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懺悔

「よぉ、邪魔するぜ」
「これは…いらっしゃいませ」
彼は、良く礼拝堂を訪れる。
誰にも気付かれないように、夜遅くなってから。
彼の身を守り戦う為の武器である両手が、僅かに堂の机に擦れて不快な音を立てる。
「っと、悪ぃ」
「お気になさらず」
もう古くてぼろぼろですから―――とこの礼拝堂の主・御神鎚が笑うと、確かにな、とその擬手腕の持ち主・火邑も呵々と笑った。
どっかと御神鎚の座る机の隣の机に腰掛けて、火邑は何の躊躇いも無く、自分の腕の繋ぎ目を捩る。
がきっ、がちんがらん。
鈍い音がして、義手が床に落ちた。放り出されたそれに鉄錆と血脂が浮かんでいる事に気付き、御神鎚はほんの僅かだけ眉を顰めた。
「………怖ぇか?」
もう片方の鉤爪もあっさりと外し、何気なく、と言った風に目の前の神父に問い掛ける。ここに来るたびに、必ず発する問い。
だから、彼が返す答えも分かっている。
「いいえ」
彼はいつも、笑って首を振る。その仕種に、自分でも気付かないほど僅かに安堵の息を吐いた火邑は、何をするでもなくただ天井を見上げた。
御神鎚は知っている。火邑が、ある意味不似合いだと思われるここに来る理由を。
戦いが終った後、彼は必ずここへ来る。血と硝煙の臭いを纏ったまま。
不快な顔一つせず、御神鎚とこの空間が受け入れてくれることを知っているから。
後悔はない。ましてや、贖罪でもない。火邑は強い。戦いは彼を惑わす手段には到底なり得ない。その強さは、御神鎚にとって羨望でもあった。
それでも、彼は懺悔しにくる。言葉にならない懺悔を。
だから、御神鎚は立ち上がり、彼の前に立つ。
何も言わず、只そっと、その燃えるような髪の頭を自分の狭い肩に預けさせる。火邑は何も言わず、されるがままになる。
言葉等要らない。
ただ、お互い寄り添って、朝を待ち続ける。
悪夢を見ないように。