時計+人形

のんべんだらりんごった煮サイト

The first victim.

バババババ…と小さな音が聞こえ、悠太は眉を顰めた。
「今…」
「聞こえたな。銃声だ」
「まさか…もう? いくらなんでも、早過ぎるわよ」
「否―――あのニュースで動き始めた者から、狙い始めたかもしれない」
「ちっくしょ…汚ぇマネしやがって!」
「………ひぅっ」
しゃっくりのような音がして、全員守るように囲んでいたマリンを見下ろした。かたかたと少女は小刻みに震え、眼を瞑っている。
「マリン、何か見えたのね?」
「……ゃ…いゃ…」
しゃがみ込んで目線を合わせようとするレイから逃げるように、何度も首を振る。困ったようにレイが他の面々を見上げる。
「…兎に角行くぞ。一旦地上に出た方が良いかもしれねぇ」
全員が早歩きをしようとした瞬間、バツンッ!! とサーチライトに照らされた。まばゆい光に、一瞬視界が真っ白になる。
「ッ―――、もうかよっ!!」ダストの叫び。そして全員が駆け出す!
ババババッバババッ!
熱線が下水の水面を叩いて煙を上げる。足元にまで熱を感じ、悠太は夢中で足を動かした。地上に伸びた梯子の一つまで辿り着き、まずレイが昇ってマリンを引き上げようとする。
「マリン、早く…」
「やああああっ!!」
大声だった。ぎゅっと両手で耳を塞ぎ、しゃがみ込んでしまったマリンを、ダストは無理矢理立たせてレイの懐にしがみ付かせた。
「行け! どっちにしろここもヤバいんだ! 先に行け!」
「わ、解った!」
尚も暴れるマリンを無理矢理抱き込み、レイが梯子を登る。
「ユータ、こいつらを頼む!」
「う、うんっ、ダスト達も…」
「大丈夫だ、行けッ!」
既にマシンガンを一丁渡されていた悠太は、それを抱えたままどうにかレイの後をついて行き、梯子を上って行く。しかしそこについに大量のリバイブが現れ、熱線が梯子に向かって放射される。バババババウッ!!ばつん!と熱によって梯子が切られた!
「ぅわ、ああ!!!」
「ユータァ!!」
レイの悲鳴が聞こえる。殆ど地上に近い所まで昇っていた二人は、大丈夫だったようだ。しかし悠太は落ちてしまい、床に強かに身体をぶつけてしまった。
「いっつ…! ユータ無事かっ!?」
「うぁ、っ、何とか…」
「仕方ねぇ、F2の方まで引くぞ!」
「おうっ!」
「了解した」
しかし兵士達は容赦無く弾幕をぶつけてくる。遮蔽の無い路地での撃ちあいが始まった。
「ダスト、使え!」
自分が持っていても役に立たないと察し、悠太は借り物の銃を手渡す。
「ありがてぇ!」
二丁のマシンガンを軽々と掲げたダストは、一斉掃射を開始する。
「弾寄越せッ!」
「あっ、これを!」
預かっていたヴォーイのハンドガン用のカートリッジを渡す。皆射撃の腕は確かなもので、リバイブ達を倒していける。しかし、どんどんリバイブ達は集って来ているのだ。しかも停止した個体を回収し、修理して更に増えていく。人間の体力ではとても太刀打ち出来ない。
「―――緊急プログラム作動」
全体の不利を一番に悟ったのはシェイドだった。ガシュウン!!身体全体に供えられた緊急用のエネルギーとエンジンを全て稼動させる。弾幕が切れた一瞬の隙を突き、ダストの首に腕を回し、更にその手で悠太の服を掴む。
「んなっ」
「えっ!?」
「シェイ…」
そして驚いた顔をしている主をもう片方の腕で抱え、反重力シューズを作動させる。信じられないスピードで下水の路地を走り出した!
「わ、うわわわっ!」
「てめっ、離せよ!」
「シェイド! シェイドどうしたんだっ!?」
誰の制止も受けつけず、F2エリアまで走り抜けると、地上まで繋がるドアの中に三人を放りこみ、閉めた。―――自分は、地下道に残って。
「シェイド! どうしたんだよっ!!」
ガンガンと金属のドアを叩き、ヴォーイが叫ぶ。
「…オーバーヒート。稼働率54%低下…レイ・ガンの使用不可能…」
全身の煮沸孔から湯気を立てて、シェイドの身体が傾ぐが倒れない。ドアを背にしたまま、只敵が追いつくのを待っている。
「何やってんだよ! 俺、お前に命令しただろ! ずっと俺と一緒にいろって! 聞けよ! 何でだよぉ!!」
何度もドアを叩きながら、ヴォーイが叫ぶ。まるで子供のような駄々に、涙が混じり始めていた。
「…緊急プログラム作動中…Sランク優先事項…マスターの生命維持…退避せよ…」
「シェ、イ…ッ、バカヤロウ―――!!」
「退避せよ…退避せよ…退避せよ…退避せよ…」
もう答えすら帰ってこない。元から調子の悪かった言語プログラムが完全に壊れてしまったらしい。全てを察したダストが、ヴォーイの腕を無理矢理引き上げる。
「行くぞヴォーイ!」
「嫌だ! 嫌だっ! アイツも一緒に―――」
「もう間に合わねぇ! 行くぞ、手伝えっ!」
「う、うんっ!」
「シェイド! シェイド! シェイドぉおおおっ!!」
泣き叫ぶヴォーイの両腕を二人で掴み、地上に向かって走り出し―――その瞬間、地下道では大量のリバイブがシェイドを囲んでいた。
ガシャガシャガシャッと銃が構えられた。それでも、シェイドは動かなかった。





――――――――バババババババババババババッ!!!





「シェイドぉおー―――――――ッ!!!」




銃声と、絶叫が響き。
自分の四肢が砕け、電子脳髄が破壊されても。彼は、その扉の前から、動かなかった。








銃を下ろしたリバイブ達が、その破片を回収していった。