がついた。鳥は恨みがましく猫を睨み、顔を見られたくないというように相手の首に両腕を回してしがみついた。
「…甲太郎の、エロ大魔神ッ…!」
捨て台詞を吐いて、ゆっくりと腰を持ち上げて―――降ろす。僅かな上下運動だったが、待ち侘びた刺激に漏れる悲鳴を鳥は必死に堪える。
「ぅ…ンッ、ァ…!」
それに答えるように、ゆるりと相手の腰も動いた。ぎごちなく寄り合わせるような動きは、しかし段々と合わさりリズミカルになる。
「ぁ、あ…ど、しよ、気持ちいッ…!!」
「ぁあ…良い、な」
高ぶり続ける欲を自分で抑えることが出来なくなり、鳥は必死に猫の身体にしがみつく。欲しいのはもう最後の解放しかない。がくがくと身体を揺さぶり、自らと相手を容赦なく追い詰めていく。
「こうたろ、こうらろぉ…っ、も、い、イ…ッ」
「――――つァっ…!!」
「ヒィあ! アッ、あ―――ァ…!!」
お互いの身体を絡ませ合って、絶頂の衝撃をどうにか堪えた。





薄い布団に突っ伏して脱力している鳥に毛布をかけてやり、猫は何気なく辺りを見回す。
あちらこちらに放り出されたお互いの着衣が散らばる中、唯一きちんと畳まれている鳥のズボンに手を伸ばす。
ずるりと引っ張り上げた瞬間、かつんと小さな金属音がして何かが転がり出た。
「…………ッ」
「ぅ…? ぇあ、ぎゃ、わったっ待ったー!!」
反射的にそれを拾い上げ、猫は瞠目する。音に気付いて身体をゆるゆると起こした鳥は、その光景を視界に入れて慌てて起き上がり取り返そうとする、が酷使された体は上手く動く事など出来ず、布団の上に倒れこんだ。
「お前、これは―――」
「やだー! 返せぇー!!」
「元は俺のだろうがっ」
「ぅうぅううぅ」
布団に突っ伏したまま、子供のように鳥は不満げに呻く。その頭を片手で抑えたまま、猫はまじまじと自分の掌の中のそれを見る。
僅かな明かりに鈍く光るそれは、嘗て二人が出会った頃猫がいつも銜えていた精神安定剤。最初の別れが訪れた時、鳥がだまし討ちのように持って行ってしまったものだった。
「…ごめん。勝手に、持ってって」
じたばたしていた鳥が不意に動きを止め、小さく呟く。それは確かに猫のもので、承諾を受けたわけでもなくて――――鳥がはじめて、自分がどうしても欲しくて奪った代物だった。
今まで、当たり前のように出会いと別れを繰り返していた鳥が、初めて忘れたくないと―――戻って来たいと思った場所。それの僅かな欠片をひとつだけ、持って行ったのだ。
俯いてしまった鳥を如何思ったのか、猫は軽く癖のついた頭を掻き、鳥の手を取る。
「う?」
訝しげな声に構わず、掌を広げさせてその上に、自分の持ち物であったアロマパイプを、落とした。
「今更何言ってやがる。…それはもう、お前のだ」
「っ………」
手の中の金属の冷たさが少しずつ失われていくのに反比例して、鳥の体温は上がっていく。知らず知らずの内に口元が緩み、寝転んだ状態のまま猫の腰にしがみつく。
「甲太郎ありがとう!! 愛してるー!!」
「…お前な」
昔から口癖のように言われてきた言葉だったが、今この状態で言われるのには大変拙い。何とか堪えようと、猫は必死に目を背けながら別の話題を探す。
「…使ってないのか、それ」
「え? パイプ? …無理っ、絶対使えねぇー!」
「何でだよ」
少しも使いこまれた様子が無かった為に問うただけなのだが、否定の激しさに驚いた後不機嫌になった。それに気付かず鳥はどんどん顔を赤くして、再び布団に突っ伏してもごもごと言い訳する。
「だ、からぁ…間接チューに、なるからっ
「――――――……」
これだけ身体を重ねておいて今更何を言うかと突っ込もうとした。しかしそれよりも先に体の方が先に反応してしまい―――猫は再び鳥の上に覆いかぶさった。
「ぅおあ!? はぇ、こうたろっ!?」
「五月蝿い、お前が悪い」
「何でどしてっ!? 俺何かスイッチ押しちゃいましたー!?」
「ああ、そうだ。責任とって貰おうか」
「うそーんん!!」
肩越しから無理矢理キスをされると鳥の力はじわじわと抜けていき、結局しっかりと抱き合ったままもう一度口付け合った。
また熱さに浮かされていく脳の片隅で、悦びと―――明日の飛行機に間に合う時間に起きられるだろうかという僅かな不安が蠢いたが。
絡んでくる舌が心地よくて、鳥はそれを全て意識の外に押しやってしまった。