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Red Line

『運命の人とは、小指と小指が赤い糸で繋がっているんだって』


自分の手をじっくり見る。右手、左手、親指から小指。目の前に突き出して、じっと見る。
「麻央? 何やってんだ?」
「あ、京一」
後ろのベッドに寝転がっていた京一が、自分の肩に頭を預けてきた。心地よい重みに、唇を綻ばせる。
「京一、『運命の赤い糸』って知っているか?」
「へっ? って言やぁ…あれだろ? 小指と小指が赤い糸で繋がってるってーヤツ」
「そう、それだ」
おどけて言う京一に、麻央は微笑んだ。
「この前、昔聞いた話を不意に思い出したんだ。どこにでもいる普通の男が、ある日突然、その『赤い糸』が見えるようになるという話を」
「はー…」
気の抜けた声を出す。いきなりそんなことを言われても、の心境だろう。半分御伽噺を聞くようなつもりで、麻央の声に耳を傾けた。
「その男は、その糸を辿っていくのだけれど、途中で同じように糸を辿っている女性と出会う。二人の糸が同じ方向に伸びているのに気がついて、いっしょに旅をするんだ」
「あ、その話のオチわかったぜ。実はその糸が遠くで繋がってて、お互いが運命の人だったって言うんだろ?」
得意げに言う京一に、しかし、軽く首を振る。
「男の糸は結局途中で切れていたんだ」
少し寂しそうに、そう言った。
「女の糸はまだ続いていて、そこで二人は分かれるんだけど……これから先の話を忘れてしまったんだ。最後がどうなったのか、全然覚えていない」
「へぇ……」
なんとなく、すっきりしない話である。
「それで…その男のことを少し考えてみた。どんな気持ちだったんだろうと」
膝を抱え、天井を見上げる。
「一体誰が糸の先にいるのだろうと考えていた時の期待と不安、そしてその糸が切れていた時の絶望……どんなに辛かったろうと、思う」
「…だから、」
お前は。底無しのお人よしは。
「だから、手を見てたのか?」
黙って頷く。
「見えなくて、良かったと思って」
「…なんでだよ」
「もしも、糸が切れていたら、いや…もし、糸の先に京一がいなかったら……」
「!」
何か。何か今とんでもない台詞を聞いたような気がする。
「俺は、悲しくて死んでしまうかもしれない」
声の端が、微妙に震えているのに気がついて、
後ろから抱きしめた。
「…京一?」
「この卑怯者……」
「えっ?」
あんな声で、あんな風に言われてしまったら。敗北確定だ。
おまけにそれを無意識でやるから始末に悪い。
「京一、何を……っ」
口付けた。
歯列をなぞって、軽く吸ってやると、微かに震えて唇が開く。
「ん……ふ…」
たっぷり味わってから離してやると、赤い顔をして息継ぎしている。
「…いつになく、弱気だな」
「…そうだな。そうかもしれない…」
貴方と会って、俺は弱くなった。
もう、離れることなんて考えられない。考えたくもない。