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ソドミィ

「好きなんです、紀乃瀬くん。付き合ってください」
土生西高校の屋上で、ある意味ありがちな男女の告白が行われていた。
机の中に手紙を入れて呼び出し、人気の無い屋上にて女生徒の方から告白。俯いて顔を真っ赤に染めている、中々可愛らしい少女である。大抵の男なら余程の理由が無い限り、悪くはないとOKするだろうぐらいには。
しかし生憎なことに、彼女の告白した男生徒は「大抵の男」では決してなかった。
「…申し訳ありませんが、お応えすることは出来かねます」
眼鏡の下から感情の篭らない視線を少女に向け、抑揚の無い声で容赦ない答えを返した。
「…そう、ですか……ごめんなさい、紀乃瀬くん。『敬虔な信者』の貴方には、迷惑だったわよね」
少女はその言葉を、今や学校中に知れ渡った目の前の男の二つ名として、何の感慨も無く使った。だから、そう呼ばれた瞬間男―――――紀乃瀬留架が、一瞬だけ腰の脇に下ろしていた両の拳を強く握り締めた事にも気付かなかった。
「本当にごめんなさい。それじゃ…」
涙が僅かに浮かんだ目尻を擦りながら、少女は屋上から出ていった。留架は一つ息を吐き、空を見上げ―――青い空に紫煙が燻っているのに気付き、きゅっと眉を寄せた。
重い足取りで、それでも給水塔の置いてある場所へ繋がる梯子を登る。思った通り、そこには塔に寄りかかり、雑誌を捲りながら煙草を咥えている紅い髪がいた。
「……志堂」
「お勤めご苦労。大変だな、色男」
「嫌味ですか」
「良く解ったな」
「慣れました」
に、と人の悪い笑みを浮かべる男にすたすたと近づき、咥え煙草に指を伸ばすがぎりぎりの線でかわされる。それ以上の無駄な労力を使うのを止め、留架は志堂の隣に腰を下ろした。志堂ももう興味を失ったように、手に持った雑誌に視線を落とす。
学校ではお互い、「先生も見放す問題児」と「好成績を誇る優等生」のレッテルを貼られている二人だが、こうやって屋上で何かの息抜きをするかのように顔を合わせるのはもう日常茶飯事だった。
「…見ていたんですか」
「お前らが来たんだろ」
取りつくしまのない言い方に、留架はもう一度溜息を吐いて空を見上げた。


空はとても青い。

太陽は眩しい。

世界は、こんなにも美しい。

それなのに―――――


「…『敬虔な信者』」
物思いに耽ろうとしていた留架の意識が、志堂の言葉に一気に浮上した。はっとして横を向くと、咥え煙草のまま志堂はにやにやと笑って留架の方を見ている。
「かなり堪えたみたいだな」
「………はい」
こくり、と頷く。
幼い頃から教会で暮らし、何の選択権も疑問も無しに使徒となった。
しかし、自らを貶め、戒めることが常識となってしまった彼には、そんな賛辞にも似た呼称は皮肉以上の罵声に違いなかった。
「は」
馬鹿にしたような笑いと共に、煙が吐き出された。
「この、天然マゾヒスト」
「――――………」
不遜としか言えない志堂の言葉が、酷く心地良かった。
「…私は、生まれつき痛みを感じません」
「?」
どう言う意味だ、という視線を向けてくる志堂の目を、真っ直ぐ見詰めて。
「神経が原因なのか―――脳が原因なのかは、分かりません。只、私には痛みというものが、どんなことなのか解らない。私には――――罰は与えられない」
きり、と唇を噛む音がした。血が染み出たのは解ったが、只それだけで。
「神の試練を受ける資格の無い私は―――使徒などでは、ありません」
ぎ、と両膝の上に爪を立てる。
「へぇ」
気の無い返事が返って来る。それは志堂に懺悔をするのならばいつものことだったのに、何故か今日は留架に余裕が無かった。
少しずつ空が曇りだし、太陽が隠れ始めていた。それがまるで今の自分の心境を表しているようで、留架の肩がぶるりと震えた。


『好きなんです、紀乃瀬くん。付き合ってください』


不安と、それ以上の期待に満ち満ちた目。純粋な思いを、真っ直ぐぶつけてきた少女。それに、応える事が出来なかった自分。伸ばされた手を拒む事は、彼にとって四肢を引き裂かれるより辛いことで。
「どうすれば良いのでしょうか、私は――――ッ」
唇の前すれすれに、火の点いた煙草の先が突き付けられて留架は口を噤む。
「…言った筈だぜ。俺は誰にも干渉しない。応えが欲しけりゃ他の奴を当たれ」
僅かに色素の薄い冷たい瞳が、レンズ越しに視線を合わせる。唇に感じる僅かな熱に、それ以上動かすことが出来なくなる。
「俺は只の人でしかない―――俺をお前の『神』に祭り上げるな」
「そんな…ことは、」
「あぁ…うざってぇ」
震える唇でどうにか告げようとした台詞は、ぐしゃぐしゃと頭を掻き毟りながら心底嫌そうに言う志堂の声で遮られる。膝の上の雑誌を放り投げ、それ以上の問答を拒否する志堂に、留架は何も言えなくなる。それでも、留架の心の中で沢山の矛盾がせめぎあう。
留架は幼い頃から、男女の性交渉というものに嫌悪感を持っていた。それは、自分が恐らく、「望まれぬ性の営み」によって生まれた存在だからという、嫌悪感。そして、望まれぬ姦淫と、望まれる営みの差が解らなかった。同じ行為。同じ欲望。それなのに、それによって生まれる命は区別される。
処女受胎をした聖母に憧れた事もあった。しかしそれは、学校で習う常識と共に、再び留架に矛盾を与え。
だから女性からの告白など、どうして良いのか解らなくて。
純粋な少女の思いを、曲解してしまう自分に更に嫌悪し。
「ぅ――――…ッ」
吐気を催した。
「おい、ここで戻すなよ」
容赦の無い志堂の言葉に、それでも留架は頷いて蹲った。
「ったく…面倒臭い」
溜息を吐き、乱暴に自分の吸いさしをコンクリートの床に押しつけて消す。無作法を咎めようと留架がゆるゆると首を上げた瞬間、胸倉を掴まれて引き寄せられた。
「どうせ暇だしな。付き合え」
「…何を、ですか」
「昇るのが無理なら、一度堕ちてみろ」
容赦の無い言葉と共に、ダン! と床に押し付けられた。ひょいっと志堂が留架の胸の上に飛び、馬乗りになった。胸ポケットから煙草とマッチを取り出して、火を点ける。大きく煙を吸いこむと、唐突な相手の行為に呆然としている留架の両腕を頭の両側に押し付け、唇を合わせると思いきり煙を吹き込んだ。
「――――――!! っ…ごほっげほ、げほっ!!」
苦味と息苦しさに、留架は顔を背けて咳込んだ。
「お気に入りの場所で吐かれると迷惑なんだよ。煙草はこれで良いな…酒は、流石にないか」
ポケットを探りながら舌打ちする志堂に、留架は僅かに生理的に潤んだ瞳を向ける。
「ッ志堂! 何を考えて―――」
「言っただろ。堕としてやるよ。そんなに自分を貶めたいのなら、な」
まだ長い煙草を再び床で揉み消し、心底軽蔑した冷たい瞳で見下ろすと、留架の身体が硬直した。
「大サービスだ。感謝しろ」
あまりと言えばあんまりな言い分だ。しかし志堂にとっては紛れも無く本気の言葉で。
ビッビビッ!!
学生服とYシャツの前を力任せに開かれる。ころころと沢山の弾けたボタンが、屋上に落ちていった。
日に全く当たっていないような白い肌の上に、ぎりっと志堂の爪が立てられた。
「っ………」
自分の皮膚を抉られる違和感に、留架が身体を身じろがせる。しかしその表情に苦痛を訴える色は無い。
「ふぅん…痛みが無いってのは、本当らしいな」
僅かに興味を持ったらしい志堂は、身体を傾がせると血の滲み出した傷口にがりっと齧りついた。
「――――!」
嫌悪感に身を竦ませようとしたその時、べろりと生暖かい舌でそこを撫でられて肌が粟立った。
「…素質あるんじゃないか、お前」
何の感慨も篭らない声で、志堂が肌の上で呟く。
「…何の、ですか…?」
「いや、その手の店に行ったらきっと売れるぜお前。見目だけは良いしな。本当のS相手じゃ駄目だろうが」
自分の上に馬乗りになったまま冷静に考察する相手に、耐えられずに目を逸らした。
そんなプライドを守ろうとする留架を心底馬鹿にしたように鼻を鳴らし、志堂は躊躇い無く留架の股間に手を伸ばし、そこを遠慮無しに握り締めた。
「ぁう!?」
びくん! と留架の身体が跳ねる。今まで感じたことの無い感触に、留架が上半身を起こしてその光景を見下ろした。
「志堂ッ…何、を…ッ!!」
声を出そうとすると擦られ、喉の奥で悲鳴があがる。志堂は黙ったまま、布の上から乱暴にそこを扱った。
「は……ぁ――――…っ」
自分の身体が、昂ぶって行くのが解った。そしてこれが、とんでもない背徳行為に一歩入りこんだ事だと今更ながらに気付き、恐怖して志堂の手から逃れようと身体を引き摺る。しかし志堂はそれを許さずに、起き上がって四つ這いになった身体を後から押さえ込み、また中心の弱点を握り締める。
「くぅ…っ、! …っ……!」
がくん、と肘が傾ぎ、床に顎を擦る格好になる。がくがくと身体を震わせ、襲ってくる快感と呼ぶはずの情動に飲みこまれていく。
と、突然ズボンのジッパーを下ろされ、下着の中に手を入れられた。
「うぐっ!?」
「あぁ、やっぱ剥けてないな」
既に立ちあがっていた中心に触れられはっきりと言われた実況に、かあっと留架の顔に羞恥の炎が灯る。志堂は気にもせずに、留架のズボンと一緒に下着を掴んで膝まで下ろした。
「こっちは残しといてやるよ。女用に」
「…………?」
中心を苛んでいた手が不意に退かれ、言われた台詞の意味が解らず、肩越しに志堂に問いかけの目をやる。見ると、志堂は自分の筋張った指を2本、口の中に入れて舐めていた。
ずる、と涎に塗れた指を口から引き摺り出すと、志堂は何の躊躇いも無く留架の後ろの門にその指を添えた。
「!? 何―――」
「痛くなくても、解さないと入らないだろ」
「ぁ…………!?」
ず、ぐ、と指が。凄まじい圧迫感と共に、身体の中に入りこんでくる。確かに痛みは無いが、その分その部分が裂ける感触をリアルに感じ、留架の気は狂いそうになった。
「志堂! 志堂、止めてください…!」
「今更だな。諦めろ」
「嫌ァ……だ………ッ!!」
ぐいぐいと遠慮無く入りこんでくる蹂躙。それ以上に、心の中のモラルが冒涜を嫌悪し、留架に涙を流させた。―――恐らく、留架は意識をしないだろうし、志堂も指摘しないのだが。
「―――考えてみろ」
「ぁ――――?」
その時。耳元で、悪魔の囁きがした。
「縋られるのは御免だからな―――『受け止めて』みろ。お前にとっちゃ、悪くないんだろ?」
断言を疑問形で言われた。その瞬間、身体の奥底にぞわり、とした炎が灯った。僅かに腰が、逃げとは別の方向に揺らめいた。
「? ぁ、これ、は…ッ?」
「は…これだけで良くなったのか? この変態」
「ち、が…ぅうあ!?」
いくら言葉で否定しても、先刻までとは違う感触が沸きあがってくるのを、留架は我慢出来なくなっていた。
そう。蹂躙者の言う通り。
こんな冒涜的な行為をしているのに。
求められることに喜びを感じてしまう自分がいた。
「こん、なッ…こんな…!」
がくがくと、留架の身体が大きく痙攣する。快楽と驚愕と、恐怖と嫌悪で。志堂は気にした風もなく、今まで乱されていなかった着衣の下から自分の象徴を取り出して、程好く固くなるまで指で扱いた。志堂はその気になれば、自分の性衝動も出来る限り流されずに抑えておけるからだ。勿論、その逆も然りで。
「入れるぞ」
「っ……!! かはぁっ!!」
がくん! と留架の顎があがり、吐息のような悲鳴が唇から漏れる。痛みは無い。ただ、苦しい。
「う、ぐ…ぅ、ぅうあああっ!」
それでも、痛みを感じない身体は快楽だけを上手く拾い上げ、留架の立ちあがった中心がゆるゆると蜜を吐き出しだす。
「本当…馬鹿だな、お前」
一方、全く息を乱さず、ただ抽出を繰り返しながら志堂が呟く。呆れ混じりのその台詞も、もう留架には届いていないよう
だった。
「ぁ、う―――っ…は、」
「―――受けとめても、お前には何も残らないだろう?」
「あぅあぁあっ!?」
身体を倒し、後から耳元で囁かれた呪いの言葉に、留架は達した。がくん、と自分の引き千切られ散らかされた服の上にどさり、と身体を投げ出し、意識を失った。
「っ――――…」
ずる、と留架の身体の中から、志堂はまだ萎えていない中心を取り出して、何回か擦って放出した。
どろりとした液体が、留架の白い背中を汚した。
息一つ乱さず志堂は身支度をし、給水塔に再び身体を預けて腰掛けると、煙草に火をつけた。
大きく煙を吸って吐き出すと、意識を失ったまま動かない留架を冷たい眼で見下ろして、一言呟いた。
「変態」
火の点いた煙草を、涙と汗で濡れた留架の頬に押し当てた。じ、と肉の焼ける音が僅かに聞こえた。熱さは感じるが、やはりそれも常人よりは鈍いらしく、留架は僅かに身動ぎし、そしてゆっくりと目を覚ました。
「気分はどうだ?」
虚ろな目で自分を見てくる留架に、志堂は問うた。
「………………」
ひくっ、と留架の喉が痙攣した。言葉が出したいのに出せなかったらしい。ひゅう、ひゅうと何度か苦しげに息をして、一つ唾を飲みこんでようやく応えた。
「…あ りがとう…ござ いまし  た…」
限界まで蹂躙されて。人として貶められて。
その事を喜んでしまう、背徳の狂信者が其処にいた。
「―――――はっ!」
心底おかしそうに、そして呆れたように志堂は笑った。煙草をゆっくり一本吸い終えるとそれを床に落として踏み消す。そしてもう、留架の方を見ずに梯子を降り、校内に戻っていった。
「く…」
ぐっ、と力の入らない身体を堪えて、留架は身を起こした。ぼろぼろになった制服を一応纏い、ゆっくりゆっくり梯子を降りた。
屋上まで降り立ったのが限界で、へたりとそこに座りこんだ。
空をゆっくりと見上げると、完全に黒雲に覆われていた。そこからぽつり、ぽつり、と雨粒が落ちてくる。
留架はどこか嬉しそうに、冷たいコンクリートのタイルの上に寝転がった。空からの雫はどんどんコンクリートを黒く染めて、留架を洗っていく。
慈悲だと、思えた。天からの。
「――――――裁きを――」
更に雷が降ってくることを望んだのだが、その願いは届かなかった。
只雨が、留架を包んでいた。







「――――らしくねぇ」
湿気でどうもむず痒くなる頭を掻きながら、志堂は彼にしては足早に階段を降りていた。
あのような狼藉を働いたのが、ではない。彼にチャンスを残してしまったことが。
受けとめるだけで何も出来ない彫像に、誰かを求め、その中へ回帰出来るチャンスを与えてしまったことが。
どうもあれが相手だと、自分のペースが崩される。不機嫌そうに、志堂は学校内にも関わらず新しい煙草に火を点けた。






×××






「う、痛ったぁ…」
目の前のベッドでごろごろしていた少女が不意に悲鳴を上げて呻いた。
部屋の窓の近くで椅子に座り、煙草を吹かしていた志堂はふと振り向いた。
「毎日お盛んだな、阿婆擦れ娘」
「へへーんだ。羨ましいだろ」
「全然」
「志堂だって、ちゃんと使ってないとすぐタたなくなっちゃうんだからねーだ」
可愛い口から容赦のない下品な台詞を言いつつ、ベッドの上の少女―――亜輝はむっくり身体を起こした。確かに痛む腰を擦りながら、志堂の側にちょこちょこと寄っていく。
いつも手錠で繋がれているはずのその右手首には、真っ白な包帯が巻かれている。彼女の片割れは只今、礼拝堂の掃除中だ。
大好きな相手と離れていなければならないストレスを解消しようと、亜輝は志堂で遊ぶ気まんまんだった。
しかし更に何か挑発しようとした瞬間、へろっと志堂の口から恐ろしい言葉が出た。
「ま、大変だろうな。あいつモノでかいだろ」
「…………………………………………………」
さくっと言われた言葉に、亜輝の目が点になる。長い沈黙の後、ひょこんと首を傾げて問う。
「なんで知ってんの。あ、トイレとかで?」
男ならその可能性もあるよね、と頷いたのだが。
「いや、膨張率が」
「…………………」
今度の沈黙はやや短かった。
「だから、なんで知ってんの」
不審と疑問で一杯の視線を受けて、志堂は顔色一つ変えず自分の顔を指差した。
「経験済み」
「…………………………………………………………………………………………」




沈黙。




沈黙。




沈黙。






「…………殺す―――――――ッ!!!!」

「あっはっはっはっはっはっはっはっ!!」






その時、礼拝堂にて拭き掃除をしていた留架は、奥の客間から響いてきた絶叫と笑い声、そして次に聞こえた何かの破壊音に僅かに目を見張り、何が起きたのかと米神を押さえていた。



「許さない絶対許さない――――ッ!! 絶対絶対絶対、あたしが留架のはじめてだって思ってたのに〜〜〜〜〜〜!!!」
顔を真っ赤にして涙を浮かべ、本気の殺意が篭った視線で志堂を睨みつけている亜輝は、そこらに放り出してあったもう使わない燭台を腰溜めに構えている。年代モノのそれはかなり大きめで、殴ればかなり痛いし刺すなら人を殺せそうな代物だ。
「ああ、安心しろ。お前とは逆だから。お前に会うまでは童貞だぜ、処女じゃねぇけど」
その狂乱状態を心底面白そうに眺めながら、志堂は手を振り振り更に火に油を注ぐ。
「なお悪い〜〜〜〜〜〜〜ッ!! あたしにはっ、絶対出来ないっ…うわああああああんん!!」
興奮と悔しさのあまり本気泣きに入ってしまった亜輝の声を聞きつけたらしく、留架が足早にこちらに向かってきた。
「亜輝、何が――――」
「留架、後は任せた」
「留架ぁ! そいつっく、殺して、ひっく…今すぐ殺して――ッ!!」
ドアを開けた瞬間、するりとその間を潜って留架の肩を叩き足早に部屋を出ていく志堂と、泣きじゃくりながら自分に物騒なことを懇願してくる亜輝に挟まれて、留架は大層混乱した。
「一体、何があったんですか!」
取り合えず少女から凶器を取り上げ、もう姿の見えない志堂に向かって叫ぶ。
ひっくひっくと泣き続ける亜輝を抱き寄せ、よしよしと頭を撫でてやる。
「うぁあぁ〜ん、るかぁ〜…」
ぎゅうっと抱きついてくる少女が愛しくて、そっと背中を擦ってやると、ようやく落ちついてきたらしく。
少し身体を離して、涙に濡れた苛烈な瞳で留架をきっと見つめ。
「留架、ディルドー買って!! 志堂のよりでっかいヤツ!」
「はぁっ!?」
「留架の前も後ろもあたしのモノなの――――――ッ!!」

爆弾発言をぶちかまし、留架に彼にしては凄まじい驚愕の悲鳴をあげさせた。
こっそり廊下の端に潜んで、その様子を聞いていた志堂は、堪え切れずにもう一度爆笑した。



その後、亜輝の望みが叶えられたのかどうかは…ご想像にお任せする。



end.