時計+人形

のんべんだらりんごった煮サイト

-9:合体:

直立不動で立っているゼロの後ろ姿を肉眼で確認して、声を上げた。
「ゼロッ!!」
「―――来ルな!! 塵!!!」
初めて聞く鎧からの制止の声に、ジンは思わずたたらを踏んだ。その瞬間―――影達が動いた。

――――――ギゴッ!!

「なっ…!」
驚愕に思わず、ジンは叫び声をあげた。目の前で、あのゼロが、不条理な出力を持つあの鎧が――――横に吹っ飛ばされた。
赤茶色の髪の女の蹴りを、もろに食らって。
ドシュドシュドシュッ!!
間髪入れず、黒髪の女が黒い槍のようなものをゼロに向かって飛ばす。凸凹の地面に転がりそれをかわすゼロに、更に一番大柄な女の拳が襲いかかる。

ドゴォッ!!

「―――ッ!!」

ぎりぎりで必殺の拳から逃れたが、その威力は辺りの残骸を巻き上げてゼロ自身も飛ばした。空中で反転し、ゼロは危なげなくごつごつの地面に着地する。
「な…んなんだっ、テメェら! 鎧が何の用なんだよ!」
「「「――――――?」」」
美しい三体の鎧が一斉に振り向く。視線の集中砲火を浴び、ジンは思わず後退った。
「―――情報照合確認。間違いありません」
「こんなモノが、お兄様の設定された主…?」
「何て脆弱そうな人間でしょう。お兄様、やはり故障したままなのでございますね?」
「おいこらテメェら! 滅茶苦茶失礼なこと言ってんじゃねぇ!!」
次々に放たれる言葉と、どう考えても侮蔑以外の感情が見つからない視線に、ジンの頭に血が昇った。三葉と呼ばれた娘が、露骨に不快そうに眉を顰めた。
「五月蝿い芥ですわね」
まるで白魚のような、と表現出来る細い手指で、美しい娘は自分の黒髪を引き抜く。それは彼女の指の中で、ブゥンという音と共に鋭利な槍に変わった。
「排除致しますわ」
シャッ!!
「ッ―――――」
全くモーションを見せず、不意に凶器が放たれた。防御用に偽鎧を出す暇もない――――!!
「塵!!!」
いきなり、横から体当たられた。ザガガッ、とジャンクパーツを散らして二つの身体が地面を滑る。
「いって…こら、どけ! 重てぇ…って…」
詰りは途中で止まった。自分の上から身体を退けた鎧の二の腕から腰にかけて、先程の凶器が―――貫通していた。ゼロは躊躇わずそれをもう片方の腕で抜き取り、投げ捨てる。あっという間に凶器はただの髪の毛に戻った。
「お兄様。そのような人間を何故庇われますの?」
「私達にはお父様という素晴らしい主人がいらっしゃいますのに」
「何故お父様に逆らうのですか。理解出来ません」
身体に開いた穴―――ちぎれたベルトの中から、じわりと黒血が溢れ出す。それに構わず、ゼロはただ黙って美しい鎧を―――妹達を、見つめてこう言った。
「…お前太刀ハ、あのひとヲ覚えていナイの可?」
「何の事ですの」
「理解不能ですわ」
「やはり排除するしかありませんわね」
容赦の無い三者三様の答えが返って来る。ゼロは一歩下がり、未だ呆然としていたジンの前に立ちはだかった。
「―――塵。ワタ志を、纏エ」
「…な、に?」
言われた言葉の意味が解らず、ぎごちない声で返した。ゼロは妹達を見据えたまま、言葉を繰り返した。
「ワタ志を纏エ、塵。湖のママでハ――――勝テない」
「無駄ですわよ」
たどたどしい声を、流麗な声が両断する。はっとジンがそちらに視線を向けると、二重と呼ばれた女性が豊満な胸の上で腕を組み、冷たい視線をジンの方に向けていた。
「私達を纏えるのはこの世でお父様只お一人。そんな何処の馬の骨とも解らない子供に何が出来ると言うのです?」
ピキ。ジンの眉間に一つ皺が寄った。
「出来るわけがありませんわ。そんな貧弱で愚かな雑魚に」
ビキ。ジンの額に怒りの四つ角が出た。
「身の程知らずも甚だしいですわね。愚者としか言い様がありませんわ」
ブチッ。ジンのそんなに丈夫では無い堪忍袋の尾が切れた。
「ッ…ざっけんなァ―――――!!」
がばっと置き上がり、自分の左手でゼロの右手を取った。ゼロが僅かに目を見開いて横を見る。ぎりぎりと怒りで歯軋りしながら、ジンは続けて怒鳴りつけた。
「やってやろーじゃねぇかっ!! 鎧だろうが何だろうが、纏ってやらぁっ!!」
「―――塵―――――」
主の名を呼ぶ鎧の声が、僅かに震えた。次の瞬間、ゼロは躊躇い無く、合言葉をその唇から紡いだ。



「――――装着<スレプト>!」



バチバチバチンッ!!とゼロの右腕のバンドが全てはじけ飛んだ。それは、まるで1本1本が別の生き物かのように、ジンの左手にぐるぐると巻きつく!
「う、あ!?」
その気色悪さに思わずジンの口から悲鳴が漏れるが、動きは緩まない。
「そんな馬鹿な!」
「有り得ないですわ!」
「お父様以外に―――」
驚愕に彩られた姉妹の声が、不意に止まる。
「あ…う、ぐ、あああああああああああああああああっ!!!」
「―――塵!?」
左腕に巻きついたゼロの一部が、形を組み直しながら神経部に入りこむ。その感触と痛みに、ジンは魂切るような悲鳴をあげた。まるで自分の細胞が、別のものに全て侵食されていくような恐怖! 今まで温もりのあったところが、冷たい無機物に変わっていくように錯覚し、恐怖の悲鳴が上がったのだ。
「ひっ…うああああっ!! ああっ、ぐああああああああああああ!!」
尚且つその痛みは、ジンの脳をダイレクトに揺さ振る。あまりの衝撃に、ジンはその場に膝をつき、額を地面に擦りつけてうずくまってしまった。
「やはり、無理でしたのね」
「そのような小物にはお似合いですわ」
「そのまま狂って、死んでおしまいなさいな」
「―――!!」
妹達の揶揄混じりの言葉に、ゼロははっきりと驚愕により目を見開いた。自分の右腕以外の場所は、どんどんとその触手を伸ばしジンを包みこもうとしている。真っ青な顔で震えながら痛みに耐える主の顔を見た時、ゼロの取るべき行動は決定された。
「―――第壱封印限定解除! 起動:三日月!!」
左腕の封印を限定で―――即ち、主とは関係無く起動させる。
あっという間に組み上がった刃を、ゼロは、何の躊躇いも無く――――――



ぞんっ!!



「うぐああああああっ!?」
「「「お兄様!!?」」」







自分の右肩に振り下ろした。