時計+人形

のんべんだらりんごった煮サイト

歌を掲げよ、剣を紡げ

「……一人で大丈夫?」
「大丈夫ですとも。人通りが少ないなら全然問題なしなんだから」
 胡乱げな、しかしその中に隠しきれない心配を含んだ妹の声を聴いて、安綱は苦笑するしかない。
 既に午後の授業は終了している。もうかなり人通りの少なくなった一年生の廊下で、菫子に先に帰っていてくれと告げた。当然、昼休みに逃げられた「ミモリさん」を捕まえる為である。
「すーこが入学してくるまでは一人で帰ってたんだから。平気平気」
「でも」
 どうにも兄に対して責任感の強い妹は、尚も言い募ろうとしたようだが、それは彼女の後ろから駆け寄ってきた足音と、がばりと抱きついた衝撃音に止められた。
「っ! 四方谷!?」
「はーい、よもちゃんでっす。お兄様の言うとおり、たまには私に付き合いなさいよう!」
「こんにちは、四方谷さん」
 聞き覚えのある明るい声に、安綱は顔を綻ばせる。中学の頃から菫子と親しくしている、四方谷亜衣(よもや あい)だ。良く家にも遊びに来るので、安綱ともそれなりに親交がある。
 兄の面倒を見ているせいで、友人との時間が作れないのではないかと懸念している安綱にとって、こうやって多少強引にでも妹を誘ってくれる亜衣の存在は有り難かった。
「こんちはー、お兄様。すーこの事は私におまかせあれ! さー今日という今日は、買い物付き合ってもらうかんね!」
「ああもう、解ったから抱きつくな……!」
「うん、よろしくー。すーこ、また後でね」
「解った……」
 脱力したような、それでも安堵したような妹の声に笑ってやり、踵を返す。なんだかんだ言って、妹があの騒がしい友人を気に入っていることを安綱は知っている。本気で嫌なら、邪険にするのに容赦が無いのがうちの妹だ。
 のんびりと、だが慎重に階段を上る。ミモリさんがまだ残っているかは解らないが、昨日と同じ時間ぐらいまで残れば、あの奇妙な体験がもう一度できるのではないかという予感と期待があったからだ。
 階段を登り切り、廊下に出たところで、違和感にすぐ気づいた。今まであちこちから聞こえていた生徒たちの喧騒が、ぴたりと止んでいる。
 やっぱり、と心の中だけで思う。耳を澄ませるときに自分の声は邪魔だ。足音も出来るだけ抑えながら、ゆっくりと廊下を歩く。
 昨日の歌声は――聞こえない。でも、そのうち聞こえるかもしれない。これ以上は無理というぐらい神経を逆立たせて、安綱はひたすら耳に集中する。
 そして、聞こえたのは。
 きしきし、と針金が軋むような、不快な音。ほんの僅かな音だったが、確かに聞こえた。
「!」
 昨日の暗闇の中に居た、針金の蜥蜴を思い出す。あの化け物が動くたびに、同じような音が聞こえていたはず。
 思わず、安綱は周りを「見渡した」。当然、白い靄のかかった己の視界には何も映らないが、どこかにあの扉があるのではないかと。一歩足を進め、そしてその足裏の感触に違和感を覚えた、瞬間。
 ばくん! と、床に張り付いていた扉が押し開かれた。
「うえっ!!?」
 完全に不意打ちを食らった安綱は、己の踏んだ扉が闇に向けての口を開いている様を「見た」のを最後に――落ちた。




 その音は、錫の耳にも当然届いていた。
 人が他者を憎んだり、羨んだり、恐れたり、そういった負の感情を言葉にして吐き出すと、「音の世界」には僅かな軋みが起きる。それは消えることなく少しずつ降り積もり、いずれ凝り固まって人に仇為すものになる。形を得た雑音は、少しずつこちらの世界を侵食し――人を音の世界の方へ引きずり込む。彼らが力をつける為に一番いい方法は、人間の負の感情を音として溢れさせることなのだから。
 人を餌とし、膨れ上がる雑音は、いずれ音の世界の壁を壊し、物質を害するものとして生まれ出でてしまう。
 そうなる前に、雑音を清め祓うのが、調律師の役目。それは解っているのに、ちゃんと聞こえているのに――錫は自分の椅子から立つことが出来なかった。
 今日の昼に下の兄から責められた恐怖が、彼女の体を縛っている。上の兄に冷たい目で睨まれたまま詰られるのも、下の兄に苛烈な悪罵で罵られるのも、どちらも嫌だ。ぎゅっと己の体を抱きしめて、机に頬をくっつけて蹲る。
 少なくとも、白銀は今任せられている己のお役目を終え、こちらに向かってきている筈だ。兄の優秀さは良く知っている、もう分身だけ飛ばして精査も開始しているだろう。自分に出来ることなど、何もない。下手に動いても足手まといだし、邪魔だと怒鳴られるだけだ。
 だったら、このまま、聞かないふりをすればいい。両手で耳をぎゅっと覆い、錫は更に目まで閉じた。
 世界を何とか水際で拒絶するしか、彼女は己を護る術を知らなかったのだ。
 だが。
『……うえっ!!?』
「っ!!」
 廊下から聞こえる、どこか間抜けな悲鳴。そして、扉が開き、閉まる音。
 反射的に錫は立ち上がり、慌てて教室から廊下に出る。其処には誰もおらず、ただ不快な雑音が残っているだけ。
「……今の、声」
 昨日出会った、おかしな少年。モグリの調律師。近づくなと言われ、調べろと言われ、一体何者なのか錫には全く見当がつかない。
 上の兄の言葉に従うのなら、関わってはならない。下の兄の言葉に従うのなら、逃してはならない。
 否、確かにそうなのだけど、それよりも――
 昨日ほんの僅かだけだったけれど、顔を合わせた――どんな形であろうと、自分の危機を救ってくれた相手を――このままでは、見殺しにしてしまうのではないかという、事実が。
「っ……浅き夢に揺蕩い、我は此処に――」
 口をついて出た、扉を開く歌に、錫自身が驚く。こんなことをしてはいけない、両方の兄の逆鱗に触れることであると解っているのに、歌が止まらない。
「――堕ちよ、されど、沈まぬ――!!」
 廊下を駆ける。目の前に喚び出された扉に、ほとんど体当たりのように、飛び込んだ。




 落ちたのは二回目だから、驚いた後立て直すのはそう難しくなかった。
 他人より感覚器が少ない分、その辺の冷静さは失ってはいけない、と安綱は常に自分に言い聞かせている。大きく息を吸って、上ずりそうになる声を抑えながら言う。
「……床! 地面!」
 口から飛び出した光る糸が、するすると零れ落ち、爪先に足場を作ってくれる。ちゃんと「立つ」ことが出来て、人心地。
「ふぅ。……おーい! ミモリさーん!!」
 暗闇を見渡して、安綱は叫ぶ。この奇妙な空間を作っている人こそが、先日の少女であると安綱は思っている。この場所が、自分たちの過ごす世界の裏側に常に存在していることなど知る由もないし、其処が大変危険であることもいまいち解っていなかった。
 だから、自分の声を聴いた「それ」が、ぎちぎちと音を立てて近づいてきた時、一瞬反応が遅れた。振り向いたときには、遅かった。
「――っ、わ!?」
 ぶわりと広がり、体に絡みついてきたのは、先刻自分が吐いたものと同じような糸だった。それはあっという間に腕や足を拘束し、体の自由を奪う。何事か、と思う間もなく、それを吐いたものの正体を、安綱はその目で見た。見てしまった。
「っ……」
 背筋に洒落にならない悪寒が走り、悲鳴を上げることすら出来なかった。先日の蜥蜴なら、恐怖よりも先に驚きと好奇心が勝るぐらいには、安綱の肝も据わっている。だが、目の前のものは蜥蜴よりもずっと巨大で、さらにずっと悍ましかった。
 針金を無理やり絡み合わせたような太い足が、全部で八本。全てが繋がる胴体の上に乗った頭には、闇を固めたように黒い八つの眼。
 元の世界に居れば教室いっぱいに足を広げられるぐらいの巨大な大蜘蛛が、そこには鎮座していた。
「っ――ぎゃああああああ!!」
 堪らず、安綱は悲鳴を上げた。元々、触れた時の何とも言えぬ気持ち悪さから、足の多い虫は大の苦手なのだ。それを感触だけでなく、生まれて初めて視界に入れてしまい、全身に鳥肌が立った。
 悲鳴は糸ではなく、ばらばらと弾けるような結晶になり、辺りに散る。すると蜘蛛の大顎がぎちぎちと鳴り、その欠片をばくりと口から飲み込んだ。
「っううう……!」
 恐怖と生理的嫌悪を堪えて、安綱は必死に悲鳴を噤む。自分の声が蜘蛛の餌になってしまったことを、直感的に理解したのだ。逃げようと体を捩っても、糸の拘束は全く緩まない。
 助けて、という悲鳴が口から出そうになるのを、唇を噛んで堪える。本格的にこの蜘蛛に餌と認識されるのはごめんだし、――簡単に助けを求める癖をつけてはいけないと、いつも己に言い聞かせているから。
 自分の存在が、常に他者に迷惑をかけなければ、生きていけないと解っているからこそ。他の誰が否定してくれても、安綱自身がそう思っているからこそ。
 恐怖を必死に喉の奥で留める安綱の葛藤に気づく様子など無く、蜘蛛の牙がじりじりと安綱の首へ近づく。まるで歓喜を表すかのように、その口からぎちぎちと耳障りな音が漏れ、大きく広がり――
 ばんっ!! と扉が開く音。それに気づいた安綱がはっと顔を上げると、
「――獲ったっ!!」
 巨大な剣を構えたまま、空から飛び降りてくる少女の姿を見ることが出来た。
 彼女の構えているものは、昨日見たものとは比べ物にならないほど歪んで見えた。まるで木の枝のように捻じれて曲がり、どこに刃がついているかもいまいちよく解らない。しかもあちらこちらに棘が生えていて、刀というより棍棒に見えてしまう。
 己の背丈ぐらいもあるその巨大な武器を、少女は軽々と両手で振り――蜘蛛の背に飛び乗ったと同時に、思い切り斬りつけた。
「ギギギギアァアアアアアアアアアアア!!!」
「っ……あ……!!」
 その瞬間、蜘蛛の口から苦鳴が迸り、世界を満たした。
 安綱は腕を封じられていたので耳を塞ぐことも出来ず――鼓膜が痺れ、きいんと耳鳴りが響く。不快かつ大きな音により、一時的に耳が聞こえない状態になってしまったのだ。
 普段殆どすべての外的情報を音で得ている安綱にとって、これは耐え切れない恐怖だった。しかも目の前には恐ろしい化け物がいると解っているのだから。一般の人が突然目を晦ませられたのと同じで、安綱にとってはたとえ目が見えていても、視覚情報というものを上手く消化出来ない。
「う、わ、あ、ぁ」
 がくがくと震え、尻餅をつく。逃げようと思っても、手足は動かない。
 安綱は完全に恐慌状態に陥ってしまった。


 そんな彼の様子に気づかず、錫は安綱の傍に駆けより、まずは彼を拘束する糸を巨大な剣で乱暴に払った。
「だ、大丈夫か!」
 怯えて竦みながら、まるで助けを求めるように両手を辺りに彷徨わせている安綱に気づき、錫はその手を掴む。
「っひ!!」
 しかし、すっかり怯えてしまっている安綱にとっては、手から感じる刺激に対しても咄嗟に恐怖を感じてしまったのだろう。乱暴にその手を振りほどき、尻餅をついたまま二、三歩後退る。
「――すまない」
 そんな安綱の姿を見て、錫は心底辛そうに眉を顰めた。
 自分が埒もない自問自答を繰り返し役目を怠ったせいで、危うく犠牲を出すところだった。目の前にいる彼は、どう見ても唐突な災難に襲われた被害者にしか見えない。それを止めるのが己の役目の筈だったのにと、自責から唇を噛んだ。
 俯いたまま震えている安綱の傍にしゃがみこみ、すっかり縮こまっている彼の手を、一瞬迷い――それでもぎゅっともう一度、上から握りしめた。また引かれそうになる手を抑えて、彼の耳元で叫ぶ。
「う、ぁ、」
「も、もう、大丈夫だから!」
「ぇ……」
「大丈夫だから! 私が、助けるから!」
 漸く耳の機能が戻ってきた安綱に、錫の声はちゃんと届いた。吃りながら、掠れた声で、それでも口から出たのは安綱を安心させる為の言葉。その声と、手から伝わる温もりと、何より目の前でまっすぐ己の顔を見つめてくる色の薄い瞳。それが合わさって、安綱の尖っていた心を撫でて納めてくれた。
 そして少女は立ち上がり、巨大な剣を構え直す。もうその切っ先に、迷いは無い。
「――参る!」
 裂帛の気合いと共に、錫は己の剣を蜘蛛に向かって振りかざした。




 がちん! と剣と牙がぶつかる度に、火花が散る。
 最初の不意打ちこそ錫が決めたが、地面に降り立ってからは防戦一方だった。
 何せ相手が巨大すぎる。力任せに振り下ろしてくる牙や足と、剣一本で張り合うにはあまりにも無謀だ。
 更に、何もできずに打ち合いを見守っていた安綱にも解ったことだが――錫の剣に、だんだんと細かい皹が入り始めていた。
 元々、錫の作り出せる剣はそこまで上質なものではない。歌によって編み上げられた剣は、その奏者の思いの強さによって形や硬度を変える。今握りしめている不格好な剣が、彼女にとっての限界だった。
「――っ、はぁ――!」
 そして、疲労により呼吸が乱れ、集中力が途切れてくると、剣の強度は更に落ち、
「っうあ!」
「あ――!」
 十数度目の打ち合いで、ぱきぃん、と軽い音を立てて、剣は真ん中から折れた。一瞬瞳を揺らした錫だったが、それでももう一度歌を紡ごうと、息を吸って――その隙を逃さなかった蜘蛛の足で、横薙ぎに身を払われた。
「が……!」
 横腹に蜘蛛の足が叩き込まれ、何もない中空に少女の小さな体が放り出される。どさりと床があるのであろう場所に倒れ伏す少女の様を、間違いなく己の両目で捉え、安綱の中に先程とは別の恐怖が走る。
 このままでは、あの巨大な化け物にあの子が、やられてしまう。
 それでは駄目だ。まだ自分は、彼女に何も謝っていないのに。あれだけ傷ついても、自分を一度ならず二度までも助けてくれようとした少女に、礼の一つも言っていないのに!
 恐怖が、別の恐怖を押し殺す。ぎゅうと両手を握りしめ、安綱は考える。彼女を助ける方法を。
 思い出したのは、一度目の時。あの時と同じように、もう一度自分が剣を作れれば。
「――っ、」
 震える喉を堪えて、思い切り息を吸う。蜘蛛がのしのしと、その足を倒れた少女に向ける前に。
「――この身に沈む、魂持ちて――」
 思い出せる。一度聞いた曲を忘れるものか。歌詞も、音階も、全部覚えている。
「――この地を歩く、道へ進み――」
 少女がはっとしたように、こちらを向くのが見えた。大丈夫だからと笑ったつもりだが、上手くいった自信は無い。
「――この命、須らく燃やし――」
 蜘蛛も気づいたように、頭を捻って安綱の方を見た。引き攣りそうになるのを堪えて、歌い続けた。
「――己が炉より、刃を取出さん――!!」
 口から零れたメロディーは、銀の糸となり、縄となり――そして、完全に姿を固めた瞬間、ぽろりと落ちた。
「っ、と!」
 咄嗟に柄を掴んで止めると、思った以上に軽かった。材質が木でも、この大きさならもう少し重いだろう。それなのに、片手で楽々触れるほどに、軽い。
 一度見た時のものよりも、刃は幅広で長さもある。初めて持つ筈なのに、何故か安綱の手にはしっくりと収まった。
 それをついまじまじと眺め、刃を触らないように注意しながら、触覚と視覚の相違が無いかどうか確認してしまった安綱は――蜘蛛の攻撃に、当然だが気づくのが遅れた。
「――ッシャア!!」
「うあッ!?」
 咄嗟とはいえ、横殴りに飛んできた丸太のような足に対し、防御のつもりで刀を翳したのは褒められるべきかもしれない。しかし当然、剣術など全く知らない安綱は、衝撃を逃がすことも出来ず、そのまま吹っ飛ばされた。
 地面が無いのに転がるって不思議だな、と変に冷静なことを思いつつ、痛みに耐えていると、真上から声が降ってきた。
「な、何をしている! お前は一体――」
 ああ、あの子だ、と思った瞬間、瞼を開ける。あの日見た時と変わらない顔立ちと、確かに聞いた歌声と同じ声。
 ――己に足りないものを、安綱は良く知っている。自分が生きる為には、優しい人の手を借りなければ駄目だということはよく解っている。
 だからこそ、知っている。助けて欲しいときには、助けて欲しいと、声を出さねばならないということを。
 握りしめたままだった刀の柄を、そっと少女に差し出して。
「ごめん。せっかく作ったのに、俺には上手く使えないみたいだから」
「、ぇ――」
「これを使って、俺を助けて欲しいんだ。――頼めるかな?」



 錫の目の前に差し出された剣の形は、昨日よりも何故か立派に見えた。
 昨日は、無理やり奪った。ただ、役目を失敗してはならないと、必死だったから。
 でも今は。
 自分のものよりもずっと美しい剣を編み上げた少年が、それを自分に差し出していて。
 躊躇いがちに手を差し出すと、しっかりと握りしめるように、柄を渡された。
 他人の剣の筈なのに、それは何故か昨日と同じように、錫の手にしっくりと収まる。他の調律師の作った剣を練習にと持たされたことは何度かあったが、どれもろくに扱えず取り落としてしまったのに。
 否、それよりも何よりも――助けて欲しいと、彼は言ってくれたから。
「……任せてくれ」
 ぎゅっと柄を握りしめ、それだけ告げる。相手の目をしっかりと見つめると、一瞬少年の瞳は戸惑うように揺らいだが、こくりと頷いてくれた。
「俺に何か、出来ることはある?」
「……歌を。続けてくれ。そうすれば、この剣はずっと強くなる」
「解った」
 立ち上がり、真っ直ぐに刀を構える。目の前の大蜘蛛は、少しだけ臆したように攻撃を躊躇している。あれにも、この剣が己にとって良からぬものだということが解るのだろう。
 すう、と息を吸い、腹腔に貯める。
「――この身に沈む、魂持ちて――」
 背に受ける歌と同時に、己が口でも歌を紡ぐ。
「――この地を歩く、道へ進み――」
 威嚇の音を立てながら、振り下ろされた蜘蛛の足を切り飛ばす。まるで飴細工のようにずぱりと軽く切れてしまい、錫の方が驚く。
「――この命、須らく燃やし――」
 剣の輝きが増す。蜘蛛の牙すら弾いて欠けさせ、その切っ先はますます鋭くなる。
「――己が炉より、刃を取出さん――!!」
「っあああああ!」
 裂帛の気合いと共に、蜘蛛の顔面、大上段より振り上げ、八つ目の頭を思い切り叩き割った。