時計+人形

のんべんだらりんごった煮サイト

And that's all ...?

それはいつもと変わらない日々、唐突に終わる。









「久しぶり」





いつもと同じように声をかけられて、志堂は心底うざったそうに盛大に眉を顰めた。





「今度はなんの用だ」





ぎ、と紙巻煙草のフィルターを前歯で潰しながら問うと、今回は長すぎるスカートを地面に引きずりながら歩く少女の姿をした「それ」は、

いつもと変わらぬ笑みを浮かべて言った。





「最後のお誘いに来たんだ」



「最後?」





「それ」の口から出るには余りにも違和感を内包するその言葉に、志堂は片眉を上げた。





「うん、最後」





にっこり笑って「それ」は、恐るべき言葉を吐き出した。

よりにもよって、賑わう昼下がりの繁華街の中で。

勿論、「それ」の声も存在も志堂以外感知できないものだったのだけれど。





「あと4分27秒。ここに、核ミサイルが落ちてくる」



「――――!?」





流石の志堂も、目を見開いた。色素の薄いその目が、すぐにすうっと眇められる。





「何をした?」



「勘違いしないで欲しいな。 は何もしていない。この結末を選んだのは君達だ」



「ぬかせ。それを望む奴を作ったのはお前じゃねぇか」



「うん、そうだよ」





「それ」は、志堂の詰りに、やはり何も変わらない笑顔で答える。

志堂は心底嫌そうに顔を歪めた。とっとと帰れ、の意を込めて睨んでやるが、勿論相手には効かない。





「沢山の世界というものは、平行じゃない。例えて言うなら、そうだね…蜘蛛の巣、とでも言えば良いのかな?」





唐突に、「それ」は語りだした。





「…横糸が空間。縦糸が意識の存在か?」





直ぐに理解したらしい志堂が問い返すと、流石だね、と「それ」は頷く。志堂は面白くも無さそうに目を逸らした。





「一本の縦糸が、二本の横糸をくっ付けてしまった結果。それがもう直ぐやってくるよ」





誰が、とは言わない。問うこともしない。聞いてもどうにもならないし、どうする気も無い。





「どうだい?  と一緒に来ないか?」





す、と小さい手が伸ばされる。長い年月の皺が刻まれた手は、伸ばされることすらなかった。





「断る。お前と一緒に巣の真中にいくなんざ、絶対御免だ」



「うん、知っていたよ」





無駄な問答を繰り返す二人を、周りの人々は認知しない。





「それじゃあ、これで最期だね」



「ああ」





さよなら、と小さく手を振って、その姿は一瞬にしてそこから消え失せた。





















志堂は黙って懐から新しい煙草を取り出し、火をつけた。空を見上げて、ゆっくりと吸う。

雲の隙間から、飛行機雲を引っ張っていく光がちらりと見えた。





「あれか」





志堂は酷く落ち着いていた。未練というものに無縁な彼は、自分の命にすら大した執着はない。

この出来事は、後の世、別の世界で何と呼ばれるのだろうか。

自滅? 審判? 世界の終わり?

志堂はに、と皺の篭った唇を吊り上げた。

不本意だが、あれの言葉を使わせて貰えば。

ただ、糸の位置が変わるだけだ。大部分の糸が千切れてしまうとしても、残るものは必ずある。

巣そのものは無くならず、新しい場所へ糸を張り続ける。







この世界は、消えない。







飛行機雲を作っていた光が、ゆっくりとこちらに向かって落ちてくるのが見えた。

それは物凄いスピードで近づき―――地上から見る分にはかなりゆっくりしていたけれど―――、

やがて地上の人々も気づき始めた。



疑問。不安。確信。悲鳴。逃走。パニック。



そんな中、植え込みの端の煉瓦塀に腰を下ろしたまま、志堂はただ待っていた。





「―――終わるわけないだろ」





絶対の確信を、言葉に込めて。







やがて、光が、



落ちた。































――――――――――――――――――――――!!



















































西暦××××年、後に「13の鉄槌」と呼ばれる核兵器が地上にて爆発。

地表の80%以上が焦土と化し、全世界人口の90%が死亡。

生き残った人間は後に「7の慈悲」と呼ばれるドーム型研究施設に避難し、都市を作り上げる。



世界の膨張は終わり、収束が始まる―――――――。