時計+人形

のんべんだらりんごった煮サイト

Red Line

「何でぇ、裁縫か?」
如月骨董品店の昼下がり、何やら箱と着物を奥から出してきて、店主が始めたものは。
「あぁ、少し裾が解れていてね」
「壬生にやらせりゃいいだろうが。あいつ得意だろ」
葛飾区で、くしゃみが一つ。
「お前は…知人をそんな風に使うことしか脳がないのか」
話しながらも、如月の手は止まらない。手際良く、解れを直していく。
なんとなく手持ち無沙汰に、裁縫箱の中をのぞく。中に入っているのは、色とりどりの待ち針と糸。
ふと、悪戯心が沸いた。
「翡翠」
「うん?」
顔を上げずに返事が返る。
「手ぇ出せ」
「ん…」
糸が止まった時を狙って、声をかける。思ったとおり、反射的に手を伸ばしてきた。
きゅっ、と妙な感触が小指に来た。
「?………!?」
ばっ! と左手を手元に戻す。くいっと引っ張られる感覚。
「おい、強く引くな。切れちまうだろ」
「…っお前は〜〜っっ!」
自分の小指の先にあるのは、何時の間にか何重にも巻かれていた赤い糸。それの繋がった先は、相手の筋張った指と……にやにやと笑みを浮かべる顔。
「何を遊んでいるんだっ!」
「いや、暇でつい、な」
「つい、で済ますなっ! さっさと解け!」
「解くのか? 勿体無ぇ」
「当たり前だ!」
しかしご丁寧に何重にも巻かれて玉結びされた糸はそう簡単に解けるものじゃない。ここまでされるまで気がつかないとは…一生の不覚。
解け、解かないとじゃれているうちに、変に引っ張られてしまったのか、丁度張っていた真ん中の辺りから、
ぷつん。
『あ』
切れてしまった。
図らずも同時に声をあげてしまい、慌てて口を塞ぐがもう遅い。
と、ぽすん、と村雨の頭が自分の肩に落ちてきた。
「…くっ……」
耳元で、小さく空気の震える音がする。それは段々と大きくなって、はっきり耳に届いた。
「くくくくっ……」
「………っ!」
かぁっ、と一気に顔に朱が走る。
「笑うなっ!」
「くくっ…悪ぃ悪ぃ。そうか、そんなに残念だったか?」
「違う!」
何を言っても無駄だとわかっているが、抵抗せずにいられない。
自分のペースだけ崩されて、相手のペースに巻き込まれるのがなんとも悔しい。
まだ笑いを噛み殺している不敵な口元が憎らしくて、
「………っ」
噛み付くように口付けた。
自分から舌を差し入れると、一瞬驚いたようだった唇がすぐに答えを返してくれた。
絡ませて、吸い合って、ようやく離す。
「…どういう風の吹き回しだ?」
「うるさい」
仏頂面で答えると、ふ、と笑ってもう一度口付けられた。
何度も、何度もキスをする。まるで呼吸と同じように。
肩から、着ていた着物をすべり落とされる。外気が肌に触れて、身体を竦ませた。
肩口にも口付けを落とされて、その部分が熱く火照る。
指がゆっくりと、自分の身体を這い回って、鳥肌が立つ。嫌悪でなく、快感のせいで。
「…っ、ん……」
帯だけ残して、着物を払われた。
つ、と村雨の身体が下がり、視界から消える。何を、と思ったとき、足の指先に唇が押し当てられた。
「! っあ!」
普段触れられないところに触れられて、身体と声が跳ね上がった。そのまま、舌が膝を通って腿まで上がってくる。
「っひ…あ……やめ…ぇっ」
中心まで来ると、焦らす様に周りだけ弄る。腿に軽く爪を立てられて、もどかしい感触に首を振った。
「や…祇孔、もうっ……!」
駄々をこねるように、癖のある髪に指を絡ませてやると、待ちかねていたところに口付けられた。
「は、あっ! んう…ああぁっ!」
刺激に腰が持ち上がると、そこを支えられてもっと突き出すようにされる。羞恥心が一瞬蘇るが、すぐに快感に押し流された。
「あ…しこう、も…っあぅ……」
開放を押し留められ、続きを促す如月に、優しく口付けた。
ふと手を離し、指に残っていた糸を解き、自分と相手の手首にぐるぐると巻きつけた。
もう二度と切れないようにと。それに安心して、如月も口付けを返す。
「ん…はぁああっ!」
奥底に与えられた衝撃に、如月は唇を外し喘いだ。そのまま、擦り上げられると絶頂はすぐに来た。
開放され、意識が落ちる瞬間にも、繋がれた手をずっと握っていた。
離れたくないと、言うように。