時計+人形

のんべんだらりんごった煮サイト

Revival.

レイの遺体は、結局部屋の片隅にシートを被せて寝かせることにした。埋葬の概念などこの世界には無かった。死体は全て掃除される、それだけの世界。悠太も決して神への祈りなど捧げられないので、ただ安らかに、と願ってそこを後にした。
ヴォーイも、見た目はいつもと変わらなかった。ダストとも普通に言葉を交わしている。今朝顔を改めて合わせたとき、「悪かった」「ああ」それだけで終わりだった。
三人で地下と地上の地図を見比べ、作戦を立てる。もう時間の猶予は無い。待っていたらこちらが刈り取られるだけだ。それならば、生き残る可能性が僅かでも高い、立ち向かう道を選んだ。
思い切って地上を歩くことにした。どうせ地下の方にもリバイブは詰め掛けているのだ、だったら歩き易いほうが良い。たった三人の進軍が続いた。
少しずつ少しずつ、螺旋を描くように中心部に近づいていく。途中の襲撃は、小さなものしかなかった。やはりまずは地下の掃討をと考えたらしい。中心部でも、警備が薄いところが多かった。
「…運が良いぜ」
残り少なくなったマガジンを確かめながら、ダストが呟いた。白く聳え立った尖塔。窓は一つも無い。入り口は、小さなドアが一つ。あまりにも単純な構造の、中心地。
「あの中全部が、ラグランジュだ。とりあえず中に入ったら、どこでもいいから端末を探す。出来れば見取り図が欲しいが、贅沢は言えねー。<反乱軍>はユータに任せる」
視線を送られ、ぐっと悠太は頷いた。
「それさえ出来れば、後はマリンと転送装置を探す。どれだけ保つかは知らねーがな。…ちっ、我ながら穴だらけの作戦だな。ここまでこれたのが御の字か」
自嘲気味に、三人で笑った。笑うしかなかった。却って気が楽になった。
「あ、なぁ。それって、ラグランジュを『壊す』為のものじゃないんだよな?」
不意にヴォーイが口を開く。
「あ? あっ、うん。停止させるだけみたいだ」
「今更何言ってんだよ。その隙に全部ぶっ壊しちまえばいいのさ」
呆れたように言うダストに、ヴォーイは縋るような目を向けた。
「あのさ…もし出来たら、で良いんだけどさ」
ヴィーッヴィーッヴィーッ!!!
「「「!!!」」」
ヴォーイの台詞を最後まで言わせず、警報が鳴り響いた! 塔の中からばらばらとリバイブが走ってくる。
「気付かれたか! …行くぜッ!!」
ダストの声とともに、三人は影から飛び出した。





熱線は、射出口を目線に合わせてから飛ぶ。そうすれば避けられる。
「っ…!」
ババババッ!!
危なっかしいながらも、悠太は射撃をかわした。間髪入れず、距離を詰めたリバイブが、レーザーの刃を振るってくる。半歩だけ横に動き、腕を押さえて引く。相手が体を崩した隙に、前に走る。
「はぁっ、はぁ…!」
付け焼刃ながらもダストに体で教えられた戦い方は、どうにか役に立っていた。
「急げ、ユータッ!」
先陣を切ったダストが、ベルトに挟んであった爆弾を入り口に向かって放る。
ギャズンッ!!
光と爆発が起こり、噴煙が上がるが、一見普通のガラスに見えるドアには煤がこびり付いただけで傷一つない。
「は、これぐらいじゃやっぱ無理かよっ!」
気にした風もなく、ダストはまた走り出す。
「どうするっ!?」
白い壁を背にして、ハンドガンで必死に応戦していたヴォーイが叫ぶ。
「決まってんだろ! 開かねぇ壁は―――」
ダストの目は、援軍のリバイブが乗っていたトラックに向けられていた。ダン! と地面を蹴り、フロントに飛び乗ると、至近距離で窓ガラスに向かってマシンガンを撃つ!
ガガガッガガガガ!
あっという間にガラスが白くなり、砕け散った。
「ぶち破るッ!」
運転席に滑りこみ、エンジンのスイッチを入れる。フィン、と小さな音を立てて浮きあがるタイヤの無い車のハンドルを思いきり回す。
キュオオオオオオッ!!
「げっ」
「わああ!?」
入り口にようやく辿り着いた悠太とヴォーイは、慌てて離れる。
「―――ッ!」
ダストが頭を下げた瞬間、ガシャガシャアアアアアアンン!!車はそのまま、玄関に突っ込んだ。一層大きな警報が鳴り響く。
「ダスト! ダスト大丈夫か!?」
辺りに散らばった強化ガラスの破片にびくつきながらも、悠太はひしゃげたドアの隙間から中に入りこんだ。
「いっ…つぅ〜」
がしゃがしゃとガラス屑をふっ飛ばし、運転席からダストが転がり出てきた。あちこちに小さい擦過傷はあるものの、大丈夫そうだ。
「はん、ざまーみやがれってんだ」
「本当、無茶するよ君は」
「るっせ。行くぜ、ユータ、ヴォ――――」
外を見遣ったダストの瞳が、大きく開かれる。その目線につられ、悠太も外を見――――、ひ、と喉を鳴らした。
ぴとん。ぴとん。
音と共に、嫌でも最近嗅ぎ慣れてしまった錆臭さが漂って来た。皹の入ったガラスの向こう側、そのガラスにブレードで縫い付けられた、ヴォーイの身体が、あった。伝った血が部屋の中まで落ちていたので、音が良く聞こえていたのかと、悠太はぼんやりと思った。
ず、る、と傾いだヴォーイの金色の頭の向こう。
完全に修理された、シェイドが立っていた。