時計+人形

のんべんだらりんごった煮サイト

字書きさんへ100のお題

001:クレヨン

「ガキの頃は使ったけどな」
「似合わないな」
「テメェこそ」
「…使ったことが無い」
「あ?」
「……薄墨と筆で、水彩画なら」
「どんなガキだよ…」



002:階段

ぎし、ぎし、ぎし。
「………………………」
きし、きし、きし。
「………………………」
……し。…きぃ。…………きし。
「無理だと言っているだろう」
「ちっ…立て付け悪すぎなんだよ、ここァ」
「音が立てば曲者が来てもすぐ解るだろう?」
「仕方ねェ…夜這いは諦めるか」
「おい」



003:荒野

水が、足りない。
乾いて、ひび割れて、崩れ去っていく。
「―――――よォ」
雫が落ちた。
君が、訪れただけで。
「相変わらず湿っぽい店だな、ここはよ」
「そうかい? …さっきまで、乾いていたんだけど」
「あぁ?」



004:マルボロ

「悪くは無いが…後味がいまいちだな」
「如月、お前煙草吸ったっけ?」
「!!!」



005:釣りをするひと

水面に落ちた浮きから、ゆるりゆるりと輪が広がる。
静かな空気。
静かな水。
静かな時間。
決して、嫌いな訳ではないけれど。
―――――――びしっ。
「痛ッて」
「人の庭の池を釣堀代りにするな!」



006:ポラロイドカメラ

「取り扱えないわけじゃないが…どういう風の吹き回しだ?」
「いやな、普通のカメラじゃちょっと無理だろ」
「何がだ?」
「あ、待てよ。デジカメって手もあるか」
「だから、何をするんだ」
「ハメ撮り」
「刺して良いか?」



007:毀れた弓

切れてしまった弦をきりきりと引き絞り、念を込めて刀印で三度擦る。
ぴんと張り直し、軽く鳴らす。
清廉な音が、部屋に響く。
一つ息を吐いて、袱紗に仕舞った。
「………見ていて、楽しいか?」
「あァ」
真剣なその瞳と姿に、見蕩れた。



008:パチンコ

「そう言えば、やっているのを見たことはないな」
「しねェよ」
「そうなのか?」
「ありゃ賭博でも運試しでもねぇ。確率の計算なんだよ。ま、やりゃあ当たるんだろうがな」
「性に合わないのか、賭博師」
「あァ」



009:かみなり

ざあざあざあ。
がらがら、ぴしゃん。
「雷が田圃に落ちると、その年は豊作になるという謂れがあってな」
「ほォ」
「だから稲妻、という漢字が当てられたんだ」
「流石だな、年の功」
「同い年だろう」
「お前のメインは雷じゃなくて、この大雨だろうが」
「まぁ、ね」
天災も玄武にとっては、今宵の酒の肴。



010:トランキライザー

お互いが。
「依存だな」
「光栄だぜ」



011:柔らかい殻

「なんなんだ…さっき、から」
「ん?」
「っ…背中、ばかっり…ッ!」
「甲羅の割には、柔いよな」
「その口、塞げッ…!」



012:ガードレール

唐突に、視線を変えられた。
「お前を見下ろすのも、悪くないな」
そんな餓鬼臭いことをやられて。
そんな可愛いことを言うので。
白い柵から引き摺り下ろした。




013:深夜番組

「…面白いと思った事は無いんだが」
「ついつい見ちまうよなァ」
「時間の無駄だと思わないか?」
「誘ってンのか?」
「先に眠れ。永遠にな」



014:ビデオショップ

「こら、どこへ行く」
「何だよ、たまには潤いも必要だろ?」
「アダルトコーナーに直進するな、未成年が!」
「見咎められたこたァないぜ?」
「それは解るが」
「お前は何借りるんだよ」
「…………」
「……R○D SHA○OWだろ」
「(びくり)」




015:ニューロン

二十歳を過ぎたら死滅していくというのは、嘘だと思う。
「………普段だらしない癖に、何故こういうことは欠かさないんだアイツは…」
誕生日に必ず届く外つ国の葉書。
何年経っても、忘れる事は出来ず、毎日記憶が増えて行く。




016:シャム双生児

「ン…アッ! あ、もぉッ…!」
「ヤバい…そんな、締めんなッ」
「ん、クぅ、無理ッ…!」
「…救急車呼ぶ羽目になるぞ…」




017:√

掛けて整数。
「なる必要は、ないと思うが」
「なりたくもねェな」



018:ハーモニカ

ドー。レー。ミー。ファゥアー。
「……………」
ドー。レー。ミー。ファファー。
「……………ッ」
ドー。レー…。
「あのな。ソレで短音出すってのはスゲェ難しいと思うぞ?」
「っそうなのか?」



019:ナンバリング

「付けとけよ」
「漆の面にそのまま書けっていうのか?」
「…紙張るとかよ」
「糊がついたら木目が台無しになる」
「…タグかなんかで良いだろうが」
「紐は劣化してしまうし針金は表面を傷つける」
「……いつまで経っても整理できねェぞ、蔵」




020:合わせ鏡

浮かび続ける顔顔顔顔顔
「一人欲しいか?」
「全部寄越せよ」
本物だけで良い。



021:はさみ

小さいけれど鋭い刃
「小刀よりはマシだろう?」
「何で大人しく爪切り買わねェんだよ、お前は」



022:MD

「言っとくけどな」
「何だ?」
「そこ(レコードプレーヤー)に乗せたら一生聴けなくなるぞ」
「そうなのか!?」



023:パステルエナメル(象牙色)

「こんなモンの為に、大金かけるかねぇ」
「値打ち物だぞ?」
「象一頭に値するか?」
「――――いつになく、感傷的だな」
「ほっとけ」
「だけど―――、気持ちは解るよ」
「そうか」
「ああ」



024:ガムテープ

びー。
「ちょっと待て何を考えている!?」
「いや、たまにゃ緊縛プレイも」
「死ねッ!!」



025:のどあめ

こん、こん。
「苦しいか?」
「いや…大したことはない」
「昨日叫び過ぎたからなァ」
「黙れ元凶」
「悪かったって。ほれ」
「…南○喉飴…?」
「効くぜ?」
ぱく。ころころ。
「何で常備してるんだ」
「煙草(コイツ)やってるとどうしてもな」
「なるほど…」
ぱく。ころころころ。



026:The World

「守り続けるものであり、護ってみせるもの」
「俺の遊び道具」



027:電光掲示板

「お前も付けたらどうだ?」
「何がだ…」
「ちったァ辛気臭さが無くなって、客も増えるかも知れねェぞ? 良いじゃねぇか商売人」
「忍びが目立ってどうする!」



028:菜の花

「庭にこんなに咲いていたぞ。良かったら使ってくれ」
「あ、降ろすな!」
「えっ?」
「そのまま暫く持ってろ。下手に生けるより絵になる」
「………………」
真剣に言われて。
動けなくなってしまった。



029:デルタ

Δ
Δ
Δ
Δ
Δ。

「数学か?」
「…見れば解るだろうっ、帳簿だ!!」
「まぁ、最近は皆買い物なんざしねェからなァ?」
「くっ…食料類はロハにしてやろうか…(恨)」



030:通勤電車

千代田皇神から、北区の外れまで。
仕事は不規則、時間は不揃い。
「交通費出してくれよ」
「断る」



031:ベンディングマシーン

ちゃりんと硬貨。
がしゃんと缶飲料。
「味気ねェ」
お茶は座敷で飲むに限る。



032:鍵穴

「…こんなちゃちぃ鍵、プロだったら5秒で開けるぜ?」
「大丈夫だ。正しい鍵以外の物を入れると、罠が発動する」
「ほォ?」
「水流尖並の大水で、敷地外まで流す」
「…じゃ、これなら良いんだな?」
「あァ。無くすなよ?」
作るのも一苦労なんだからな、その合鍵。



033:白鷺

風に煽られて、華一文字が靡いた。
「………否、そんな優雅じゃないだろうアレは」
「なんの話だ?」



034:手を繋ぐ

「温かいな」
「冷てェな」
丁度良い。



035:髪の長い女

と言えば
「雛乃さんか?」
「芙蓉だな」
「「…………………」」
複雑。



036:きょうだい

「酒飲みでヘビースモーカーで不精髭で年齢不詳で賭博師な兄はいらないな」
「頑固で強情っぱりで爺むさくて渋チンで口と同時に手が出る弟はいらねェな」
「「……………………」」
似たもの同士。



037:スカート

「断る」
「頼む前から言うなよ」
「その手に持っているものを今すぐ燃やせ」
「勿体ねェなあ、高かったんだぜ?」
「自腹か!!」



038:地下鉄

「痴か(鳩尾に肘鉄)」
「寝ろ」



039:オムライス

「…どうだ?」
「不味くはねェ。つーか、寧ろ美味い」
「そうか」
「けどな?」
「うん?」
「昆布出汁入れるのはどうかと思うぞ…卵焼きじゃねんだから」



040:小指の爪

「7mm伸ばしてから切ると願いが叶う、んだとさ」
「…何でそんな無駄な知識を知ってるんだお前」
「御門のヤツ曰く、他愛無いまじないでも信じる者が増えれば呪いになるってな」



041:デリカテッセン(お惣菜屋)

(店先を指差し)「ここだろ」
「悪かったな!!!」



042:メモリーカード

「足りないだろう」
「足りねェなぁ」
好きなシーンのデータを全部取っておこうとするのなら。



043:遠浅

「裾が濡れるぞ」
「構うかよ」
太陽は同じもののはずなのに、この国で見るものはとても綺麗に見えた。
「悪くねェだろ?」
「…まぁ、な」
今は遠い遠い空の下。
二人で足を濡らして歩く。



044:バレンタイン

ことこと。
ことこと。
火鉢の上に金網乗せて、金網の上に鍋乗せて。
ことこと。
ことこと。
「…どうだ?」
「…ん、もういいだろ。美味いぜ」
「よし」
じっくり煮こんだ大納言。
今日のおやつは特大おはぎ。
「美味さに免じて、ズレ加減は突っ込まないでおいてやるぜ」
「? 今日何かあったか??」



045:年中無休


「たまにゃ休めよ」
「そうはいかない」
「一日布団の中で過ごすのも悪かねェだろ?」
「不健康の上不経済だ」



046:名前

「翡翠」
誇り高き名前のはずだけれど。
「ひすい」
君に呼ばれると、熱さに変わる。



047:ジャックナイフ

「…いい加減売りに来るの止めてくれないか…」
「仕方ねェだろ。誰も使わねェし」



048:熱帯魚

「綺麗だけど、飼うのが大変じゃないか?」
「だからお前ンとこに持ってきたんだよ」
「…仕方無いな。一体何で買う気になったんだ?」
「………………………」
美しい姿を曝して、水槽の中とも気付かずに泳いでいる姿が重なって。
助けたかったなんて、とても言えやしなかった。



049:竜の牙

金色に輝く星の元、四色の星は集い。
「いつかは――――、飲みこまれるものと。そう思っていたんだ」
「…もう、大丈夫だろう?」
「ん…」
連れて行かれないように。
両の腕に閉じ込めた。



050:葡萄の葉

「パンツの代りか?」
「それは無花果の葉だ」



051:携帯電話

「…不覚だ」
受け止めるだけなのは、もう嫌なのに。
未だにメール一つ返せない。



052:真昼の月

「消えそうだ」
時々。とても儚い顔をするから。
「消えんなよ」
繋ぎ止めたくて、唇を塞ぐ。



053:壊れた時計

かり。かり。かり。かり。
ぎり。ぎり。ぎ。ぎり。
ち。ち。 ち。  ち。ち。ち。ちち。
「……翡翠」
「五月蝿い。今、話し掛けるな」
確かに。真剣に修理している様は、見ていて楽しいものではあるが。
こうも無視されると詰まらない。
不協和音なんて放っておけよ。



054:子馬

「………似てるな」
「何、にだ?」
「こう、震えてるとことかな、産まれたての馬に」
「んっく…! 馬鹿、ッ…!」



055:砂礫王国

うっとりと見つめる視線の先は、自分ではなく古びたブラウン管。
その向こう側に広がるのは、ロマンと言う名の建造物が山ほどの砂漠の国。
「やはり一度は、足を運んでみたいな」
「……連れてってやるか?」
「いいのか?」
好奇心旺盛のトレジャーハンターには、溜息しか出ないけれど。
自分の馬鹿げた誘いを邪険にせずに、嬉しそうに乗ってくれたのは初めてなので、まぁ良しとしてやろう。




056:踏切

かんかん。
かんかん。
「別れを、連想する」
かんかん。
かんかん。
降りていく遮断機。
それを無理矢理、彼は押しのけた。
「お前も、来るんだよ」
もう既に降り切っていた黄色と黒の境界線を、手を繋いで掻い潜った。



057:熱海

「日頃の慰安も兼ねて、行きたいな」
「新婚旅行か」
「そこ、口を塞げ」
「あァ、悪ィ。熟年旅行か」
「黙れ」
「個室に風呂がついてるとこな」
「慰安にならないじゃないか!!」



058:風切羽

飛ぶために必要なもの=君。



059:グランドキャニオン

相変わらずうっとりとした眼で魅入る画面には、赤土で形成された大渓谷。
「…行きてェのか?」
「あの中に歴史が詰まっていると思うとな」
「化石でも売るつもりか?」

過去を愛す君/現在を愛す僕

「…嫉妬かよ」
「ん? 何か言ったか?」
「いいや」



060:轍

何度も何度も通り抜けられてつけられた跡は消えずにずっと僕の中に残る



061:飛行機雲

「追いかけたことがあるんだ」
唐突に彼はそう言った。
「どこかへ、連れていって貰えるような気がして」
押え込んでいたはずの願いを。
「――――走るか」
え? という顔をした彼の手を取って、
白い軌跡を残して走り出した。



062:オレンジ色の猫

我が家の一人娘である白猫を抱いて、縁側で無遠慮に昼寝をする客人。
夕日に当たって、綺麗に見えた。



063:でんせん

壬生に、喋り方が似てきた、と言われた。
不本意だ。



064:洗濯物日和

上着・下着・寝間着・制服・手拭・敷布・何でもござれ
「…何着てりゃいいんだよ?」
「乾くまで我慢しろ」
「じゃ、その間暖め合っとくか」



065:冬の雀

雪の庭に足跡。
米を蒔くと、白い中に紛れて見えなくなってしまうのに、ちゃんと拾って食べてゆく。
「…上手いな」
見つけて欲しくて、電話をかけた。



066:666

「縁起悪ィな」
「生憎、基督教に興味は無いよ」
「66、だけだったらまだ良い意味なのにな」
「? 何故だ?」
「後背位」
「帰れ」



067:コインロッカー

使わない。
「たかが300円でこの品が守れると思うか!」
「だったら一旦家帰れ。買い物の邪魔だろうが」



068:蝉の死骸

何て長い時を生きてきて
輝き終えたら逝く定め
握り潰せばからからに砕けてしまう
「昔の僕だ」



069:片足

もう片方は、お前に任せた。



070:ベネチアングラス

「悪くはないが、僕はこの手のものの目利きは苦手だ」
「別にいいじゃねェか。綺麗なら綺麗、でよ」
「全くお前は―――――」
言いかけて止めた。
きっとお前みたいのばかりなら、僕の商売はあがったりなんだけど。
そうすれば、芸術に値段をつけるなんて馬鹿げたことは終わるんだろうと思って。



071:誘蛾灯

引き寄せられて虜にされる。
「責任取れよ」
「僕のせいか!?」



072:喫水線(船が水に浸かっている深度を示す線)

「この辺だ」
そう言って自分の額のあたりに手を翳す
「何がだ?」
「この辺まで浸かってやがる」
お前に。と言われたので、一発殴ってやった。



073:煙

燻らされる。
深く吸いこまれ吐き出される。
「翡翠?」
「ん――――んッ!」
たまに口に吹き込まれる。



074:合法ドラッグ

「神水・霊水の類はこれじゃねぇか?」
「………月草もな」



075:ひとでなしの恋

岩戸の前で何をするでもなく、ただ言葉をかけ続け
「さっさと来いよ。置いてっちまうぜ」
おずおずと差し出された手を無理矢理引っ張った。



076:影法師

長く細く伸びる夕方。
「……オイ、さっきから何ヘソ曲げてんだ」
「別に…」
それでも、8cmの差は健在。



077:欠けた左手

君。



078:鬼ごっこ

赤字解消に魂を燃やす店主は、どんどん洞窟の奥へ入っていってしまう。
「これじゃ、鬼ごっこじゃなくかくれんぼだろ」
見つけたら負けかもしれない



079:INSOMNIA


我ながら馬鹿だと思ったけれど。
眠りたくて電話をかけた。
「寂しいのか? だったら今から行ってやる」
ますます眠くなくなった。
どうしてくれる。



080:ベルリンの壁

あれだけの堅牢な壁が、砕かれてゆく様を見つめても。
あの頃の僕は、希望など持てなかった。
そんな僕の壁を砕いたのは君。



081:ハイヒール

「いい加減にしろ」
「絶対似合うと思うぜ」
「尚更御免だ!」



082:プラスチック爆弾

「知識さえあれば誰にでも作れる代物だ」
「おかげで最近馬鹿が増えてンだな」
「それを使った後、自分がどうなるのか知りもせずにね」
力を持つ覚悟。覚悟を持つ力。



083:雨垂れ

軒下から落ちる雫に、戯れに手を差し出す。
「音が好きなんだ」
弾けた粒が、髪に飛んだ様が真珠に見えた。



084:鼻緒

「っつ―――」
「どうした?」
「卸立てだったからな…油断した」
「あー…そこァ痛ェよな…どれ貸せ」
べろ。
「っ!!!!! こ、の、馬鹿者―――ッ!!」
「消毒してやったんじゃねェか」
「却って腐るっ!」



085:コンビニおにぎり

真中を裂いて、両側から引っ張――――
ばりっ。
「ちっ」
「下手だな。どれ、貸してみろ――――」
び。べりっ。
「「………………………」」
「…巻き直せば、食えねェこたねェが…」
「…大人しく、自分で作ろう。その方が楽だ」



086:肩越し

天井の板目と豆球の明かり。



087:コヨーテ

「似ているな」
「何にだ?」
「あまり群れず、狼とも犬とも交配できる節操なし」
「だから、何だよそれ」
だけど誇り高い。



088:髪結の亭主

自分の警戒心が薄れてしまったことに腹さえ立つ。
「祇孔ッ!! この痴れ者がーッ!!」
「良いじゃねェか、似合ってンぜ」
「尚悪い―――ッ!!」
うっかり転寝した隙に、売り物の簪を使われた。



089:マニキュア

「よっし、動くなよ?」
「…何でそんなに乗り気なんだ、お前」



090:イトーヨーカドー

「珍しくはしゃいでると思ったら、これが理由か」
「誰がはしゃいでるんだ、誰が」
「ほれ、開いたぞ」
「! 行くぞ祇孔っ!」
「へいへい」
『皆様、お早う御座います。本日は、ご来店頂き、真に有難う御座います。
本日、8F大催事場にて、全国の骨董品展が開催されております―――』



091:サイレン

昼時を告げるけたたましい音。
「やっぱこの辺って時代少しずれてねェか?」
「おい、それは本気で失礼だぞ」



092:マヨヒガ

「俺は絶対に囚われねェな」
「山海の美味と財宝と美女がお待ちかねでもか?」
「あァ」
「まぁ、お前だったら退屈で仕方なくなって出てくるか」
「お前一人残してのうのうと暮らせるかよ」
「――――――…」
幸せにはあと一つ足りないから。



093:Stand by me

この手が血に塗れた時。
もどかしい鎖に囚われた時。
どうしようもなく寂しい時。
会いたくなった、時。



094:釦

畳の隙間に一個落ちていたのを、掃除の時見つけた。
「―――――――――――っ」
それが弾けて転がっていった時のことを思い出してしまった。
今度会ったら一発殴ってやる。



095:ビートルズ

「…有名なのか?」
「お前、世界中のファンを敵に回すぞ」
「仕方ないだろう、知らないんだから!」



096:溺れる魚

息が出来ないからキスを交わそう。



097:アスファルト

雨粒が、唐突に降り落ちてきて。
どんどん黒く染まっていく道を見て。
雨の中を、何も言わずに駆け出した。
早く会って抱きしめてやらなければと思ったから。



098:墓碑銘

「興味ねェ」
「だろうと思った」
だから、家の墓に入れてやる。



099:ラッカー

「煙草は禁止だぞ」
「解ってるって」
子供みたいに落書きしながら、使い古された家具に色を塗った。
自分の家に鮮やかな色がまた一つ増えた。



100:貴方というひと

「賭博師」
「骨董屋」

「だらしない」
「頑固者」

「卑怯」
「一本気」

「ふざけ過ぎ」
「生真面目」

「助平親父」
「禁欲的。そこがそそる」

「年齢不詳」
「爺むさい」

「炎」
「水」

「白」
「緑」


「「自分とは違う」」


「「愛しい」」


「「出来ることなら」」




「「永遠に、共に」」