時計+人形

のんべんだらりんごった煮サイト

LOVELESS…


彼女は白砂ではないかと、たまに思うことがある。



二人で抱き逢う時、肌のどの部分もあまりに白く見えるので、
そう思うだけかもしれないが。
その肌のそこかしこに唇を落していくたびに、脳に溜まる熱が、
幻覚を見せているのかもしれないが。




彼女のカラダに包まれる瞬間、えも言えぬ感情が私の中に溢れ出す。
自分の体温が上昇するのが、はっきりと解る。


自分に命を与えた少女を抱く。
抱かれているのは、私の方なのかもしれないが。



彼女の瞳。

彼女の声。

彼女の体温。





色の無いこの世界で、彼女だけが色を持つ。





彼女は私を濾過してくれる。





交わるたびに、自分が綺麗になっていくのが解る。
濁った澱をすべて彼女に残して、私は透き通る。
…彼女が汚れていくのではないか、と不安に思ってまた私は目を開ける。
目が合った瞬間、すがり付いてしまうのは私の方だと解っているのに。








留架は水。
透き通った、凄くキレイな水。



留架はあたしを洗ってくれる。
いろいろな人間に付けられた汚れとか、傷とか、
全部全部全部、優しくキレイに洗ってくれる。



キモチイイ。
いっつも仏頂面してる留架が、あたしを抱く時だけ変わる。
目が少し潤んで、体温がちょっとだけ高くなる。
留架のこんな姿を見ることが出来る人なんて、あたしだけだ。
優越感。



あたしを求めてくれる人。

あたしに与えてくれる人。

留架は、あたしにとって、全て。全部。

他のモノなんかもういらない。






でも。
ちょっとだけ、不安になった。
あたしがキレイになった分、留架が汚れていってないだろうか。
あたし、すごく一杯汚れてたから。
だから、確かめたくて目を開けた。











「留架ぁ」
「…何ですか?」

狭いベッドの上で不意に亜輝が上体を起こした。
気だるげに名前を呼んだだけで返事に応えず、白い小さな手をゆっくり寝転がったままの留架の頬に這わせた。
そのまま首筋を通過させて、胸、腹、腰まで滑らす。


「っ…どうしました?」


その感触にぞくりと肌を震わせて、留架はもう一度問うた。


「留架、キレイだよね」
「そう、ですか?」
「うん。キレイ。大丈夫」


安心したようにほっと息を吐く彼女を、ゆっくりと腕を上げて抱き寄せた。
そういう貴方の方が、綺麗だと。言おうとして止めた。


「留架。あたしのコト捨てないでね」
「いきなり何ですか」
「もう、しない。他のヤツに抱かれたりしないし、煙草もクスリもやらないっ」


肋骨の僅かに浮いた胸の上に自分の頭を摩り付けながら、どこか必死な声音で亜輝は喋り続ける。


「もうあたしには留架だけだから! だから、あたしのこと、しっかり抱いててよ」
「……はい」




貴方しかいないのは、私の方。
貴方以外必要ないと思えてしまうのは、私の愚かさでしょうか。


「シようよ。あたしが包んであげるから」


その言葉に促されるように、口付けを受けた。










少しずつ高ぶっていくカラダ。


何も考えられなくなるココロ。


僅かな息遣いと抑えた喘ぎ声。


何度も、


何度も、


絡まりあって落ちていく。












天から落ちる光はもう大分力を持ちはじめて、
きっと見上げれば空は青くなっているだろうけれど。
この世界にはそんなもの必要ない。
時間なんて止まってしまえばいい。





「…っ、貴方に……」


「ぁ、……なに…?」


「貴方に、出逢うために生まれてきたのだと―――」






未だ少女を見上げたまま、神を捨てた神父は問う。






「そう、思うのは、傲慢ですか―――?」






捨てられた命。
必要とされない命。
求められない命。


それを救い上げてくれたのは貴方だから。






「ばかっ、ずるっ……い、いっつも、こんな時にしかッ、本音言わないっ…!!」


揺さぶられるカラダを前に倒して、噛み付くように口付ける。
間近で見る少女の瞳は、今にも涙が溢れそうだった。



「あたし、あたしだって、あいたかったぁッ………!!」


「亜輝ッ………!!」






どくん、と。






心臓がひとつ脈打つと同時に、抱き合ったまま、落ちた。



















気を失うような眠りは、短かったらしく。
熱い息を吐いて意識を取り戻した留架は、自分の身体の上でくたりとしている少女を、愛しげに抱きしめた。
そのまま、小さな声で祈りの言葉を呟く。
勿論、もう彼の祈りはどこかの誰とも知らない居るかどうかも解らないモノに向けてでは無く。
安心しきって眠る、自分と鎖で繋がった小さな少女で。



「もう、一人には――――」


戻りたくない。



その、どこか駄々のような懇願は、静かな部屋の空気の中に溶けていった。