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ヨハネの黙示録・第二十二章


「これらの言葉は信ずべきであり、まことである」









警察からはしつこく色々聞かれたが、半ば無理矢理帰って来た。
事情聴取の間中、留架の首に腕を回して膝の上から降りなかった亜輝とそれを止めもせず任している留架に疲れたせいかもしれないが。
長い坂道を登って、教会まで帰り着いた時、留架の体力に限界が来たらしく、礼拝堂の手近な椅子に座り込んで、長い息を吐いた。
「留架、大丈夫?」
「えぇ」
大丈夫なわけが無い。拓山血がでて、倒れて、意識を失って、それから――――
少し大きな志堂のジャケットの下には、ぐるぐると巻かれた包帯があって、傷口付近は少しだけ色が変わっていて。
「…ごめん」
留架は瞠目した。泣きそうになっている顔は、何度も見たことがあったけれど、謝られたことなど一度も無かった。
「ごめん、留架。ごめん、ごめん、ごめんっ…!」
抱き着いたまま、何度も何度も詫びを繰り返す。
「どうして…貴方が謝るのですか?」
悪いのは私の方なのに。
「あたしのせいだっ…留架が怪我したの…あ、あたしが馬鹿やってたから、あたしのせいで」
「違います」
しゃくりあげて上手く喋れない亜輝の頬を、ゆっくりと撫でて諌める。
「怪我をしたのは、私の不注意です。貴方は何も悪くない。謝るのは私の方です…もう二度と、貴方を一人にしないと誓ったのに、私は貴方を泣かせてばかりいる」
「…いーよ。もう、いいよ。だって、また留架、来てくれたから。だから…いぃよ」
「…すみません……」
「ごめんね…」
謝りあって、少しだけ笑って。
「留架。あたし、もう絶対離れないから。離れたいって言っても、離さないから」
「言いません。私ももう、離れません」
「手錠、ある?」
「えぇ」
礼拝堂に置いたままにしておいた無骨な金属を、躊躇い無くがちりと、自分達の腕に繋いだ。やっと安心したように、二人はキスをした。








出来損ないでいい。





許されなくていい。








もう二度と、この人を私から離さないで。
















「もう、ここにいたくないな」

「この街、ですか?」

「うん。何か、疲れちゃった」

「そうですね」

「あたし達を誰も知らない所に行きたいな。北極とか、南極とか」

「どうして寒い所に行くんですか」

「あたし、留架と一緒なら死ぬのもいいけど死にたくないの」


「…えぇ」

「だからさ」

「………」


「抱き合ったまんま、北極のどこかで二人で凍るの。

二人で一緒の夢見るの。どれだけ時間が経っても、あそこの氷って溶けないんでしょ?

だから、そこで眠ってよう。

誰にも邪魔されない所で、二人で凍ってよう」


「…良いですね」

「でしょ?」

「悪く、ありません」

「うん」














その日は、何度も何度もキスをして、そのまま抱き合って眠った。








夢を見た。










最初はいつも見る、黒い泥の夢だったのだけれど。



その手はちゃんと鎖で繋がっていたから、何も恐くなくて。




その泥が少しずつ透き通って、凍っていくまで待っていた。





抱き合ったままキスをして、二人で氷になった。



夢の中の夢でも二人でいられるようにと、祈って。














幸せな、夢だった。