時計+人形

のんべんだらりんごった煮サイト

Sweeping roundup.

カンカンカンカンカンカンッ!
ザッザッザッザッザッザッザ!
広い廊下を、ダストと悠太は並んで全力疾走した。後ろからは規則的な足音が段々と増え、的確に自分達に迫ってきている。時たまダストが振り向き、後ろへ向かって銃を撃つが、何も効果はない。
「どうするんだっ!!」
「どこでもいい、部屋探せ!」
振り向かないまま、苦しい喉を堪えて叫ぶと、同じ声で返ってきた。それに応えて辺りを見回してみるが、どちらを向いても白い壁。部屋のドアなどどこにも見えない。と、廊下の真正面、突き当たりに大きな扉が一つ見えた。考える前に叫んだ。
「ダスト! 前ッ!」
「―――ッ!」
その声にダストは体を完全に前傾にし、転がるぐらいの勢いでダッシュする。スライディングでドアの下まで辿り着くと、コネクトパネルに向かって躊躇いなく引き金を引いた。ガガガガッ!!バツ、バチンッと火花が散るパネルを無視して、ダストは扉の合わせ目に指をかけて無理やりこじ開けた。
「ん、がっ…このぉ!」
「はっ、はぁ、はあぁっ…!」
ようやくフラフラになって辿り着いた悠太も、それに参加する。二人がかりで両側から引っ張り、じりじりと扉を開いた。廊下の角からリバイブの一団が顔を出した時、人一人が通れるぐらいの隙間がやっと開き、ダストはそこに悠太を押し込め、自分も滑り込んだ。
むわっとした熱気が、頬を襲った。
「うあっつ…!」
「く、何だこりゃっ!」
原因はすぐに解った。眼下に、、真っ赤になりどろどろに溶けた金属のプールがある。自分達が立っているのは、そのプールの上に張り出した細い廊下の上だった。プールは常に波打ち、泡を立たせながら、中心部にある排出口に落ちてくる沢山の人間とリバイブの破片を飲み込んでいた。この建物の―――否、この都市全ての「廃棄物」が、ここに送られてくるのだ。そのあまりにも現実離れした凄惨な光景に、悠太はぐぅ、と喉を鳴らした。ここが、この世界の終着なのだろう。
「ユータ! 端末だっ!」
「えっ!!」
周りを見回していたダストが不意に叫ぶ。彼が指差す先、壁にへばりつくような細い階段の上に小さな端末が確かに置いてあった。恐らくこの炉の制御を司っているのだろう。
「行け! ユータ!」
「う、うんっ!」
弾かれたように、悠太は階段を駆け上がろうとする。その瞬間、がんっ!!と凄い音がして、自分達が通ってきたドアの隙間が拉げ、大量のリバイブが突入してきた!
「させっかよ!!」
「ダスト!」
ダストが咄嗟に間に滑り込み、銃を振り回して退けた。その隙に悠太は階段を駆け上がり、端末に取りついた。
それは、この世界にしてはかなり旧式の代物だった。恐らく放棄されてからもう何十年も経っているのだろう。この世界の機器に慣れ親しんだ人間ならば、もう動かせないような、不親切な代物。だからこそこんなに無防備に残されていたのだろう。
「えっと…これって…」
しかしそれは悠太にとっては、まだ親しみがある方の部類だった。電源を入れ、通信が繋がっていることを確認する。慌てて学生服の下を探り、内ポケットに縫い付けられたマイクロチップを取り出した。
『絶対無くさないようにね』
そして、それをしてくれたのがもういない少女であることを思い出し、一瞬悠太の腕が止まった。
「がっ!!」
「!」
思考は一瞬飛んだだけだった。はっと下を見ると、ダストが沢山のリバイブを捌き切れず、階段に押し付けられていた。彼の首を押さえ、今まさに刃を突き立てんとしているリバイブが、シェイドであることに気付き。
「っ―――!!」
考える暇もなく、チップをスロットの中に押し込んだ!





―――――――――――――――――――





何か凄い音がしたような気がするが、気のせいだったのかもしれない。
完全に無音になってしまったせいかもしれない。
「………………」
何故か声を出したらいけないような気がして、悠太は息を詰めたまま階下を振り向いた。
シェイドが。沢山のリバイブが。
ある者は銃を構え、ある者は倒れ、ある者はダストを押さえつけたまま、完全に停止していた。
「ダス、ト」
よろよろと階段を降り、ダストの首に組み付いたままのシェイドの指を、一本一本外していく。案外あっさりとそれは解け、だらんと腕が落ちた。膝立ちの状態になったまま、シェイドは停止していた。
「ひゅ…げ、ほっ! は、ぇほっ!」
ようやく呼気の戻ってきたダストが派手に咳き込んだ。それでも、リバイブ達はぴくりとも動かない。
「ぁ…やった、のか?」
「た、多分…」
悠太の戸惑いがちの答えに、ダストは息を一つ呑んで頷くと、ポケットから最後の爆薬弾を取り出した。
「え、何?」
「決まってんだろ、この通路をぶっ壊す。あの端末以外ふっ飛ばしてここに沈めてやる」
かなりの量のリバイブがこの狭い通路に集っている。ここに落としてしまえば、もし機能が復活しても、新しいリバイブを一から作り出すのは時間がかかる。自分たちの有利に働くのは間違いないからだ。
「あ、ま、待ってくれ」
「あ?」
「それなら…」
悠太は立ち上がり、停止したままのシェイドの脇に後ろから腕を回し、ずるずると階段上まで持ち上げた。そんなに長い階段でもないので、重労働にはならなかった。目を見開いて停止したままのシェイドを端末下の床に寝かせ、すぐに下に戻ってきた。
「…お前なぁ」
不機嫌そうなのに口元が緩んでいる、何とも奇妙な顔で、ダストはしゃがんだまま悠太を見上げた。
「ご、ごめん。でも―――」
「行くぜ」
慌てて言い訳をしようとした悠太を放って、要の柱の部分に爆薬を取りつけると、すぐさまダストは外に走った。
「うわわわっ!」
慌てて悠太も後を追う。――――ギャズンッ!扉の隙間から悠太がまろび出た時、炎が部屋を覆った。