時計+人形

のんべんだらりんごった煮サイト

物書きさんに20のお題・赤

01.ゆびきり

約束の証。
昔は本当に小指を切って渡した。
「ヤクザのオトシマエってやつ?」
「…名残なのかもしれませんね」
「それで約束守ってくれるんなら切っても良いんだけど」
「そうですか?」
「その小指、留架が食べてくれるんならね」
アナタの体にならないまま無駄にはしたくない。



02.水たまり

泥水を漫々とたたえた大きなその辺で、私はずっと躊躇っていた。
汚れる事を恐れていたわけではない。
汚れた事を他人に指摘される事を恐れていた。
「何やってんの? 先行っちゃうよー」
ざぶざぶと何の躊躇いも無く、彼女は裸足でそこに入っていった。
止めようと一歩踏み出す前に、腕を捕まれて引き擦り込まれた。
あちらこちらに泥が跳ね、靴の中にも水が入った。
それでも彼女をこれ以上汚したくなくて、両の腕で抱き上げた。



03.世界を変える方法

「人間が全部滅んじゃえば良いのに」
無邪気な子供は恐ろしい結論を下した。
しかしそれ以上に恐ろしいのは、
人間が滅んでしまえば彼女が消えてしまうという事実のみに、
恐怖した自分だろう。



04.サイン帳

中学校を卒業する時に、何故だか知らないけど山ほど押し付けられた。
ムカついたから、窓から全部放り投げてやった。



05.リセット

「押したい?」
「嫌です」
「押すのが怖い?」
「…怖いです」
「あたしは平気」
「何故ですか?」
「最初に戻るんだったら、平気。絶対また留架のこと見つけてあげる」   



06.初雪

「あー…」
ぺちっ。
「いった! 何すんだよ留架ぁ!」
「食べないで下さい。不衛生です」

 

07.赤ピーマン

「絶ッ対、やだ!!」
「亜輝…我侭を言わないで下さい」
「やだやだやだ!! 苦いもん!!」
「赤いピーマンは熟しているから苦くはないんです」
「うーそーだぁー!!!」



08.オープンカー

自慢げなマサヤに連れられて乗せられた。
顔に当る風はみんな排気ガス臭くて気持ち悪かった。



09.ゴミ箱

教科書、鉛筆、体操着、
よそ行き、革靴、化粧道具、
両親、姉貴、名前、
全部全部投げ捨ててしまえ! 



10.弱音

何も捨てられない私を、
貴女は赦して下さいますか―――?



11.一酸化炭素

赤血球と結びつく力は、酸素の235倍。
「貴女は私の一酸化炭素です」
「どゆ事?」
「―――離れられない」
「窒息させてあげよっか?」
与えられたキスは酷く長かった。


  
12.不規則

捕まえたと思ったら振り回されて、翻弄されて。
引き摺られる手錠で、手首は赤黒く爛れていく。



13.P.S.

戯れに、ノートを引き破いたような手紙を渡された。
聖書の一文を丸写しした2ページ半の最後には。
「追伸。
こんなの読んでる暇があるんなら早く会いにこーい!」
初めて貰った手紙を丁寧に折り畳んで、屋根裏部屋に向かった。


 
14.エレベーター

この部屋が動く密室なら良かったのに。
誰にも会わないまま遠くへ行けるのに。




15.待ちぼうけ

ずっとずっと待っている、
この胸に空いた穴と同じ形をした人を。




16.BGM

風の音。
雨の音。
空気がぴんと静かな音。
鎖が肌とシーツで擦れる音。
呼吸音。
心音。




17.精神分裂症

両親が嫌いなのに、両親に愛されたい。
姉が鬱陶しいのに、姉を哀れむ。
セックスは嫌いなのに、どんな男にも抱かれる。
誰でもいいから、あたしに結論をちょうだい。




18.99パーセント

残り1パーセントは、自分達が違う人間である事。




19.四畳半

鉄で出来た重い扉、閂つき。
全部木製の、小さな机と椅子と本棚。
同じく木製の狭いベッド。
低い天井に空いた、天窓。
それだけで充分。
一人は寂しい、二人は狭い。
だったらずっと繋がっていよう。




20.シュークリームを2つ

一つづつ持って。
「はい、あーんっ」
一口ちぎって、貴方の口へ。
「…では、こちらも」
一口ちぎって、私の口へ。
お互い食べさせあいながら、自分で口はつけなくて。
最後の一欠け、お互いの口にぽいっと入れて、
甘い甘いキスをしよう。



end.